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【禍話リライト】くいちがい

百物語に知られるように
『怖い話をしていると怖いモノが寄ってくる』
という話は、枚挙にいとまがない。


<丁度、後輩に実家が金持ちで、学生一人暮らしにしてはやたらいいマンションに住んでるやつがいたんですよ>

だから頻繁にその後輩の家で飲み会を開催していたと、この話をしてくれた男性は語った。


ある夏の日。

「今度の飲みは怪談飲み会をやろう」となったそうで、OBの先輩も呼んで5、6人ほどが酒とツマミと怖い話を持ち寄って集まった。

「それじゃあ、早速……」

と乾杯もそこそこに一人目が語り出し怪談飲み会が始まった。

皆、それぞれいろんなタイプの怖い話を用意しており、ネットで見た話や怪談本で読んだ話、テレビで芸能人が言った話などを順番に披露していったそうだ。

「えぇ……なにそれ怖っ……」
「へー……不思議だねぇ」
「うわっ!めっちゃビビったわ!」

皆リアクションもよく、意外といい感じに怖い雰囲気にもなって酒もツマミも良く進んだ。

<でも、こういう時に空気が読めないやつ、いるんですよね……>

それがAと言う男だったそうだ。

「ふーん、あんまり怖くないね」
「え、今のが怖いの?」
「それ、どこか怖いとこありましたか?」

誰かが話終わるたびに彼はそんな調子だった。
そして4人目が話し終わると

「え〜なんか全然怖くないなぁ〜」

とまた同じ調子で言った。
流石に見かねたOBの先輩が

「お前さぁ、そんなことばっか言ってたら自分の話のハードル上がっちまうぞ?
これでお前の話が全然怖くなかったらマジで場がシラけるんだからやめとけよ〜!」

と、冗談っぽく笑いながらAを小突いて言った。
Aも流石にそれを受けて、空気読めなくてすいません、と謝った。
しかしすぐ

「でも俺、実はこういう怪談話とか全然怖くないんですよね」

と半笑いで言った。

「それはそれで逆にお前がこえーよ!」

先輩のツッコミで場がドッと笑いに包まれた。

<その時ちょっとホッとしましたね。それまで結構、空気悪くなってたんで>

そして今度はそんなAの話で盛り上がった。

「じゃあAは怖い話って何も無いの?」

一人がそう尋ねた。
彼はしばらくうーんと腕を組んで考えていたが

「まぁ、ある意味怖い話というか、俺がこういう怪談が怖くなくなったきっかけ……かもしれない話ならありますよ」

と言い出した。

「へぇー!なになにどんな話?」

みんなは俄然興味が湧いてAの話に耳を傾けた。

「俺が高校三年生の時の話なんですけど、うちのクラスの女子がいじめを苦に自殺したんですよ」

さらっと言われて、その場の全員が一瞬固まった。

「え……それは、マジの話?」

先輩が聞き返した。
マジですよ、とAは真顔で返した。

「何がきっかけだったのか、今となっては分からないんですけど、一部の女子グループがその子をずっといじめてたんです。無視したり、私物隠したり……典型的なやつです。
ただそれを他の生徒も担任も、みんな見て見ぬふりしてて……それで結局、自宅で首吊って死んじゃったんですよ」

確か学園祭の前日の事でした、とAは淡々と語っていく。

「そん時はそりゃ大騒ぎだし事件になりましたよ。ただ……遺書も何もなかったんで、いじめが原因だって確固たる証拠が無かったんです。
それでいじめてた女子グループも担任も、当然、学校側もいじめは無かったって言い張って、結局教育委員会も動かないまま……
最終的には学校外の事でストレスがあって自殺した、ってことになったんです」

全員相槌を打つ事も出来ず、黙ってAの話を聞いていた。

「お葬式にはクラスのみんなで参列したんですけど、いじめてた女子グループも見て見ぬふりした担任もみんなわぁわぁ泣いてて、その子が死んで悲しいよ、寂しいよ、って言うんですよ。
それで式が終わった後、たまたま帰りにその女子グループが集まってるとこに出会したんです俺。そしたらリーダー格だった委員長の子が
『あの子、なにも死ぬ事ないのにね。バカみたい』
って笑って、つられてみんなも笑ってたんですよ……」

