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「弱く」て「強い」世界で生きる私たち 〜SixTONES「1ST」アルバムを聴いて〜

生きていくことは、苦しい。

どれだけ自分の環境が恵まれていようが、どれだけ大好きな仲間たちに囲まれていようが、涙が溢れてやまない日がある。心が締め付けられるあの感触は、未だ消えてくれない。

だから、私は音楽と生きてきた。

私がSixTONESを知ったのは、2019年の冬。それまで共に邦ロックを聴いてきた従姉妹が突然SixTONESにはまったことがきっかけだった。

彼らのデビュー曲「Imitation Rain」を聞いた時、その作り込まれたサウンドと歌唱力の高さに、ひどく驚かされたことを今でも鮮明に覚えている。あれから1年、私はついぞSixTONESにハマることはなかったけれど、従姉妹はリリースの度欠かさずCDを送ってくれ、私は定期的に彼らの「音」を受け取ってきた。

だから、私はこのグループがどのような歴史を辿って、どんな思いで活動をしているのか知らない。しかし、このアルバムの表題曲である「ST」を聴いた時に、「書かなくてはならない」という義務感のような衝動に駆られた。
だから、この文章はただの音楽好きの、単なる音楽メモだ。


このアルバムで印象に残った曲は数多くあるが、最初に心を掴まれたのは3rdシングル表題曲の「NEW ERA」だ。私はシングルリリース時からこの曲をかなり推しているのだが、その輝きはアルバムに入ってなお、失われることはなかった。邦ロックをもうかれこれ10年弱聴き込んでいるから、バンドサウンドが色濃く現われるこの曲を好きになったのは必然とも言えるだろう。
しかし、この曲の一番の魅力は、「大胆な曲構成」にあると私は考える。強烈なリフレインが印象的なイントロを引き継ぐように、曲が始まってわずか16秒でサビが登場する。その後Aメロ、Bメロ、サビと典型的なJ-POPの構成が来ると思いきや、なかなかサビがやってこない。サビまでのわずか45秒の間にコロコロとメロディやリズムが切り替わり、聴き手をどんどん曲へと引きずり込んでゆく。2番以降もラップが登場したり、落ち着いたバラードパートがあったりと、この曲からの猛烈なアプローチは最後まで止むことがない。
歌詞に出てくるような「新しい時代」へと連れて行かれる印象をこの曲に抱かされた。

そして1番の衝撃だったのは、通常盤の11曲目に収録されている「うやむや」だ。鍵盤の上を忙しなく駆け回る複雑なピアノに、息をつく暇もないほど畳みかけられるボーカル。リズムはシンプルな4つ打ちかと思いきや、2番のAメロでは突然8分の変拍子に切り替わり、ハッと心を奪われる。
サビでは”真っ/暗に光るは太陽/はつまりアイツは最高な/んてことじゃないのさ相棒 『うやむや』”というように、通常の日本語の文章より1語早く区切った大胆な譜割りで、聴くものの心に引っ掛かりを残す。3分半とはとても思えない濃密な音楽で、「ただのアルバムの1曲では終わらせない」という強い意志が感じ取られたような気がした。


3形態のアルバムの共通曲のラストを飾る「Lifetime」は壮大なバラードで、
中学時代の自分が、真っ先に頭に浮かんだ。音楽に救いを求め続けていた、あの時の自分が。

Cause now you’re my treasure of a lifetime
星も見えない Long nights
We’re gonna make it through together
Know I will be there for you whenever
明日へ 進めない 時には Just lean on me
紡ぎ合わせる Lifetime
My lifetime                   『Lifetime』

中学生の頃の私は、学校が嫌いだった。徒歩15分で着くはずの学校への道は、驚くほど長くて、毎日校門の前で足がすくんだ。やっとのことで学校が終わって家に戻っても、家庭は崩壊寸前で、怒声が飛び交う家のドアを開けるのが、ひどく、ひどく恐ろしかった。どこにも居場所がなくて、毎日音楽を聴いて、泣いて、泣いて、それでなんとか自己を保とうとしていたあの時の自分が、時を超えて、そっと掬い上げられるような、そんな感覚をこの曲に抱いた。

10年という時を経て、私の音楽の聴き方は変わった。あの時の自分は、もうここにはいない。いつも大好きな仲間に囲まれて、たくさん笑って、自分の好きなことで生きていける。
貪るように音楽を聴くこともなくなった。
それでも今なお空き時間の大半を音楽に費やすのは、単に音楽が好きだからだ
音楽は私の人生に多くの「音」をもたらし、「言葉」を教えてくれた。

この「1ST」というアルバムには、音楽に支えられ、人生を豊かにしてもらった私の21年間の人生を、そっと肯定してもらえたような気がした。

表題曲の「ST」を聴いて、この文章を書く決意をした、と冒頭で述べた。この曲が、「力」を持っていると感じたからだ。私を今まで支え、後押ししてくれた曲たちと同じ「力」が。

完璧だなんて間違ったって思うな
弱さのない世界は強さとは無縁だ
泣き笑っても憂いても未来は
強い光の方だ そこに向かって行くんだ    『ST』

この歌詞が自分の人生と重なるだなんて、おこがましいだろうか。でもこの曲の歌詞を見て、必死に、必死にもがいて生きていた10代の自分を考えずにはいられなかった。「音楽」という「光」に導かれて、私は、今ここにいる。
音の中心を占めるまっすぐなドラムの音が、まるで未来への道標のようだ。
これから私は、どれほどの音楽に出会っていけるのだろうか。

このアルバム全21曲、全ての楽曲が、今を生きる私の糧となるだろう。
「ST」や「NEW ERA」が奏でる聴き慣れたロックサウンドは、純粋な彼らの魅力を気づかせてくれるし、原石盤に入った「この星のHIKARI」や「”Laugh” In the LIFE」はキラキラとしたアイドルの姿を見せてくれる。「Lifetime」は優しい言葉でそっと包み込んでくれるし、「Special Order」「Dance All Night」のようなアッパーチューンは「自称音楽好き」の私に、新たな音楽の可能性を提示してくれた。

このアルバムを聴いている間、良い意味で表現者の姿が全く浮かばなかった。
それは音と言葉に取り憑かれたように聴き入っていたからであると思う。どんなジャンルの曲にもすっと馴染んで、化ける6人の歌声には脱帽の一言に尽きる。
また、アルバムを聴き終えた時、これらの素晴らしい楽曲がパフォーマンスとなった時にいったいどう化けるのか、確かめてみたいと思った。私はアイドルのライブに行ったことがないが、きっと素敵な姿に変身しているに違いない。
音楽は、終わらない。

生きていくことは、苦しい。
けれど、音楽と生きていく人生は、楽しい。

大切なことを教えてくれたこのアルバムの記憶を、私は今、ここに、刻む。

―6人の素晴らしき表現者たちに、敬意を表して。

※2021年1月18日「音楽文」掲載の文章を再掲

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