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『アイカツスターズ!』挑戦者:騎咲レイは輝きの多様性をその翼に背負う

 『アイカツスターズ!』を観ている。全100話のアニメを観ることに数か月躊躇していたくせに、今では「あと20話しかない」という事実に震えている。これも全部、『アイカツスターズ!』が面白すぎるからだ。

 本題の前に少し振り返りたい。『アイカツスターズ!』におけるアイドル論には「個性」が通底している。主人公たちが通う四ツ星学園の基本教育理念は個性のセルフプロデュースであり、それぞれが他人にはない自分だけの個性を見つけ、それを伸ばしていくことが目標とされている。2年目から参戦するヴィーナスアークも、「エルザサイズ」と呼ばれる徹底管理されたカリキュラムをアイドル候補生に強いることでまずは型に押し込め、それでもなお残る他者より抜きんでた輝きを個性と呼んでいる。過程は違えど、両校共に個性を引き出し、それを伸ばすことを「アイカツ」と定義づけているのだ。

 そんな中、一人異質の存在が、ヴィーナスアークに乗っている。騎咲レイという少女だ。

 ヴィーナスアークの船長たるエルザ・フォルテに付き従う秘書。彼女は常にエルザのために動き、エルザの目的や輝きを優先する。それは、自分自身が輝くために切磋琢磨する者が集うはずのヴィーナスアーク、ひいては『アイカツスターズ!』という作品においては、どうしようもなく異質である。

 なぜ騎咲レイはエルザに忠実であり続けられるのか。レイは以前NYを拠点に活躍するトップモデルだったのだが、レイ自身はモデルという仕事に情熱を抱くことなく、ただ与えられた衣装を着て与えられたステージに立つだけの存在であり、確かにそれでも人を魅了することができた。しかし、その偽りの輝きを見抜いたのがエルザであり、彼女のステージを見て、騎咲レイのモデル人生は終わりを迎える。自分よりも強い輝きを放つエルザ・フォルテの眩さに、シューティングスターは一等星ではいられなくなった。だからステージを降りた。その代わり、別の一等星に寄り添うことにした。騎咲レイは、エルザ・フォルテと出会ったことで自らがより輝くことを諦め、彼女の側にいることでエルザの輝きを見守る小さな星になることを、自ら選んだのである。

 騎咲レイ、とんでもないキャラクターである。アイドルの頂点に立つことを諦め、しかし自らを高めることを忘れず、「アイカツ!アイカツ!」と言いながら竹刀を振るうのである。眉目秀麗、淑女たることを常に忘れず、そこにいるだけでただ麗しい。多くの人を魅了する実力と才能を持ちながら最前線に立つことなく、エルザに奉仕するためだけに彼女はそこにいる。騎咲レイは、ヴィーナスアークに乗っている、ただそれだけでとてつもない矛盾を孕んでしまっている。それでもなおヴィーナスアークにいられるのは、エルザへの忠誠の厚さを物語っているのだ。

 そうした物語に対して、私の想像力は凡庸すぎた。いずれ騎咲レイが、自分が輝くためにアイカツをすると、真に自分の夢を目指す時が来ると信じていた。それは確かに叶ったのだけれど、意味合いが全く異なってお出しされてしまったのだ。80話、レイはようやくアイドルとしてステージに帰ってきた。でも、彼女の夢は変わらなかった。「エルザを輝かせるため」に、彼女は自分のアイカツをすると、宣言したのである。

 78話、レイはエルザの本当の目的を知る。なぜエルザが太陽のドレスを目指しているのか。その夢のためには、何が必要なのか。そして騎咲レイは、その船に乗ることにした。誰かの夢の礎になるために、自らが輝こうと決意するのである。

 自らが立ち上げる新ブランドのお披露目ステージを開き、伝説のモデル・シューティングスターの復活に、海外からもファンが押し寄せる。騎咲レイに注がれる期待は大きいし、アイドルならばそれに応えたいと思うのが「普通」かもしれない。ご丁寧に、直前の描写でアイドルとは「自分のため」「ファンのため」に存在するのだと視聴者に提示しておきながら、騎咲レイは誰も出せなかった結論に至るのだ。

 新ブランドも、自分の夢も、全てはエルザのため。その忠誠を誓う「ロイヤルソード」の名を冠したブランドは、エルザに全てを捧げる覚悟と、そんな動機でアイカツを続ければ受けるであろう批判や妬みも全てその身に受けて闘うという、レイの確固たる意思表示だ。会場に駆け付けたファンの動揺や戸惑いの声を受けながら、騎咲レイ一世一代のステージが始まる。曲は、「裸足のルネサンス」。

 レイはパフォーマンスの直前、こう宣言する。「審判を受けに来た」と。他者の夢を支えることが私の夢であり、そのために自分はこの身を全て捧げようという在り方、アイドルはファンのために歌い踊るのだという正論すら捻じ曲げてでもステージに立ち続けるという精神。それでも私はアイドルたりうるのかと、彼女は問うている。騎咲レイはこの時、アイカツシステムに挑戦状を叩きつけたのだ。アイドル:騎咲レイを受け入れるか否か、全てはこのステージに集まった観客と、システムに託された。

 そして彼女は、勝ち取ったのだ。光輝く星のツバサを。そしてそのツバサは、エルザの夢を叶えるための切符として、レイに飛翔する権利を与える。万人を感動させるステージを披露した後、ファンのことを顧みることなく自ら仕える王の下に跪く姿は、これまでの話数を振り返ってもやはり異質でしかない。しかし、アイカツシステムは騎咲レイの在り方を認めたのである。誰かのために輝くこともまた「アイカツ」であると、神がそう仰られたのだから異論を挟む余地など残されていない。わずか24分にして、私はただただ『アイカツスターズ!』80話に「完敗」したのである。

 『アイカツスターズ!』の異端児こと騎咲レイは、新しいアイカツの定義を認めさせた挑戦者であった。エルザのため、という目的のままアイドルを続けるレイに対し、目が離せなくなっている自分は完全に彼女のファンになってしまっている。虹野ゆめ達が「ファンのため」にアイカツをすることで夢が叶っていくのとはまるで正反対のアイドル像をここで打ち出してくるところに、このアニメの凄まじさを感じずにはいられないのだ。

 しかも直前の79話にて、「幼馴染との長年の夢を叶える」という物語性をもって視聴者と観客を感動の渦に叩き込んだ七倉小春にツバサを与えなかったアイカツシステムが選んだのが、騎咲レイという意地悪さ。そして騎咲レイが9つのツバサの最後を飾るというドラマティックさ。残す所あと20話となった『アイカツスターズ!』マラソン、最終話を見届けた後いったいどうなってしまうのだろう。最後に夢を叶えられるのは、誰なのだろう。日に日に増していくクライマックスへの期待に突き動かされながら、私は次回の再生ボタンを押すのであった。

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