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またしてもコードギアスに騙される喜び。『コードギアス 奪還のロゼ 第1幕』

 お久しぶりです。
 令和コードギアス初見オタクです。

 コードギアス。長年、タイトルは知っていれど観ていなかった作品群の最古参にリストアップされていながら、フォロワーの強烈なプッシュによって一気にゼロレクイエム、そして復活までを見届けたのが三年前で、このコンテンツに関して自分は新参もいいところ。

 なればこそ『奪還のロゼ』の発表には胸が踊った。生まれて初めての「みんなと同じスタートラインで楽しめるコードギアス」の誕生である。劇場4部作(後にDisney+独占配信)という形態ではあるけれど、早くこの盛り上がりに参加したくて、劇場を出た熱量そのままに今、これを書いている。

 『コードギアス』の面白さとは、やはり「騙される」ことなのだと、今回改めて理解した。かつてルルーシュが、世界そのものを騙し、欺き、そして犠牲となったことで世界は大きな変革を迎えた。そして、彼の頭脳と機転に翻弄されたのは、作品世界に生きる登場人物だけでなく、この物語を見守る私も例外ではなかった。次週への強烈なクリフハンガーを何度も何度も繰り出してくる『コードギアス』に幾度となく余暇時間を奪われ、常にこちらの予想を上回るルルーシュの計略に気持ちよく出し抜かれ、悪のカリスマに惹かれていった。

 して、『復活』のその後を描く『奪還』は、まさしくこの「コードギアスに騙される喜び」に満ち満ちた作品であった……少なくとも第1幕(1~3話)においては、だ。みんな、これを毎週味わっていたのか、日曜の夕方5時に。凄く、羨ましい。そして、今回から私も仲間に入れてほしい。いやぁ、面白かったですね、奪還。

※以下、ネタバレを含む

試される大地、北海道

光和7年、ネオ・ブリタニア帝国に占領された合衆国日本・旧ホッカイドウブロックに、「ナナシの傭兵」として知られる傭兵兄弟がいた。
非常に優れた運動能力とナイトメアフレームの高い操縦技術を持つ兄のアッシュ、頭脳明晰で情報収集、作戦指揮を担当している弟のロゼ。
シトゥンペバリアと呼ばれる難攻不落のエネルギー障壁により4年間、
黒の騎士団の解放作戦を退けてきた第100代皇帝カリス・アル・ブリタニアと、
彼に仕えるノーランドら皇帝直属の騎士アインベルク達は、再び世界を混乱へと陥れようとしていた。
依頼を受けたロゼとアッシュは、日本人レジスタンスの七煌星団と共に、皇サクヤ奪還のため、ネオ・ブリタニア帝国に立ち向かう。

公式サイトより

 『コードギアス』の続編が作られる、というのは喜ばしい反面、残念に思う部分もある。あの世界のその後が描かれるということは、ゼロレクイエムによって創られた平和が、何らかの理由によって瓦解することを意味するからだ。

 その意味で、個人的な鑑賞前の最大の関心事である「なぜ再び日本を占領しようとしたのか」については、残念ながら第1幕では深く描かれなかった。公式Xでのキーワード解説によれば超合衆国の統合に応じなかった国が「ネオ・ブリタニア帝国」の前身となったようだが、第100代皇帝カリスの幼さと年相応の臆病さと純真さが垣間見られたシーンを思えば、彼が悪逆非道の首魁とは思えず、裏で何者かの意思があったと考えられる。

 その真意は後の話に期待するとして、今回ネオ・ブリタニアの標的に選ばれ、そして不当な扱いを受けているのが日本の北海道、というのは個人的には興味深い。

公式Xより

 歴史の授業で習った程度の知識(それすらうろ覚え)だが、北海道はアイヌ民族が集まる地域であり、本州に住む者=和人からは蝦夷と呼ばれた土地であった。和人は北海道の産物やアイヌの文化品などを求め交易が始まり、アイヌは富を得る。

 ところが、一部地域では蝦夷に上陸した和人の支配が強まったことで「コシャマインの戦い」が起こるなど、和人に対する不満は募り始める。その後、松前藩が交易を独占したことでアイヌは不利な条件での交易を強いられることになり、さらには和人のアイヌ生活地域への侵入などが蝦夷の民を苦しめたという。

