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もらった勇気で、飛べるよどこまでも。『アイカツ!』全178話を走り抜けて。

 やり遂げた。アニメやゲームを完走した際の達成感と寂しさは何度も経験したけれど、一つの作品で178話となれば感じるものも大きくなる。『アイカツスターズ!』の1話を観たのが21年の7月26日ということで、思えば遠くまできたものだ。登った崖から見上げた空は、いつだって快晴である。

 私はまだアイカツ!初心者なので、アイカツ!に通底する哲学については、まだ理解が及ばないところが多いと思う。いわゆる「三位一体」へのこだわりも薄いし、SHINING LINE*が何であるかをうまく説明できる自信はない。だからこそ、私個人がこの全178話+劇場版から受け取ったものを飾ることなく出力することでしか、アイカツ!の話をすることしか出来ない。間違っているかもしれない。それでも、完走まで見守ってくれた諸先輩方への感謝を添えて、書き殴ってみたいと思う。

憧れを渡していく物語

 正直に打ち明けると、『アイカツ!』を鑑賞していく中で、モチベーションを何度か見失うことがあった。酷い時は一週間くらい履修をお休みしたり、無印にノれないことを有識者に相談したこともあった。

 それは仕事の多忙などの外的な要因もあったのだけれど、大きかったのは「縦軸」を見つけられない時期があったから。話数に余裕があるからなのか、アイドル個人の問題や課題を描いたり、その時々のお仕事の描写はアイドルの数だけ存在しているものの、それらが独立したエピソードの集合に思えて、心に深く刺さること無く惰性で視聴話数を足し算していく毎日。

 ところが、そんな意識が覆りブーストがかかったのは、いちご世代の物語も一区切りを間近に控えた90話付近から。『アイカツ!』とは星宮いちごらの世代を前面にした物語でありつつ、その実裏で着々と描写されていたのは、人知れぬ努力と孤独によって形作られたトップアイドル・神崎美月の在り方だった。突拍子もリアリティもかなぐり捨てたかのようなトライスター結成周りの展開も、結成と解散を繰り返して周囲と視聴者を振り回してきたのも、全ては彼女自身が追い求める最高のステージと、ひいては「勇退」のため。つまりこれまでのアイカツ!とは「神崎美月を孤独から救う物語」と読み解くと、全てが一つの線で繋がり、これまでのステージも練習も何気ない会話も、全てが意味を帯びてくる。名曲『カレンダーガール』の歌詞を借りるのなら「何てコトない毎日がかけがえない」のである。

 星宮いちごと神崎美月の対話の物語は101話までと劇場版を通じて語られ、102話からは世代交代してのいわゆる「あかりGeneration」が開幕。いちごに憧れすぎるあまり、いちごの背を追ってばかりいた大空あかりは、氷上スミレや新条ひなきをはじめとする同級生たちと切磋琢磨していく中で、自分らしいアイカツをコツコツ積み重ねていく。

 決して技能面で優れているわけでも無い(いちごは天才肌タイプだ)あかりはスペシャルアピールも任意に出せず、故に人一倍努力を重ねるしかなかった。一度スターライト学園の入試に落ちて、母親の前で涙を見せていた少女は、もし何かのボタンが掛け違えていたらアイドルとして日の目を見ることはなかったかもしれない。それでも前向きに突っ走る彼女の明るさがお天気お姉さんとしての(いちごとはまた別の)個性へと結びつき、やがては“星宮先輩”のいる頂まで登りつめる。その長い長いドラマは、全178話の積み重ねがあってこそ、莫大な熱量でこちらの涙腺に迫ってくる。

 個性。後の『アイカツスターズ!』における四ツ星学園の基本理念でもあるそれが、「あかりGeneration」とされている後半戦の縦軸であると考えている。自分の得意分野とパブリックイメージの狭間で揺れた氷上スミレ、過去の経験から自分の意見を放つことをセーブしていた新条ひなき、二人で一人が当たり前だったののリサがとくに際立つように、自分のやりたいことや自分らしさに悩みを抱えた少女が、苦悩の中で自分だけの道を見つけ邁進する。その連続を描く過程でみくるが「後悔を残さないこと」をひなきに説いた(169 話『ひなきミラクル!』)のも意味があって、若く未熟なアイドルの卵たちが「自分らしいアイカツ」を見つけ勝負に挑むことに重点を置いたことは“星宮いちごのコピー”から始まった物語の終着駅として納得のいくものだった。

