劇場用再編集版『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』でウマ娘を知る
競馬を愛するフォロワーから「馬イイ話」を聴く機会があった。競走馬とジョッキーとの間に結ばれた友情や、数々の名勝負の裏に隠されたドラマチックな秘話などは、門外漢が聴いても驚き、感動できるものばかりだった。
その彼女が熱を上げて話してくれたのが、騎手・和田竜二さんと、愛馬テイエムオペラオーのお話。世紀末覇王と呼ばれた名馬と、それを乗りこなした人間との深い深い絆の物語は、思わずこちらも唸ってしまうような、奇妙でアツくて泣ける物語であった。して、それを見越しての話運びだったのかは定かではないが、そのテイエムオペラオーが活躍する映画が間もなく公開だと教えてくれた。それが、私とウマ娘の出会いになる。
X(Twitter)をやっていれば、ウマ娘を知らないということはあり得ない。ただ、なんとなくこのコンテンツを恐れていた節があって、どれだけ勧められてきてもアプリをダウンロードはしなかった。このウマ娘なる存在は、果たしてウマなのか、ヒトなのか。そもそもこの作品世界には我々の知る"馬”は存在するのだろうか。
……今思えば、それらは単にアプリを増やして可処分時間を注ぎ込み、元より遊んでいたコンテンツとの時間の食い合いや、どっちづかずになることが怖くて、それに対する言い訳だったのだろう。20数名のアイドルですら手に余っているというのに、ウマの面倒まで見きれるわけがないと、敵前逃亡。でもフォロワーのレコメンドが上手けりゃ(電車に乗ってまで)映画館にホイホイ行ってしまう。何だったんだ今までの苦悩は。
というわけで、主に今回、私は当初「テイエムオペラオーに会いに行く」というモチベーションでこの映画のチケットを購入した。そして、テイエムオペラオーさんは確かに銀幕の向こうにいた。
芝居がかった口調で、全てのレースが、全ての観客の歓声が自分を輝かせるためのものであると信じて疑わず、そのように振る舞う。それでいて、一緒に競い合うウマ娘へのリスペクトを欠かさないし、強さと優しさを内包する器の大きいウマ娘だった。私は自分の美しさや気高さを一番の自信だと本気で思っている人が好きなので、テイエムオペラオーさんのことは一瞬で好きになった。
だけど、いつしか目を奪われ、一回一回のレースに手に汗握り、幾度となく涙して、どのウマ娘をも抜き去って勝利してほしいと本気で思えたのは、ナリタトップロードちゃんだった。
本作の主人公ナリタトップロードちゃんは、その生き様も走り方も主人公のようだった。幼い頃から走ることが大好きで、でもその走りはどこか不器用。沖田トレーナーと出会って、自分の走りを改善して、また走る。休めと言われても走って、走って、負けたら悔しくて泣いて、勝ったら嬉しくて泣く。ひたむきな努力家で、自分の走り方を曲げない頑固者。こんなの、応援したくなるに決まってる。
事実、本作にはナリタトップロードのファンが大勢登場する。同じ学園(ウマ娘の学校!?と動揺はした)の友達に、商店街のみんな。街の人々の声援を受けながら走る様はさながら『ロッキー2』のようで、それがまた涙腺を刺激する。ナリタトップロードの人柄やひたむきさが描写される度に、みんながナリタトップロードちゃんのことを好きになってしまうのがわかるし、その声に応えたいと加速するウマの名前がトップロードなんて、出来すぎている。
そんな彼女が、トレーナーさんやファンの期待を背負って走るけれど、幾度となく競い合ったテイエムオペラオーやアドマイヤベガの背中を追う度に「勝ちたい」と意欲が強まり、そして「楽しみたい」という感情に至る。不安も緊張も全部かなぐり捨てて、可愛らしい顔を歪ませて、汗にまみれながらも一生懸命走る。そうか、これが『ウマ娘』のアツさなんだと、私はナリタトップロードに教えてもらった。
彼女が最後のレースに勝利し、観客席に感謝を告げた後、勝利の余韻に震えて涙するシーンが大好きだ。ファンが先で自分が後。ナリタトップロードちゃんは(もしかしたら史実の馬もそうだったりするのかな)、いつだって周りを見て、たくさんの想いを背負って努力できる人だ。本当に素敵だった。ナリタトップロードちゃん、ありがとう。
これからどうするかはわからない。ただ、本作上映後に流された『新時代の扉』の予告には彼女の姿があって、それはもう、観るしかない、というわけだ。私はもう、ナリタトップロードのファンの一人になってしまっている、らしい。
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