マイム4

そしてフロアはいつもの風景に戻った。入力業務も一通り終わらせて他のスタッフ達に今日もありがとうお疲れ様を言い、カウンターでビールを飲み始めたときだった。

静に扉が開いたと思ったら朱里が現れた、当たり前のような顔で。唖然とする僕を尻目に、綺麗な色のお酒を頼み大人しく座って静かに飲み始めた。

よく見ると朱里の朱という字に相応しい、今思い出しても真っ先に浮かぶ赤い髪の毛。その髪の下にある顔は恐ろしく整った顔をしていた。

そのせいで性的な雰囲気は一切排除されていて美術館で何かの絵を観ている、そんな気分にさせられた。


しばらくぼーっと朱里の顔を眺めていたら、突然僕に駆け寄ってきて無表情で呟いた。

『さっきはごめんなさい、頭に血がのぼっていたの』


まさか謝ると思わなくて言葉に詰まってしまった。それを朱里はまだ怒ってると解釈したのかさらに深く頭を下げてきた。


そこではっとして顔をあげさせた。

目があった瞬間に不覚にも魅入られた、その整った顔と冷たい雰囲気に。



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