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ショートショート

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「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
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#妄想の世界

プラス1時間を与えられる世界(妄想の世界)【音声と文章】

どこに居ても 何をしても ひとりで居ても 誰かと居ても 一日は24時間。 しかし、20XX年から 充実した時間を過ごした人だけに プラス1時間が与えられるように法改正が行われた。 この制度が始まった当初は、そんなことが本当に可能なのか誰もが懸念した。 そのプラスされた時間から戻ってきた時に、何かしらの違和感を抱くのではないだろうかという不安があった。 しかし、プラス1時間を与えられた人が現れてきて、その人達の口コミがすぐに拡散され、その高評価が世間に知れ渡った。 それはどんなことをすれば該当するのかは明言されていない。 でも、他人軸ではない、自分軸で動いた日に現れるのだけは誰もが感じていた。。 与えられた1時間は時空を超えているから、他の人との時間にずれを生じることが無い。 だから、 やらなければいけない(have to)と思ってするのではなく 私は心からそれをしたい!(want to)と思いながら日々を過ごす人々でいっぱいになっていった。 自分の夢やゴールを口にするのは恥ずかしいと躊躇していた人も 堂々と言える世界に変わって行った。 やがて、プラス1時間を与えなくても、それぞれが充実した24時間を過ごす世界に変わり 充実した時間を過ごしたら、一日は24時間ではなく、その何倍もの体感覚を得るようになった。 今では、have to(~しなければいけない)が無くなり、want to(~したい)があふれる 世界が当たり前になった。 どんな夢を語っても誰も馬鹿にしない。 過去にできなかったから、それは無理と言う人はいない。 現在、できていないから未来もできないよと言う人はいない。 その人がwant toと思ったら、それをすればいい。 ドリームキラーはいない。 もしも、ドリームキラーがいるとしたら、 弱気になった自分の心の中に潜んでいる。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1873日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad プラス1時間を与えられる世界(妄想の世界)

悪夢(ショートショート)【音声と文章】

大きな歯車が動いている。 そして歯車と歯車の間から大きな布団が出てきて私に覆いかぶさってくる。 ふわふわしているのにその布団はどっしりと重みがあり、私はその布団から逃れられない。 布団は何枚も現れ私の上に覆いかぶさる。 真綿で首を締められているようだ。 助けて。 誰か助けて。 そんな夢を見た。 小さい頃によく見た夢だ。 首の周りに汗をかき下着は汗で体にはりついていた。 隣であなたの寝息が聞こえる。 万歳の格好であなたは寝ていた。 あなたのわきの下に頭をつける。 あなたは手を下ろし私の頭を大きな掌でポンポン触る。 分かった、分かった。 大丈夫だ。 今は寝よう。 あなたの日に焼けた大きな手は私にそう語りかける。 フローラルアロマの匂いがするあなたのTシャツ。 私は子犬のようにTシャツに鼻を付けてその匂いの世界にグルグルと回りながら入って行った。 どんなことがあってもあなたがいれば怖くない。 私は安心しながら真っ白な世界へ入って行った。 そんな夢を見た。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1863日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 悪夢(ショートショート)

