策略する兄、苦悩する弟『バーフバリ 失われた伝説 シーズン1』
僕は、ついてゆけるだろうか
公式からの供給のスピードに。
日本でも大ヒットを記録したインド映画『バーフバリ』。その前日譚となるアニメシリーズ『Baahubali: The Lost Legends』のDVDが日本でもリリースされた。発売はもちろん、日本での配給を務めた株式会社ツインから。映画本編と同じキャストを起用した日本語吹替え音声、特典映像にはラージャマウリ監督のメッセージビデオを収録という、完璧と言う他ないパッケージ化に、一介の日本マヒシュマティ王国民としては伏して感謝の意を示す所存である。
物語は、アマレンドラ・バーフバリが存命であり、『伝説誕生』で描かれたカーラケーヤとの戦よりも前の時代から始まる。国母シヴァガミより育てられた二人の王子、バーフバリとバラーラデーヴァ。シヴァガミは二人を次期国王に相応しき者に育てるため、新たな師匠プラダン・グルを招聘する。そのころ、マヒシュマティ王国内の国境には武装した無法者たちが蔓延っており、侵略の危機が現実のものとなっていた。隣国のラドラグニ国国王の来訪が迫る中、二人の王子に次々と試練が襲い掛かる。
本作は一話完結型でキャラクターたちの知られざる姿を描きつつ、同時にマヒシュマティ王国に迫る危機を連続したエピソードで見せていく。アマレンドラ・バーフバリの初恋、バラーラデーヴァの暗躍、カッタッパの英雄列伝、カーラケーヤの悲しい過去…映画では描き切れなかった深い内面や驚きの描写に、ファンは目が離せなくなるだろう。
また、王となるために二人に降りかかる困難は多岐に渡っていた。侵略から国を守るための強い力が常に求められるし、時に近隣諸国との折衝を経て信頼を勝ち取ることや、内乱を防ぐべく難民問題の解決も急務となる。古代の王国を舞台としつつ、描かれる諸問題は現代的であり、国を統べる者の素質に触れる台詞が多いことに、ある種のメッセージ性を感じずにはいられない。
そうした問題に対し、頭を悩ませ民の声に応えようとする者こそ、我らがアマレンドラ・バーフバリである。アニメのアマレンドラは、未熟さが見え隠れする若者でありながら、確かな強さと優しさを秘めた青年でもある。そんな彼は、隣国ラドラグニ国のヤマグニ王女に惹かれるのだが、そのことがやがて大きな試練として自身に降りかかる。常に民のための王族たろうとする姿は、映画で描かれた完全無欠の王アマレンドラ・バーフバリの面影を想起させ、様々な問題に立ち向かいながら王としての素質を開花させてゆく。真の王になるための物語が明かされていく本作は、さながらバーフバリの誕生譚とも言えよう。
一方のバラーラデーヴァは、王座への欲望を日に日に募らせてゆく。そして仮面の裏に心を隠し、友や父の前ですら本当の姿を見せることのできなくなった存在として描かれる。その生き方は、父・ビッジャラデーヴァも恐れるほどに強固なものである。随所にて描かれる幼少期では、戦を模して無邪気にバーフバリと遊ぶ傍らで、すでにこの頃から王座を渇望する心情が読み取れる。心の奥底に抱えた闇が一気に放出される1話終盤での、後に「暴君」と呼ばれるまでの本性の一端を晒し凶行に走る様は、悪役として非常に魅力的ですらある。
やがて成長したバラーラデーヴァは、バーフバリに負けず劣らず知力・体力共に優れた王子として君臨し、バーフバリを蹴落とすための謀略に心血を注いでゆく。真綿で首を締めるようにジワジワと相手を追い詰め、王座へののシナリオを着々と歩んでゆく。どんな時も味方だ、と語るその瞳の奥に燃え盛る欲望の炎に、未来の行く末を知る観客は震えるしかない。映画本編からは到底考えつかないような一面を見せたという意味で、バラーラデーヴァ王を称える民においてはぜひ見逃さないようにしてほしい。
若きアマレンドラとバラーラデーヴァ。王座を巡るドラマの裏で、着々と進行する王国の危機。プラダン・グルとは一体何者なのか。様々な陰謀が張り巡らされた本作は、国政を扱う重厚な作品であり、『バーフバリ』をより深く読み解くためのファンアイテムとして最高の一品であった。シンプルでありながら、決して子供騙しなどではない奥深いストーリーは、海外ドラマを思わせる宙吊りエンドも相まって、止め時を見失ってしまうほど。日本製アニメに見慣れた目ではやや貧相に映るのも確かだが、物語の骨太さで十二分に楽しめること間違いなし。
そしてなぜ本作が「シーズン1」と銘打たれているかをご自身でお確かめの上、さらなるバーフバリ伝説を渇望する日々をお過ごしいただきたい。アニメでも、王を称えよ!
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