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あの日見た月

朝の早い仕事をしていると、まだ月の見えているような時間に出勤することがある。明け方へ向かう月は少し白んでいて、真夜中の月とはまた違った雰囲気がある。
昔から夜に出歩くことが少なかった私は、月がなんだか特別なもののように思えてしまう。こんな時間に出歩いている今日はなにか起こりそう、なんて思ったりもする。実際はいつもと変わらぬ帰路についていつもと変わらぬように夜が更ける。
一人暮らしを始めてからは立地もあり、月をわざわざ見る機会も減ってしまった。それでも寂しいと思う夜は決まって憎いくらい澄んだ光が降り注いでいる。私の胸を締め付けて寂しくさせる月は素知らぬ顔をしている。でもその距離感が心地いいのかもしれない。
学生時代白い月と黄色い月どっちが好きなのと彼に聞いた夜も、もう私たち終わりにしようと言い出した夜も、いつもと変わらぬ月が私たちを照していた。

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