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尖石遺跡 長野ジオ巡り旅(1)

7月に長野県茅野市へ行きました。ハイキングと登山、古代史と地形と温泉、色々充実したスポットです。まずは、あの有名な国宝に会いに行こう!


尖石縄文考古館

八ヶ岳エコーラインに沿って扇状地のヘリを進みます。

「尖石遺跡→」の標識で曲がると長く緩やかな坂道が。その先にあるのが…

考古学ファンだけでなく、多くの観光客が訪れる尖石(とがりいし)縄文考古館。人気の秘密は…2体の国宝級に美しい女神(実際に国宝)です!

※「尖石石器時代遺跡」と表示されますが、発見当時は縄文時代を石器時代と呼んでいたことに起因しています。


縄文のビーナス

2体の女神は、入って右手の展示室に並んでいます。

ピンボケ…

高さ27cm、重さ2.14kg。骨格土台に粘土塊を貼り付けて造られました。
平坦な頭部に円形の渦巻き紋様は、帽子とも髪型とも言われています。ハート形の顔、切れ長のつり目、尖った鼻、小さなおちょぼ口は、八ヶ岳山麓の縄文中期の土偶に特有の顔。耳にはイヤリングの跡もあります。

左右の腕は簡略化されている一方で、お腹とお尻はたっぷりとしています。妊娠した女性を表現したそうです。

魅惑のハート型のおしり!

粘土に雲母が混ざっているため、光が当たるとキラキラと輝いています。表面もなめらかで光沢があります。

6キロ西にある棚畑遺跡から出土。縄文時代中期(約4000年から5000年前)の土偶をはじめとする土器(完全復元600点)と住居址150軒以上が発見された最大規模の遺跡です。
縄文のビーナスは、環状集落の中央広場の土坑に横たわるように埋められていました。壊されて埋められる土偶の例が多いのですが、この土偶は完全な形で残されていました。

中部高地が最も栄えた縄文中期に製作され、その造形美と学術的価値から平成7年に縄文時代遺跡出土品ではじめて国宝に指定されています。


仮面の女神

女性器がはっきり。基本的に土偶は女性を表している

高さ34cm、重さ2.7kg。約4000年前の縄文時代後期前半に作られた仮面土偶。逆三角形の仮面に細い粘土紐で型取られた眉(?)、その下に鼻の穴や口が小さく描かれています。縄文のビーナスに比べると、なんだか幾何学的な感じ。

微妙なバランスで立っている?

粘土紐を積み上げて作られた中空土偶。大型土偶に多く見られる手法です。頭部も凝った形状で、首の横には穴が空いています。焼成用の空気孔でしょうか? 他にも頭頂部と臍、股間や足の裏にも穴があるそうです。

肩掛けポシェットの模様と小さなお尻?が気になる

上半身には渦巻きやたすき掛けの文様があり、入れ墨とも服の模様とも解釈されています。足には文様がなく、ツヤツヤに磨かれています。

発見時の状態
仮面の女神は、北西に3kmほど離れた中ッ原遺跡から出土しました。
遺跡中央の土坑墓が密集する場所で、穴の中に横たわるように埋められていました。右足が壊れて胴体から外れています。

このような状態で人と共に埋葬されていたのか?

土偶が埋納された土坑と近接する土坑から、遺体の顔にかぶせたであろう土器が出土しています。(写真上部 皿が伏せられていた状態で出土)

左足が意図的に折られていたらしい

足が割れたときの破片が胴体内部や右足の内部に入っていたこと、出土した状態から足を90度以上回転させると接合したことから、わざと足を壊して埋めたと考えられています。

仮面の女神が造られた縄文後期寒冷化で食料が不足し、中部高地の縄文集落も規模や数が大きく減少しました。このような背景が埋葬方法にも関係しているのかも知れません。


黒曜石と縄文遺跡

黒曜石は、先史時代にナイフや矢じりに使用されたガラス質の岩石です。
薄く割れやすい性質により刃物のような鋭い面を作ることができ、金属の無い時代には大変重宝されていました。

旧石器時代の石器

しかも、鉄よりも優れた面もあるそうです。

黒曜石で作られた石器類

八ヶ岳を中心とする中部高地に存在する黒曜石鉱山。その山麓に栄えた縄文集落の遺跡の数々と共に日本遺産に登録されています。

北八ヶ岳から霧ヶ峰、和田峠一帯は良質な黒曜石の産地。ガラス質でキラキラした黒曜石が輝くことから、星ヶ塔、星ヶ台、星糞(ほしくそ)と星に因んだ地名が付けられたそうです。

まるごと信州 黒曜石ガイドブック より 加筆https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/bunsho/kassei/documents/new.pdf

その黒曜石鉱山の山麓には、多くの旧石器時代、縄文時代の遺跡が集まっています。(赤丸マークが尖石遺跡)