 そうした和人への不満が行き違いを生み、教科書でも有名な「シャクシャインの戦い」が起こり、江戸幕府はこれを鎮圧。その後も国(幕府)主導の蝦夷支配は続き、先住民に対する不当な支配や搾取と呼ぶにふさわしい出来事が、悲しきかなこの国の歴史として刻まれている(参考:国土交通省 北海道開発局 ホームページより)。

 史実は自国から一領土と先住民に対する支配と搾取であり、本作で描かれる対立構図とは異なる。よって、これは私の強引なこじつけになってしまうが、不当な扱いを受ける民族のレジスタンスを題材にしたアニメの舞台が北海道というのは、実際の史実を踏まえてのものなのではないか、と思った次第である。果たしてホッカイドウはネオ・ブリタニアの理不尽な暴力に、あるいは「同化政策」に屈するのか、それとも―。

世界を騙す。視聴者を騙す。

 『奪還のロゼ』は配信アニメのフォーマットを取っており、毎話毎話に強力なフックが用意されている。次回も見逃してはならぬ!と視聴者に思わせるだけの、強烈なクリフハンガー。そしてそれは、前述した『コードギアス』という作品の醍醐味を生み出すための「」で彩られている。

  • ロゼの正体は男装した皇サクヤ本人である。

  • 網走にて幽閉されている皇サクヤは影武者のサクラである。

  • ロゼとアッシュは本当の兄弟ではなく、アッシュを従わせるためにロゼがギアスで植え付けた偽の関係性である。

  • ロゼ(サクヤ)はサクラ奪還後、父の仇を自称するアッシュを殺す気でいる。

 第1幕だけでも、これほどまでに入り組んだ嘘が次々と明かされ、事前情報とのギャップに大いに驚かされた。囚われの姫を救う物語のはずがその実態は姫本人が影武者を救う話であり、兄弟という大前提すら覆され、あまつさえロゼ(サクヤ)は憎き親の仇(を自称する男)と行動を共にして、ギアスで従わせた上で使い果たした後は殺す気でいるのだ。

 ロゼは出自を隠しながらレジスタンスの(事実上の)先鋒として頭脳を振るい、参謀としての地位を確立する。チェスというわかりやすいオマージュもあり、彼(彼女)は今作におけるルルーシュ。アッシュは卓越したナイトメアフレーム操縦技術を持ちつつ、ロゼとの緊張感ある関係性と、すでにギアスをかけられているところからも枢木スザクのポジションであり、仮初の兄弟ということでロロの印象も被る。あえて『反逆』の構図を模したと思われる二人の主人公は、いずれ暴かれるであろう「嘘」の十字架を背負ったまま、最強の傭兵としてネオ・ブリタニアに反旗を翻していく。

 アッシュの生殺与奪を握っているように見えるが、L.L.=ルルーシュのものと恐らく同じであろう絶対遵守のギアスは「同じ相手には一度しか使えない」という制限があり、ロゼと弟と認識するギアスがかけられているアッシュに対して、ギアスを用いて自害を強要することができない。よってロゼは自らの手を汚すしかないのだけれど、これから力を合わせて死地をくぐり抜けるであろう偽の兄を、彼女は殺せるだろうか。サクヤとしての姿に恋い焦がれる青年を、その手で亡き者にできるのか。その緊張感を常に孕みながら、物語は前に進んでいく。

 今回でも繰り返されたように、ギアスとは持つ者を孤独にする異能である。本当の姉妹のように大切に想うサクラも、自分の駒として手元に置いているアッシュも、いずれロゼ=サクヤの元を離れるかもしれない。恐らく、ルルーシュが経験したような、残酷な形で。

 それが繰り返される定めだとすれば、『奪還』と銘打たれた作品にも関わらず、ロゼは本当に取り返したいと願ったものが自分から遠ざかっていくという、過酷な運命が待ち受けているのかもしれない。それはまるで世界を、他人を欺き続けてきた罰であるかのように、それを受け入れることでしか落とし前はつけられないのかもしれない。

 それでも、ギアスを手にした瞬間から、ロゼ=サクヤはもう止まれないのだ。世界の全てを欺いてでも奪い返さねばならないと決心し、人智を超えた力に手を染めた以上、後は行くところまで行くしかない。ルルーシュのような覇道を往くこともままならず、最も身近な兄弟までをも騙し抜かねばならない彼女の呪われた旅路に、赦しが訪れる日はやってくるのか。

 その答えは数カ月後、劇場かDisney+で確かめる他ないのである。

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