 このように連綿と描かれていた点と線は、アイドルとして輝く者と、それに憧れてアイドルを目指す者の流れであることに気づかされる。マスカレードから始まったバトンが神崎美月へ渡され、美月に憧れた星宮いちごがそれを受け継ぎ、大空あかりの世代へと渡って、ののリサが生まれる。このように、憧れから生まれた初期衝動を原動力に、たゆまぬ努力と成長を重ねる少女たちの日常を3年半(178話)という長大なボリュームで描くことで、最終的には大河ドラマのような大きな相関図が形成されていく。

 おそらく『アイカツ!』とは「遅効性」の物語なんだと思う。日々の練習もお仕事での経験も、それ単体で完結していたはずの小さな出来事は着実に夢に向かって突き進む一歩として積み重なっていて、その集大成がトゥインクルスターカップやスターライトクインカップといった場で結実する。私たちはその歩みに「物語」を感じ取り、夢の実現への階段を応援するために推していく。これまでアイドルにハマったことがない身として、ようやくアイドルファンという生き方が理解できたような気がする。そしてその応援が現実を生きる活力になったり、あるいはアイドルを目指す原動力になったのだとしたら、『アイカツ!』もまたアイドル賛歌の物語として大きな役目を果たしているのだろう。

 作劇として当たり前のことに思えるけれど、視聴者の納得を促すための流れを作るのは至難の業だし、アイドルの数と関係性が増えるほどに難易度は上がっていく。それでも、(個々人で描写の差がかなり開いたのは事実だが)数多くのアイドルが登場しそれぞれの夢に向かっていく姿を繰り返し描いたからこそ本作は「きっと誰かが刺さる」内容になっていて、思い入れが強くなるからこそ『アイカツ!』が大切なものになっていく。決して万人に容易く薦められる話数ではないけれど、この積み重ねにはちゃんと必然性がある。なればこそ、私たちは「アイカツ!を観てほしい」と思ってしまうのだ。

推しカツ

 本当はアイドル一人一人をピックアップした総括を書きたいところだけれど、流石にキリがないので、個人的な推しエピソードを列挙してみようと思う。思い入れと、推しへの愛ゆえの偏向込みで、振り返ってみたい。

40話『ガール・ミーツ・ガール』

 アイドル・霧矢あおいが生まれた日の物語。『アイカツ!』とは神崎美月に憧れた星宮いちごの物語であり、霧矢あおいから星宮いちごへの矢印の物語でもある。いちごの天性にアイドル性が幼少期から発せられていたという運命的な(遺伝的な?)要素と、それに魅入られ人生を変えられた霧矢あおい。アイドル博士の異名を持つあおいの原初のアイドルが誰なのか、という意味でとても意義深いエピソード。ジョニー先生のギャグ要素も濃くて良い。

47話『レジェンドアイドル・マスカレード』

 完全無欠の神崎美月が、ついに過労ゆえ倒れてしまう。そんな窮地を救うのが、伝説のアイドルユニットのマスカレード!織姫学園長&りんごママがついにステージに立つわけで、仮面というモチーフゆえに漂うそこはかとないお色気感がちょっとくすぐったい。と同時に、美月にとってもアイドルの原動力たるマスカレードのパフォーマンスを見て奮い立ち、自身もステージに立つあたり、『アイカツ!』の基本理念を遵守するところも美月様が美月様たる所以だろう。

50話『思い出は未来のなかに』

 説明不要かつ号泣不可避。別れの予感を湿っぽく描かないBパート中盤までと、ライブステージを挟んでからエンディングまでの演出は振り切りが良すぎて問答無用で泣かされてしまう。いちごがソレイユを大切に想う気持ちをしっかり描きつつ、蘭との温度差を気にすることなくいちご⇔あおいの関係性にフォーカスする製作陣の、なんと信用できることよ。