黒曜石の流通ルート
この地域の黒曜石は、関東や信越、さらには北海道まで供給されていました。

図説日本史(東京書籍)

旧石器時代は自然崩落した転石を採取していたようですが、縄文時代になると鉱脈を集団で採掘するようになり、黒曜石鉱山の麓には加工場となる集落があったそうです。


中部高地の人口集中
縄文中期、甲信地方には人口が集中していました。

原典 小山修三(1984)、小山•杉藤(1984)
引用元 http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/kawahata/chishitsu_news_n669_p11-20.pdf

●縄文海進で内陸部に人が移動した
●温暖化によって寒冷な高地でも居住に適するようになった
●堅果類の樹木が豊富だった
…などが理由として挙げられていますが、
黒曜石の産地であったことも要因の一つと考えられています。

【ご参考】
信州黒曜石原産地の資源開発と供給めぐって 堤 隆

https://researchmap.jp/takashitsutsumi/published_papers/15143312/attachment_file.pdf


ユニークな形の土器類

考古館には様々な形の土器も多数収蔵されています。

装飾性の高い土器
突起した所がクチバシにも見えるが、ヘビを表しているのかも知れない
ちょっといびつな吊り手
顔面把手付土器

八ヶ岳周辺に見られる、人面を模った把手付きの土器です。縄文のビーナスに顔が似ていますね。
縄文中期の一時期しか作られず謎多き土器ですが、壺の胴部に施された顔は赤ん坊をイメージしたものと解釈され、出産土器と分類されています。

蛇体装飾把手付土器

この地域の特色的な土器。八ヶ岳西麓のデイサイトが混和材として使われています。混和材は、乾燥や焼成時の収縮防止や、煮炊きの膨張収縮を防ぐ目的、または装飾的な目的で使用されているそうです。

不思議な造形の土器

何に使うのか分からない造形。実用性ではなく、祭祀用など何かしらの意味があったのか?


あやしげな石も…

男性器をイメージさせる石棒

小林達雄氏(國學院大學文学部名誉教授)は、生活において直接役立つ弓矢、石斧、石皿などの道具を「第一の道具」と呼び、生業には直接役立たなくとも、呪術や祭祀に使用されるものを「第二の道具」と呼びました。土偶や石棒などは第二の道具であり、人口が多く定住性が強い東日本で発達したそうです。

縄文人は、男性を表す石柱(加工されていない柱状の石)や石棒、女性を表す土偶や凹んだ石皿を、家の中に祀ったり祭祀に使用していました。家長などが亡くなって家を廃絶する時に、それらを破却あるいは焼却したと考えらえています。


体験コーナー

自由研究にピッタリの資料や体験コーナーもあります

【ご参考】



与助尾根遺跡

考古館のすぐ後ろに与助尾根遺跡があります。

尖石遺跡と浅い沢を隔てた北側の台地上にあり、二つ合わせて縄文時代中期の環状集落遺跡として特別史跡に指定されています。

昭和20年代に発見された縄文中期後半の住居址28軒と、近年新たに発見された12軒からなります。

入り口が横にズレているのは風除けのため?
結構広い
骨格をみると構造がハッキリと分かります。
並んでいると、モコモコ感がかわいい


尖石遺跡

考古館の前の横断歩道を渡って

あっ、あの石が…
案内板に沿って進みます
広々とした原っぱに出ました
こちらが尖石遺跡の案内板
復元住居は無く、昭和29年に三笠宮殿下が調査した33号住居の跡だけが残されています


尖石

遺跡の名前の由来で、古くから地域の信仰対象だったようです。

33号住居址近くの階段を下ると見える
この三角錐のような岩が尖石

右肩に磨かれた跡があり、縄文時代に石器を研いだのではないかと推測されています。


尖石遺跡の立地

八ヶ岳西麓の末端にあたる、緩やかな火山麓扇状地。

遺跡の周囲を拡大してみると

赤が尖石遺跡、青が与助尾根遺跡

南側に20mほどの落差のある沢があり、与助尾根遺跡の間にも浅い沢があります。大昔は水がコンコンと湧き流れていたかも知れません。
もともと水はけの良い土壌の上、大雨が降っても両側の沢へと流れるため、常に乾いた居心地の良い住宅地だったのでは?
高原の避暑地は、今も昔も最適な居住地です。

【ご参考】

縄文文化を育んだ八ヶ岳山麓https://www.city.chino.lg.jp/uploaded/attachment/6537.pdf

信濃の風土と歴史②  原始時代のシナノ(充実した内容です)https://sitereports.nabunken.go.jp/files/attach_mobile/11/11558/9005_1_原始時代のシナノ.pdf


次回は、横谷峡の話にするか、あやしげな石棒の話にするか、まだ悩み中です。

オタク気質の長文を最後まで読んでいただきありがとうございます。 またお越しいただけたら幸いです。