だから俺、オバケなんかより人間の方が怖いんです。
そうAは締め括り、手にした缶ビールを飲みし干した。


みんな、しばらく何も言い出せなかった。



「そ、そんなことあったんだったら、そりゃ怪談くらい怖くないかぁ〜」

先輩が一言発してくれたおかげで、ようやく皆口々に感想を言い出した。

「うん、確かに人間が一番怖いよな」
「しかも身近な人で体験したら流石にね……」
「いや〜リアルな出来事だから余計に怖いな〜」

しかし、一人だけ何のリアクションも取ってない奴がいた。正確には、Aが話し始めてから一言も喋らずじっと彼の顔を見ているだけでの奴が一人。

<そいつはBって言うんですけど、後で聞いたらクラスは違うけどAと同じ高校だったそうなんです>

「なぁ、A」

黙ってたBが口を開いた。

「お前、それ本気で言ってるのか?」

言われたAはきょとんとした顔だ。

「え?どういう意味?なんか俺、記憶違いしてたかな?」

「そうじゃなくて、お前今の話、本気で言ってるのか?って聞いてるんだよ」
「当たり前じゃん、本気だよ。本当にあったことなんだから。なに、疑ってるの?俺、こんなことで嘘なんかつかないよ!」

Aは少し怒った感じで言い返した。

なになに?喧嘩か?どうしたんだよ、と先輩が間に入って話そうとするが、Bは相変わらず真っ直ぐにAを睨みつけたままだった。

よく見ると、Bは額に滝のような汗をかいており、手にした缶ビールは力が入りピキピキと音を立てていた。

「じゃあ、お前もう一回聞くぞ?いじめられた子、どこで亡くなったんだ?」
「いや、だから自宅で首を吊って……」

「あの子が死んだの、お前のクラスだろ?」

「え?」

Aはぽかんとした顔だ。周りも事態が飲み込めず、呆気に取られた顔をしていた。

「だ、だってお前……その子、文化祭の前日に、夜の学校に忍び込んで、教室で首吊ってたんだろ……?だから、文化祭も中止になって散々だったじゃないか……!」

Bは震える声で続けた。
とても彼が嘘を言ってるようには思えないが、Aはびっくりしたように反論した。

「いやいや違うよ!そんな事ない!お前がなんか勘違いしてるんだよ!あの子が亡くなったのは自宅だって!だから俺らも葬式に出て……」

「いや、事件のせいでお前のクラスほぼ学級閉鎖状態だっただろ……?
お前だって、結局引きこもりみたいになって、クラブにも来なくて……卒業式にも来れなかったじゃないか!!」

完全に話が食い違っている。しかしどちらも嘘を言ってるようには見えなかった。
え?なに?もしかしてそういう仕込み?
先輩が何とか作り笑いをしながら言うが、誰も笑えない。

いやB、やっぱりお前がおかしい、とAは言った。

「やっぱりおかしいよB。多分なんか別の出来事とごっちゃになってる。
だって俺たち最近だってクラス会で集まってるんだぜ?あんなことはあったけど、クラス仲良かったからさ、担任のT先生も呼んで」

そこでBの顔が引き攣った。

「お前……何言ってんだよ……!T先生は、その事件で学校とか遺族とか、みんなから責められまくって、結局……!」

あの子と同じようにクラスで首吊って死んだだろ──

Bは殆ど泣きそうな声だった。
あまりの怖さにその場の全員が同じく、泣き出しそうな顔をしていた。

しかしAは相変わらずだった。

「お前、流石にそれは無いわ。言っていいことと、悪いことがあるだろ!?全然、お前の勘違いだって!T先生も委員長も俺もみんなクラス会に元気に集まったんだって!嘘じゃねーよ!!」