89話『あこがれは永遠に』

 号泣枠その2。藤堂ユリカは「ユリカ様」という仮面を被ってステージに立つアイドルであり、そうでない姿を晒されることがスキャンダルとして描かれてきた(20話)。そんな彼女がとあるファンへ飾らぬ想いを伝えるべく奔走するこのエピソードは、ユリカ様の生き様を描く上で欠かせない名言を残している。

もしも今とは違う自分になりたいなら、
まずは少しだけ自分を変えてみるの。
いつもより10分早起きするとか。

89話『あこがれは永遠に』

 アイドルという仮面を被るという意味で言うと、私の担当アイドル黛冬優子(アイドルマスターシャイニカラーズ)も似たような側面を持っているが、冬優子は「アイドルとしての自分しか見せてあげない」ことに責任と覚悟を負っているのに対し、ユリカは敢えてアイドルではない姿を晒すことでファンに勇気を与えようとする。これは優劣ではなく、生き様としてどちらも気高く格好いいと思うし、なりたい自分へのアプローチを語る上でキャラクターを背負っているユリカが誰よりも適任であるという作り手の意図もとても誠実に感じられた。

97話『秘密の手紙と見えない星』

 霧矢、すきだ……!!という私の報われない恋が始まったお話

 大空あかりが傷だらけでも訓練を続ける中、メンターとして接するいちご。いちごは直接的な手ほどきの代わりに、自身がアメリカに住んでいたころに持ち歩いていたあおいからの手紙の話をする。

 それを開封していなかった(特にへこたれていなかった)いちごの強さはかなりのものがあるが、それを大切に持ち歩いていたといういちごの気持ちが、電話を待ち続けていたあおいには届いていたのだろうか、と思うと胸が締め付けられて辛い。もちろんそこには幼馴染としての信頼と愛があってのことで、外野が何を見出しても叶わないし、その想いが報われる100話の感動への布石となっている。あおいっ……!!

99話『花の涙』

 神崎美月を孤独から救ったのは星宮いちごともう一人、夏樹みくるであることは言うまでもない。元々アイドルですらなかったみくるとの出会いが美月に衝撃を与え、みくるもまた美月と対等に肩を並べる実力者へと成長した。そんな中、誰よりも先に自身の夢、ステージの「その先」を見つめることができたみくると、その背中を押すように伝統芸「解散」を発動する美月の深い愛が胸を刺す。後の101話において別れを前に涙を一筋こぼす美月は、これまでの何もかも背負いすぎる姿とはまた別の印象を抱かせており、美月にとっての夏樹みくるの存在の大きさに想いを馳せてしまう。

116話『大空 JUMP !!』

 大空あかりが個性に辿り着く物語。実は彼女がお天気キャスターを選ぶという展開がとても気に入っていて、実際のキャスターのお姉さんと出会って「プロ」の職業意識に触れ、自分の中のアイドル像と結びつけた上でその仕事にきちんと向き合う。時折あかりが早朝4時に目覚まし時計をセットしている演出があり、トレーニングとお仕事を両立するために手を抜いていないという描写が彼女の真面目さや熱心なキャラクター造形にリンクしていく。
 元気を届けるというあかりのお天気キャスター像が彼女のアイドルとしてのスタンスとしても重なるし、毎朝テレビで見かける存在として市井の人々に顔と名前を覚えられ人気者になる、というところも違和感なく飲み込める。あかりちゃんの声を聴いて学校や職場に向かう朝は、どんなに晴れやかだろう。

125話『あこがれの向こう側』

 説明いる????????



 
まぁ一応していくと「101話と劇場版までを総括してのソレイユの物語の完結編であり大空あかりへとバトンを渡し真の世代交代を果たしつつ今後カレンダーガールを聴くと膝から崩れ落ちてしまうようになる24分間」である。このエピソードの殺意の高さ、伝説だと思う。

150話『星の絆』

 125話で前シリーズの清算は終わった……と思わせてもう一つ、トライスターが残っていた。美月とユリカとかえで、それぞれが小さな禍根を残してしまったところを、ユリカとかえでが正面切って再結成を直談判し、美月もまた織姫学園長に相談する形で晴らそうとする彼女たちの誠実さの描写がとにかく好き。それでいて久しぶりの三人のステージの圧巻のパフォーマンス。美月が柔らかくなったな、成長したな、という気持ちにさせてくれた。