精米は自分で(ショートショート)【音声と文章】

「いらっしゃいませ!」 自動ドアが開きいつものお客様がお見えになった。 彼女は棚に置かれたお米を眺め、お米の特徴や生産農家の紹介欄をひとつひとつ読みながら歩いていた。 やがてその中の一つを選び、それをカートに乗せてレジに持って来た。 小学校低学年くらいの女の子がそのカートを嬉しそうに押していた。 今どきは自動精算のレジが主流だが私の方針でそれは自動化していない。 「みっちゃん、いらっしゃい。お母さんのお手伝い、偉いわねぇ。」 女の子は小さく「うん」と言って鼻穴を大きく開けて、ニーッと笑った。 「佐々木様、いつもありがとうございます。 先日の 夜のしずく はどうでしたか?」 「そうそう、あのお米は、ひと粒ひと粒がはっきりしていて、少しもっちり感があり、家族にはとても好評だったのよ。」 「そうなんですね。それはよかったです。」 「今日はこの、里のやすらぎ にしてみるわ。いろいろ、試してみたいし。」 「精米はこちらでしてよろしいでしょうか?それとも佐々木様がされますか?」 「勿論私たちがします!それが楽しみでこのお店に来ているから。」 「かしこまりました。ではどうぞ、お楽しみください。」 私は佐々木様にお釣りとレシート、そしてお米と専用のコインをお渡しした。 私のお店はお米の専門店だ。 全国各地のお米農家と契約をしていて直接お米農家から仕入れをしている。 だから品質は保証済みである。 そして私のお店の特徴は玄米のままで販売していることだ。 そして、購入直後に精米をしてお客様にお渡しをしている。 その精米は、お客様でもすることができるようにしている。 精米は面倒なことでお店に全てお任せするのが当たり前と思っていた。 しかし、小学校の「お店体験隊」がやってきた時に子どもたちは精米後のお米しか見たことが無いのを知った。 そこで、お米はもみ殻に包まれていることやそのもみ殻を取ったのが「玄米」で、更に「ぬか」と「胚芽」を取ったのが「白米」だと説明した。 玄米にはビタミンやミネラルが豊富だから、精米の度合いで同じお米から得られる栄養素が違ってくることを子どもたちに説明した。 「精米?何それ?やってみたい!」という子がほとんどで、精米の様子を実演したらとても喜ばれた。 それがきっかけで、子どもたちの話を聞いた親御さんが来店され、自分で精米したいとのご要望が多く出た。 そこでそれまで精米機はカウンターの奥に設置していたが、お店の中に数台置き、お客様が自由に精米できるようにした。 玄米を購入して、精米の「分」を自分で選べて精米できるお店」としてSNSで紹介されあっという間に来店されるお客様が年々増えるようになっていった。 佐々木様も今、精米機の前で袋を開け、精米機の中にお米を投じていた。 隣に立っているお嬢様も一緒に袋を持ち、そして長い棒がグルグルまわりながらお米が下に吸い込まれていくのを不思議そうに見ていた。 次にどのくらいの精米にするのか「分」を選択し、精米がスタートした。 ゴー、ザラザラザラ お米が回る音がし、やがて下の方にお米がパラパラと落ちるのがガラス越しに見える。 薄茶色の二重になった頑丈な紙袋にお米が落ちていく。 やがて精米が終わり、紙袋に設置されている紙の紐で上を縛る。 袋には今日の日にちが刻印されている。 その日付は、堂々としていて精米を自分がしたという、ある意味、王冠のようだ。 佐々木様親子は軽く会釈をしてお店を出られた。 私のお店は、自分のお店から購入したお米だけではなく、他店でご購入された玄米をお持ちになり精米することができるコーナーもある。 田舎のご両親から送られてきた玄米を精米しにやってくる方もいらっしゃる。 その場合は、重さによって手数料を精米機のお金投入口に入れる。 精米したてのお米がとても美味しいことをたくさんの人に知ってほしいと私は思っている。 「あなた、ご飯の支度ができましたよ。」 妻が奥の方から顔を出した。 私は従業員にお任せして、 香ばしい鮭の匂いがするダイニングに入って行った。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1863日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 精米は自分で(ショートショート)