「じゃ、じゃあお前……ど、どこでそんなクラス会したんだよ……!」

「ほら、あそこだよ学校のすぐ裏手にあった◯◯屋って居酒屋。あそこ借りきってさ、そこでみんなで集まって──」



「◯◯屋は死んだあの子の両親の店だろ!!!」


<そのBの叫びを聞いて、俺ら目を背けちゃったんですよね。Aの顔を見るのが怖すぎて……>

その場にいた全員が、下を向くなり顔を覆うなりしてAから目を背けていた。叫んだBも、同じく叫ぶと共に目をギュッと瞑ってしまっていたそうだ。

次に目を開けた時、そこにいたはずのAはいなかった。

「え!?」
「え?え?なんで?Aは!?どこ!?」
「玄関出ていく音したか!?しなかったよな!?」
「そっすね……靴はあるし……鍵もかかってる……」
「いや、そもそも俺らの間通らないと玄関いけなくないか……?」

みんなが何が起きたのか分からず混乱していると




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」




外から異様な叫び声が聞こえた。
みんなが驚きながらベランダに出て外を見ると、マンションのすぐ側にある公園に、Aがいた。
その公園の真ん中で、しゃがんでいるようだ。

そして



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



と叫び続けている。
その声にマンションの他の部屋も、近隣の住人も何事かと思いざわざわとし始めた。

「と、とにかく迎えに行こうぜ!」
「そ、そうですね!行きましょう!!」

先輩の声でようやく我に返ったメンバーは、全員で公園に向かう事にした。


「A!!おい!!何してんだ!!?」

Aはやはり裸足のままだった。
こちらが話しかけようが身体に触ろうが、ずっと体育座りのようにしゃがみ込み、両手で耳を塞ぎながら叫び続けていた。

<よく子供がふざけて、聞こえないように耳を塞いであーあー言うやつあるじゃないですか?あれみたいだったんですよ、Aの姿>



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



先輩を筆頭にみんなでAを囲み、なんとか正気に戻そうと声を掛け合った。

「おい!おいってば!!Aしっかりしろ!!」
「叫ぶのやめろ!!話を聞け!!!」
「A!!!しっかりしろ!!!どうしたんだ!!何なんだこれ!?」

一体、何してるんだ──誰かが聞いた瞬間だった。


「現実逃避」


全員の耳元でそう聞こえた。

そして、あり得ないはずなのだが、声が聞こえたと思った方──さっきまで自分達がいた部屋を一斉に見上げた。

誰もいないはずのベランダに、誰かがいた。

<多分、女の子……しかも、制服を着た女子生徒、でした……>


その姿を、その場にいた全員が見た。
絶対に、あり得ない光景だった。

そして全員
「この子が言ったんだな」
と思ったそうだ。

そこからは混乱と恐怖で、全員その場にへたり込んでしまった。もうAのことなど構っていられない。ただただ呆然としてしまったのだ。

「あ、あなた達大丈夫ですか!?」

結局、見かねた近隣住人が救急車を呼び、叫び続けているAを運んで行った。
何人かは付き添いで一緒に救急車に乗り込んだが、残りのメンバーは救急車と共にやって来た警察により事情聴取を受けた。

<まぁ、あんな状態でしたからね。クスリやってたんじゃないかとか、色々調べられましたよ>

皆、突然Aが目の前から消えて気づいたら公園で叫んでいた事を説明したが、警察からは信用されなかった。
と言うのも、マンションの隣人がAが出て行った時の事を覚えていたそうだ。

隣人曰く

「ベランダでタバコを吸いながら、隣は随分盛り上がってるなぁ、と思ったんですよ。そしたら急に玄関の扉が開いて鍵を閉める音が聞こえたんですよ。
あれ?誰か出て行ったなぁ、と思ってたら外階段の重い扉が閉まる音がして、誰か外階段を降りてくのが見えたんです。あれが公園で叫んでた人なんですかね?」

だそうだ。
しかし、あの部屋にいた誰にもそんな記憶はない。また話がくいちがっていた。

結局、警察もそれ以上調べる事はなく厳重注意で終わった。


病院へ行ったAはその後、戻ってくる事はなかったそうだ。

<結局、現実ってどれだけ逃げても、逃げても、逃げても、見て見ぬふりしても……必ず追いついてくるんですよね>


彼は最後にぽつりと、そう呟いた。

<了>

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出典:
禍ちゃんねる 令和元年訴訟スペシャル(2019年5月5日)
『くいちがい』(1:37:00辺りから)

こちらの話を文章化およびアレンジしたモノになります


タイトルはこちらのwikiより頂きました

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