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我々は試されている。『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』

 『KING OF PRISM』の新しい劇場作品が公開された。これがどれだけ凄いことなのかは、シリーズを追ってきたファン、通称“エリート”でなければ、あまり実感ができないかもしれない。公開初日の都内は台風が接近し荒れ模様の天気だったと聞くが、劇場では通常・応援上映共に座席が埋まっている様子がTLを賑わせていた。もはや自然災害では防ぎきれないほどにエリートたちの熱量は増しているが、その動機は新作が観られることの喜びと同時に、焦りでもあったりする。

 事前の報道では2019年のTVシリーズ『-Shiny Seven Stars-』を再編集し新規シーンを追加したものとして打ち出されていた本作だが、その実態は実際に鑑賞して初めてわかった。それは、作中のプリズムショーチャンピオンシップ「PRISM.1」をTV中継する生放送番組として再構成する、という手法である。

 よって、『Shiny Seven Stars』におけるプリズムショーを数珠繫ぎとし、立木文彦氏によるナレーションをブリッジとして、本作はショーを乱れ打ちしていく。一つのパフォーマンスが終わり、点数が発表され、また次のショーへ。プリズムスタァそれぞれがどんなドラマを経て今回のパフォーマスに至るのか、という物語要素を全て捨て去り、プリズムショーの競技性に特化した本作は、前回の『-プリズムショー☆ベストテン-』がファン投票の結果発表というイベント性が濃かったため、同じ総集編映画でも全く性質の異なるものとなっている。本作の7~8割が既知の映像なのに、感じ方がまるで別次元なのだ。

 視聴者目線で振り返ると、「PRISM.1」ほど観ている人に優しくない競技はないだろう。音声トラブル、乱入、停電、パフォーマンス中に演者が突然落下と、およそ安全性や会場セキュリティが確保されてるとは言い難いし、一つの番組で中継が3度も止まるなど、TV局は苦情の対応に追われたに違いない。その合間に、押しも押されぬ人気ユニット「Over The Rainbow」による狂気の沙汰としか形容できないCMが挟まり、余計に頭が混乱してくる。ショーとショーの合間を詰めた分、キンプリらしいライド感はより高まり、脳が追いつかずにショートしていく。古参のエリートでも、本作を初めて観た際は、大いに困惑したのではないだろうか。

 スポーツ観戦のような再構築によって、キンプリ未見の方にも入門編として薦めやすいはずだが自信が無くなってきた本作だが、エリート向けの新規要素ももちろんあって、大きな目玉の一つが高田馬場ジョージ初のCGショーである。

 彼のショーは、エーデルローズの皆のそれとは異なるものであった。エーデルローズのスタァは、自らの葛藤を乗り越え、その心情や世界観を活かしたパフォーマンスを行い、舞台もそれに引っ張られることが多い。ところが、高田馬場ジョージのショーはPRISM.1の会場が異世界に変わることなく、そしてどのスタァよりも観客との距離が近いものとして映し出される。

 言ってしまえば、彼のステージは「アイドル」としてのそれなのだ。シャインに乗っ取られたシンが「自分勝手なショーをしてすみません」と謝罪するが、プリズムスタァのショーとは本来、スタァ本人の世界観にどれだけ引き込むかが勝負の分野であり、大なり小なり"自分勝手”なものなのだ。

 しかしそれを、高田馬場ジョージはひっくり返す。この映画のハイライトは間違いなく、「ジョージが私を見た!!!!!!!」と錯覚させる、あの一瞬のカットだ。あれ一発で、法月仁に彼が選ばれた理由をエリートは察するのである。池袋エィスなしではスタァたり得ないと思っていたはずの彼は、歌声が欠けても“Show Must Go On”の精神でアイドルをやってのける、そんな肝っ玉の持ち主だ。私は、高田馬場ジョージのことを知ったつもりで、この4年間を過ごしていたのだ。猛省。

 そんな楽しいびっくり箱のような本作はしかし、スクリーンの外ではかなりの緊張状態が続く。「未来に繋がる ROAD SHOW」というキャッチコピーが脅しとして受け取られたことも数ヶ月前の笑い話だったが、菱田監督のツイートを読む限りではそれはもうマジのマジらしく、本作が『KING OF PRISM』シリーズの今後を占う重要作だという現実が襲いかかってくる。しかも本作、エンドロール後の実現するかは現状わからない予告映像によって脅しの範囲が広がってしまうのである。そ、そこまで背負わされちゃってるんスか、おれたちの肩に……??

 こうなってくると、我々エリートがどれだけリピートを重ねられるか、この異様な熱量がどれだけ新規のお客さんを引っ張ってこられるかに、今後の未来がかかっている、ような気がする。今に始まったことではないが、『KING OF PRISM』は宣伝をファンに頼る比率が多くなる節があり、その勢いは今が極限なのかもしれない。もういっそ直接的なクラウドファンディングをしてくれた方がお金が集まる気もするが、消費者には見えない都合もあるのだろう。

 今思えば、「プリズム☆アフレコの受付判定が短い」「CMソングに歌詞が表示されない」「50回もじゃんけんを持ちかけられる」のも、リピーターを期待しての措置としか見えなくなってきた。それに乗っかって楽しむか、ふざけんな!!になるかは人それぞれだと思うが、大好きなコンテンツの存続を人質に取られるという摩訶不思議な状態は、今しか味わえないし、その結果がハッピーエンドになるか否かの答えは、俺たちにかかっている。

 ……というわけで、ここまで書いてきたことは何の意味を成さず、言いたいことはただ一つ、『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』を観てください、である。今はそれしか、未来へつなげる策が思いつかない。

↑こちらも書きました。併せて、よろしくお願いします。

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