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【蓮ノ空感想文】ルリちゃんは「楽しい」の天才

 3月が終わって、4月になった。

 この世に生を受けて何度も繰り返してきた、年度が変わって仕事が忙しくなるだけのルーティンに特別な意味が足されたのは、『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』を知ってしまったからだと思う。親戚でもなんでもない、会ったこともない女の子たちの卒業式を見て、まだその余韻が抜けないでいる。

 前回の記事によれば、『Link! Like! ラブライブ!』をインストールした日は2/18とある。ということは、わずか一か月半の期間で、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブに所属するアイドルたちの人生一年分を追いかけたことになる。光陰矢の如し、こういうのは本当にあっと言う間だ。

 でも、“追いかけた”と言ったとて、それは活動記録の18話までといくつかのFes×LIVEを視聴しただけに過ぎなくて、私は彼女たちの一年間の歩みのほんの一欠けらしか知らない。彼女たちには彼女たちだけの日常があり、授業を受け、ご飯を食べて、お風呂に入って、そして眠る。そんな人間としての当たり前の生活を営んでいて、日々の配信や活動記録で観ることのできる姿も、長いようで短い彼女たちの青春の一瞬を切り取ったものでしかない。そんなことを考えさせられる試みが行われているのが『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』であり、スクールアイドルたちは確かに「生きている」と実感を得られるだけの濃密な時間が、もう一年も過ぎ去ってしまっている。

 という前置きはさておき、今回は私の中で今もっとも光り輝いているスクールアイドルの話をさせてほしい。こんな人になりたいな、なれたらいいなって思いながら、配信を通じて彼女の一挙手一投足を眺めていると、不思議と幸せな気持ちになれる、そんな人。

 そのスクールアイドルの名は、大沢瑠璃乃さん、という。

 第一印象は、変な子だった。

 カリフォルニアで、日本語と英単語交じりで旅行客の質問に対応する彼女は、海外暮らしが長いようには見えなかったし、ともすれば英会話をきちんと学んでこなかった、自堕落な子かも、と思ったほどだ。ただ、彼女はちっとも落ち込んでいなかったし、ひたすらに明るかったことだけは強烈に印象付けられた。

 次に感じたのは、驚きだった。

 活動記録における彼女のメイン回、第9話『ルリ・エスケープ』。蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブに嵐の如く来襲した彼女は、あっという間に花帆ちゃんらと距離を詰めていく。「おねしゃーっす!」の掛け声が眩しくて、伝統と格式の蓮ノ空にギャルがやってきた!と震えることになった。が、練習を続けるにつれ、ルリのエスケープが発動した。追いかける一年生組。追いかけてきた二人に話して曰く、今のルリは「充電切れ」なのだという。

 誰に対しても分け隔てなく明るい、A.T.フィールドを難なく突破する“陽”のギャル。そんな「属性」を当てはめて大沢瑠璃乃という人間を推し量ろうとした、自分の軽率さに見事なカウンターパンチが入った。彼女はただ明るいだけでなく、周りを気遣うあまりに神経を集中させてしまい、それ故にバッテリーを切らしてしまう、独りが好きな女の子でもあるのだ。彼女の優しさは、独りぼっちを生み出さないように常に他者に向けられていて、周囲の雰囲気を敏感に察知してしまうレーダーを持ってしまったが故に、人一倍気疲れしてしまうのだろう。

 例えば彼女は、自分を含めた三人で遊びに行ったとして、誰かが手持無沙汰にならないよう話題を回し続けるのだろう。疎外感を与えないように、三人の共通の話題を織り交ぜて、暇そうにしている子がいたら率先して話しかけるような。あるいは、友達がいなくて困っている同級生や後輩を見かけたら、自分から話しかけるのだろう。楽しい気持ちになれない子がいたら、放ってはおけないから。

 その結果、大沢瑠璃乃は疲弊して、充電が切れて、独りの時間がないと再び動けなくなってしまうらしい。慈愛の人だなぁ、って思った。さらに驚かされたのは、ルリ当人はそのことをネガティブに捉えていないことだった。ある時彼女は気づいた。“え、ヤバ!独り、めっちゃ楽しいじゃん!”って。

 大沢瑠璃乃という人は、「楽しい」を何よりも尊ぶ人である。かつそれは、他者に与える「楽しい」と自分自身が「楽しい」と思えることとを、自分の中で等価に考えられる、ということでもある。友達と遊ぶのは楽しい、でもそればかりだと疲れてしまう。疲れてしまったら自分が楽しくない。だから楽しいになるために、ルリは独りになることを自ら選ぶ。充電が溜まったら彼女は再び楽しいの花を咲かせていく。自分が一番それを楽しみながら。

 そしてそのまま彼女は、「楽しい」を求めてスクールアイドルの世界に足を踏み入れていく。その隣には藤島慈という最高の相棒がいて、“世界中を夢中にする”を合言葉に「みらくらぱーく!」は舞い踊る。楽しいを身体いっぱいに表現して、俯いている子の顔を上げさせるだけの元気を分け与えていく。