ゆりかごから墓場 まで?(妄想の世界)【音声と文章】

「行ってきまーす」 小学一年生のマミは家の自動ドアを抜け外に出た。入り口に立ちマミのうしろ姿に向かって母親は手を振る。 時々マミが振り返る。 その度に肩から斜めに掛けている小さなポシェットがダンスをするように左右に揺れる。 母親はうんうんと大きく頷きながら手を振る。 マミは右手を空高く上げて軽く振る。 それを2~3度繰り返し、マミは右の角を曲がり見えなくなった。 母親はしばらくそこに立っている。 すると、角から黄色い帽子のマミが顔を出す。 母親は両手をあげて大きく振る。 その姿を見たマミは満足して角に消えた。 母親のヨウコは微笑みながら昨夜の雨に濡れた紫陽花を眺めながら家に入った。 ヨウコが子どもの頃は、小学生と言えばランドセルが定番だった。 小さな体に似合わない大きなランドセルの中にはたくさんの教科書やノートが入れられ、初めての登校の朝は嬉しさでそれほど重さは感じなかった。 しかし、下校時にその絶望的な重さに気が付き、泣きたい思いで家に帰り、夕飯の時間まで、泥のように寝ていたことを思い出す。 その後、世の中はどんどんIT化が進み、4つ折りにたたみ手のひらサイズになるタブレットの中に教科書や辞書が入るようになり、今ではランドセルは廃止になった。 今はタブレットと小物を入れた小さなポシェットを斜め掛けするだけ。 黄色い帽子は周りの車や通行人に小学一年生であることを知らせるための目印としてまだこの習慣は継承されている。 学校の体操着は着脱後に掌認証の個人ロッカーに入れておくと その中で洗濯・乾燥され、綺麗にたたまれて中に入っているから 家に持ち帰る必要はない。 工作セットや絵の具・習字道具などは全て学校で共有するから絵の具の買い足しを親がする必要はない。 給食は完全給食で、夜、帰宅が遅いご家庭の子は、学校で夕食を食べてから帰宅する。 給食費はもちろんタダ。全て国が負担している。 だから、ヨウコが子どもの頃は給食費が払えない子がいたり、おうちで満足に食事をとることができない子がいたが、今の時代、それは無くなった。 「食べる」ことに関して子どもたちの不安は無くなった。 ひと頃、少子高齢化が進み、学校が統廃合されていったが、国政が大きく変わり、 幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校・大学までと、老人保健施設が同じ敷地内に建てられるように変わった。 総合大運動会は大きな校庭で行われ、保育園児は自分のお兄ちゃん、お姉ちゃんの活躍を嬉々とした目で見ている。 ご老人たちは 「よちよち歩きだったあの子がかけっこできるようになったのかぁ」と 小さい子どもたちの活躍を目を細めて見守っている。 学校が終わってご家庭の都合で家に誰も居ない学生は、学校の図書ルームにいても、老人施設でお年寄と触れ合っても良いことになっているから、子どもたちの安全は守られ、更にはお年寄たちの楽しみの一つにもなっている。 最近は、学校の施設内に 葬儀場を併設する議論が国会でされている。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1863日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad ゆりかごから墓場 まで?(妄想の世界)

心を盗む(妄想の世界)【音声と文章】

時々、さりげなく耳元に手を添えて大きな目を細めて白い歯並びの良い歯を見せながら君は笑う。 清楚ないでたちの君のその澄んだ目で見つめられるとハートが熱くなり息ができなくなりそうだ。 キミが何を考えているのか知りたい。 僕は眼鏡の右のフレームを掴んだ。 途端に、今の音が後退してみんなの本音が聞こえてきた。 「あぁ、つまんない。早く終わらないかなぁ。」 「彼女の服、高そう。バッグも靴もそれなりのもの。安物の恰好の私、恥ずかしい。」 みんなの本音がザワザワ聞こえてくる。 ユウジの眼鏡は人の心を読み取れる装置が付いている。 科学者の叔父さんが「開発途中」の物を時々提供してくれ、僕はモニターになっている。 この、人の本音を知ることができる眼鏡は普段は使わない。 普段使いにすると、本音だけで自分が押しつぶされそうになるからだ。 それだけみんなは普段、本音を言わず、建前だけで生きているということになる。 考えてみるとそれは当たり前。 本音の付き合いをしたいと思いながら、しかし、いつも本音をぶつけていては論議の時間が多くなり、事が進まない。 だからどうでもいいことは、サラリと受け流した方が気が楽だ。 僕は彼女の本音を聞こうと、彼女を見た。 ところが、彼女の本音は聞こえなかった。 「本音が無言」なのである。 そんなことあるか! 僕は相変わらず笑いながら相槌を打っている彼女を見たが、彼女の本音だけは聞こえなかった。 どういう事だ。 彼女の心は空なのか。 ここには存在しないのか。 それとも、「本音と建て前」の区別が無いのか。 それから少しの間、周りのザワザワとした本音の会話を聞いていたが、結局、彼女の本音を聞きだすことはできなかった。 この「本音のめがね」で本心を聞けなかったのは彼女が初めてだった。 僕は彼女がますます気になった。 ** 会社の飲み会から解放されたコトミは自宅に着いた。 「おかえり~」 「ただいまぁ。お母さん、起きててくれたの?ありがとう。」 コトミはお父さんの部屋のドアをノックした。 「お父さん、ただいま。あれ、おもしろかったよ。」 「だろう?あれは人の気持ちを知ることができるし、逆に、こちらの気持ちをシャットアウトすることができる優れものだ。」 「今日ね。一人だけ、私の心を盗もうとした人がいたの。彼もお父さんの機械と同じようなものを持っていたの。でね。だから私、シャットアウトしちゃった。彼にはその機能が無いらしく、彼、キョトンとしていて面白かった。」 コトミは自分の部屋に入った。 「ふ~。」 大きくため息をつき、そして、机の上に小さなダイヤのピアスを置いた。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1862日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 心を盗む(妄想の世界)