165話『ルミナスクリスマス』

166話『私が見つけた最初の風』

 氷上スミレ。登場初期と比べて口数も増えたし、感情をさらけ出す機会も増えてきたように思う。それは間違いなくあかりやひなきとの出会いがもたらしたもので、彼女の歩みを前向きなものとしてくれている。

 そんな彼女が、どんなスターライトクイーンになりたいかを悩み、決断する物語。同性すら見惚れてしまう美しい容姿が強調されていた彼女が、それでも自分の望む形で、即ち「歌」で勝負する意思を固めるのは、スターライトクイーンを決める一戦のみならず「アイドル・氷上スミレ」の指針を定める儀式であり、前述した「個性」を巡る物語の完結の中で先陣を切る意味でもとても象徴的なエピソードだった。ドレスと楽曲の荘厳さはもちろん、満面の笑みを見せるスミレがとても眩しい。

173話『ダブルミラクル☆』

 WM!????!???!???!?!?!????

 
というわけで、WM一夜限りの再結成。そのステージへの注目度の高さ、ジョニー先生の(最後の?)大立ち回り、エプロン姿の霧矢、WM再結成をユリカ&かえでに伝える美月の成長、みくるの頼もしさ、エプロン姿の霧矢、WMのステージを見上げるいちごの表情などなど、見どころが多くて語り尽くせない。やっぱり私は夏樹みくるに恩義を感じている。美月を救ってくれて、隣にいてくれて、ありがとうございました。

177話『未来向きの今』

 ついに始まるスターライトクイーンカップ。いよいよ大詰めとなる最中、氷上スミレは前人未踏のSA ランクアピールへ挑戦するも、失敗し優勝争いからドロップアウトしてしまう。

 哀しみと驚きに包まれる中、あかりはステージに立つ。瀬名翼が衣装に込めた想いも、スミレの無念も、全部を背負って一人のステージへ。かつてスターライト学園の入試で選ばれなかった女の子は、いつしか誰よりも大きな背中であらゆる想いを包み込む“大空”のような存在になっていた。

 あぁ、こんなにも嬉しい気持ちになるなんて。大空あかりが目指した「見てくれた人に笑顔を届ける」は今、最高の形で実現した。そんな彼女の頑張りが、他の誰でもない星宮いちごによって祝福され、報われるという結末(それを手配した織姫学園長の“わかり”もいい)は、涙無しで観ることは不可能だった。これ、176話から一週間待たされたなんて、信じられないぜ…。

未来へ

 かれこれ半年以上、休み休みではあったけれど、最後まで見届けることが出来て、一安心。ひとえに『アイカツ!』が要所要所で盛り上がりを見せる作風だったこと、薦めてくれたファンが根気よくレコメンドと反応をくださったお陰であり、忙しさを言い訳に視聴を打ち切っていた可能性があったかもと思うと、マルチバースの自分を殴りたくもなる。

 実を言うと、今でも私は『アイカツスターズ!』のことを特別視している節があって、やはり初めて触れたシリーズの一作という思い入れがどうしようもなく強い。ただ、両作とも屋号を同じくしつつも、考え方や描きたいコンセプトに違いがあって、そこに優劣はないし、「憧れ」を軸とする輝きの伝播は共通のテーマとして挙げられるからこそ、私の中のアイカツ!観はこの言葉に集約されそうな直感を得ている。どちらも大切で、等しく愛おしいと思える。上手く文章に出来ないけれど、そのことが今、一番嬉しい。

 そして。もちろん履修を急いだのは7月に『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』が控えているからだ。いちごとあかりの輝き、ソレイユの未来。どんな物語が待ち受けているのだろう。アイカツ!10周年を祝う(おそらく)渾身の完全新作を、ちゃんと受け止められる身体になってしまって、今からワクワクが止まらない。

 なので、今一番欲しいものは、「どんな嗚咽と鼻水でも防ぎきれるマスク」である。星宮先輩からのプレゼント、いつもの崖の上で待ってます。


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