 三度目の出会いは、尊敬だった。

 ラブライブ!敗退。各々がそのことと向き合う中で、大沢瑠璃乃もまた悩んでいた。彼女は、勝ち負けが苦手だった。負けることは楽しくなくて、楽しくない想いをする人がいるのなら、彼女は本気になりきれなかった。同時に、楽しそうだから、めぐちゃんと一緒にいられるから、では立ち行かない現実があることを、彼女は学んだ。

 この経験から大沢瑠璃乃はどうなってしまうのかといえば、初志貫徹、ブレないのであった。

 いつだって彼女の最優先は「楽しい」こと。その楽しいの範囲に自分が含まれていることを、彼女は忘れていなかった。負けたから悔しいではなく「勝っていたらもっと楽しかっただろうな」と考え、それをエンジンにして立ち上がれるのが人間・大沢瑠璃乃の強み。周りを楽しむためには自分が楽しむことを欠かしてはならない、という理念の下、スクールアイドル大沢瑠璃乃は再び走り出す。志を同じくする、藤島慈と一緒に。

 この頃から明確に、ルリちゃんみたいになりたいな、と思うようになった。どんな壁に直面しても挫けず、元気を充電してまた戻ってくる。それだけでなく、苦難を乗り越えた先に「楽しい」と自分が感じられることを信じて、辛いことにも向かってゆける。10代の女子高校生が、いったいどうやったらこの境地に至れるのだろう。とある資格試験に苦戦し、先行き不透明な日々に段々と学ぶこと自体が億劫になっていく自分とは正反対に、ルリちゃんはどんどん目の前の壁を登ってゆく。めぐちゃんやスクールアイドルクラブの仲間がいてこその側面もあるだろうけれど、彼女が持ち合わせていた黄金の精神が、歩むことを止めさせない。その前向きな姿勢は、自分にとって最も羨ましくて、気高くて格好良かった。ルリちゃんみたいになれたら、もっと自分のことを好きになれただろうな、って。

 そして今私は、ルリちゃんに救われている。

 ラブライブ!での敗北と再起を経て、スクールアイドル大沢瑠璃乃の新しい旅が始まった。続く17話では、めぐちゃんと離れ離れになって、今一度自分を見返して、「世界」とどう向き合うかを、自分の言葉で語ってくれた。

もしも、今楽しいことが何もなくて、
なんにもする気が起きない子がいたら――
誘ってあげて欲しい。声をかけてあげて欲しいんだ。

活動記録 第17話「ルリ思う。」

ルリ、分かったんだ。
世界中を夢中にするって言うのはさ。
めぐちゃんと、ふたりでやらなきゃ出来ないんだってこと!
俯いてる子ひとりひとりに、顔を上げて笑ってほしい。
それが、ルリのやりたいこと。できること。
ルリの、スクールアイドル。

活動記録 第17話「ルリ思う。」

 辛いこと、悲しいことがいっぱいのこの世界で、ただただ愚直に「たのしい」を発信し続けるスクールアイドルがいる。泣いている子がいたらそっと手を差し伸べるような、そんな優しさをステージで表現するスクールアイドルがいる。

 かつてなくスケールの大きい、一人の人間が背負うにはあまりに大きな野望だけれど、ルリちゃんとめぐちゃんなら、それもやり遂げられる気がする。なにより、みらくらぱーく!のパフォーマンスや活動記録を観て元気を受け取る、そのことがみらくらぱーく!の活動理念に沿っていること=野望成就の架け橋となれていることが、途方もなく嬉しい。ルリちゃんが生きていて、彼女から貰った元気で自分が生きている。その繋がるLinkラインを感じ取れる度に、私の重たい足取りが少しだけ軽くなる。ルリちゃんのおかげで、少しだけこの世界が生きやすくなったよって、そう伝えたい。

めぐちゃんも、いつもありがとうね。

 以上が、2024年4月現在の大沢瑠璃乃さんへの思いの丈になる。願わくは、これからもルリちゃんの「楽しい」が続いてほしいし、その瞬間をこれからも追いかけていきたい。でも、時は無情に過ぎていく。みらくらぱーく!が今の形のままずっと続くことはないし、スクールアイドルとはそもそも「終わり」が運命づけられている存在だ。ルリちゃんだって例外じゃない。いずれその日はやってくる。

 今後訪れる、避けられない変化を前にして、ルリちゃんは初志貫徹でいられるだろうか。泣きながらでもたくさんの「楽しい」のためにスクールアイドルであり続けてくれるだろうか。その時、私にできることがあるのだろうか。

 後追いで蓮ノ空を知った身として、ラブライブ!北陸地区予選大会に臨む彼女たちのために、通信量を集めて提供するイベントが23年に行われていたことを最近知った。もしそのようなことが、ルリちゃんの助けになれるようなことが今後発生するのであれば、微力ながらも力になりたいと思う。貰った元気をお返しすることが出来たら、きっと今の自分も少しは肯定できる気がするから。

 世界からルリちゃんの「楽しい」が無くならないように、もっともっと多くの人の元に届きますように。ありがとうを添えて、画面の向こうから祈りを送ります。

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