記憶力の良い男(妄想の世界)【音声と文章】

タカシは記憶力がいいとまわりから評価されている。 いつ誰がどのような会話をしたかを正確に覚えているからだ。 人は昨日のことを半分は忘れ、数日経つとほとんど忘れてしまう。 しかし、それに反してタカシはほぼ、全てを記憶することができるのである。 タカシのIQが特に高いわけではない。 実は、人には言えない秘密兵器をタカシは身につけている。 それは人との会話を瞬時に録音できる装置だ。 タカシは小さい頃からモノを分解するのが好きだった。 おもちゃの自動車、ラジオ、時計、使わなくなったPC、壊れたTVなど、ねじを回して中の構造を見るのが楽しくてしょうがない少年だった。 それが高じて、物事の成り立ちが何となく分かるようになってきて、今度は自分で色々なものを作ってみるようになった。 それは父の影響を強く受けていた。 タカシの父は科学技術者で家の中に実験室を構えている。 幼いタカシが「こういうものがあったらな」と提案したものをこれまで作ってくれた。 そんな父を真似てタカシも父と肩を並べて実験室にこもるようになった。 最新の装置は「キキマウス」だ。 瞬時に録音してそれを何度も再生して聞くことができる。 それは奥歯に設置しているから誰からも気づかれない。 舌と目の瞬きの回数で録音・再生・削除ができる。 制作過程では試行錯誤が繰り返された。 まずは完全防水であることに苦戦した。 そして、食べている時に突然誤作動を起こしたり、咀嚼音の方が会話より音量が大きくて聞こえずらかったりした。 その後、録音中は咀嚼音を拾わないように改良された。 その音声を聴く時は骨伝導で耳に届く。耳に特別な装置を付けずにできるから、他人からは何かを聞いているようには見えない。 録音されている音声を数秒遅れてそのまま話すこともできる優れものだ。 今は音だけの処理だが、ゆくゆくは録画できるようにしたいとタカシの夢は広がる。 周りに知られずに録音・録画・再生できるようになったら、プライバシーはどうなるのだろうかとタカシは考えないわけではないが、しかし、今は自分の研究を追求したいという欲望の方が理性を超えていた。 タカシは今日もキキマウスの開発に没頭している。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1861日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 記憶力の良い男(妄想の世界)

賑わう我が家(妄想の世界)【音声と文章】

牛肉、ソーセージ、ベーコン 人参、たまねぎ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリー 焼肉のたれ 午前中に作ったベーグル バナナ、苺、キーウィ、ミカン、パイナップル ジュース、ノンアルコール、お茶 さぁ、準備は整った。 今日は月一のバーベキューの日。 娘たち3人とその家族、 そしてお友達が集まってくる。 大きな庭には大きな屋根が掛かっているからちょっとの雨でも大丈夫。 椅子もテーブルもたくさんあるから みんながくつろいで食べられる。 焼き肉ができるところには電気が通っているから夜遅くまで語り合うことができる。 小さいお子様用には 敷物の上にミニ滑り台 積み木やおもちゃを揃え それをすぐ傍で親御さんが見守れるような椅子が置かれている。 その隣には私が耕した畑がある。 トマト、キュウリ、さやいんげん、ナス、葱、じゃがいも、人参、シソなどがあり、端っこには真っ赤な苺が生えている。 もみじのような孫たちの手でその苺が摘まれ、小さなお口の中に次々と入って行くのが想像できる。これも私の楽しみでもある。 やがてお友達の家族が乗ったファミリーカーがゾクゾクとやって来る。 広大な庭に車15台は停められるから駐車スペースは心配ない。 それぞれが持ちよりの一品を持って集まってきた。半ズボン姿の男性もいる。 今日はKさんのお友達も招待した。 前回はHさんだった。 このように我が家は毎月賑やかである^^ ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1858日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad 賑わう我が家(妄想の世界)

シフトドア  全てお見通し(妄想の世界)【音声と文章】

※こちらのnoteの続編です。 https://note.com/tukuda/n/n6630e7c0f1df?from=notice エリはふわっとした白い世界から戻ってきた。 心配そうなナリタ部長の顔が見えた。 「良かった。」 ナリタ部長は口を横に広げ、歯並びの良い白い歯を見せ、目じりに皺を寄せながら微笑んだ。 エリの会社はシフトドアを発案した会社である。 誰でもいつでも好きな場所へ瞬間移動できるシフトドアは便利ではあるが 悪事に利用しようとする一部の人間が、そのシステムの略奪を企てているのは確かである。 病室のベッドに横になっているエリに、今回の事の次第をナリタ部長が語って下さった。 犯人は一か月前に入社したばかりのAさんだった。 彼はシフトドアのシステムを狙う組織の一員だった。 出勤時間より早い時間に来たAさんが社内を物色していたところ、廊下からエリ達の話し声が聞こえてきてとっさにドアの横に隠れた。 入ってきたナリタ部長が自分に気づかずに直進していった。 エリもまっすぐ行ったらすぐに部屋から出ようとしたが、エリが振り向こうとした。 とっさに近くにあった傘立てでエリの後頭部を殴ったのだ。 その音に気が付いてナリタ部長が彼を取り押さえ、すぐに警察に連絡し、シフトドアで警察が1分以内に到着し、現行犯逮捕され、エリは救急隊によって病院へシフトドアで運ばれたのである。 Aさんがエリ達に見つかった時、適当な理由をつけてごまかせばよかったのだが、後ろめたい理由があるAさんはとっさに言い訳が思いつかず、ついエリを襲ってしまったのだった。 もし、犯人が逃げてしまった場合でも、その追跡は簡単に出来るようになっている。 今の時代は人が産まれた時にお尻に1㎜位の小さなチップを埋め込まれる。 それは唯一無二の「個人番号」である。世界の中で同じ番号はない。 そして誰がいつどこで何をしているのかは、国連のある部署で把握されている。 そして、事件が起きた時にその場所にいた人をすぐに特定し犯人はスピード逮捕できるようになった。 災害時の救出の際もそのチップで氏名が瞬時に明らかになる。 だから、この「個人番号」のお陰で犯罪がほぼない平和な世界に変わった。 エリの勤務先が開発したシフトドアは、行きたい場所に瞬時に移動できる。 しかし、その移動先が例えば人様の台所だったらどうだろうか。 突然現れた来客に相手は驚いてしまう。 だからシフトドアの移動先は「目的地の外まで」と、限定するようにシステムを制御している。 そのシステムの制御を外して悪事を企てようとしている一部の集団がいるのである。 IT化は便利と危険を併せ持っている。 人の思考が分かる研究が進められている。 それは犯罪を未然に防ぐことに貢献するだろう。 しかし、全てお見通しの状況で生きることは果たして幸せなのだろうか。 「あの人は私のことをどう思っているのかしら」 と、恋焦がれる相手のことを想う切なさを感じることなく、全て分かってしまう。 あなたはそれを望んでいる? ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1860日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad シフトドア 全てお見通し(妄想の世界)

シフトドア(妄想の世界)【音声と文章】

小さなダイヤが光るピアスをしたエリは家の戸締りを確認した。 戸締りと言っても全て機械化されている。 家の中にいながらしかも今の場所にいながら全ての窓やドアの戸締りをすることができる。 火の元もチェックされるのだが、エリは自分の目でも確かめる。 今日は月一の会社に出勤する日。 エリの仕事はほぼリモートで済む職種だが、月に一回、自分の都合に合わせて出社することに決まっている。 社内の打ち合わせや会議も全てリモートで済むから会社に行く必要がない。 お客様との打ち合わせもリモートで済ませるのが今は常識になっている。 昔は、普段リモートで済ませても大事なお客様との商談は直接お会いしなければ失礼に当たるという常識があったと、エリはおばあちゃんから聞いたことがある。 今はお互いの時間を有効に使うためにも「会わない」ことが常識になっている。 それでも月に1回は会社に出勤して機械では感じ取れないお互いの情感を揺らして、仲間意識をはぐくむ工夫がされている。 支度が整ったエリは瞬きを2回半した。 目の前に「シフトドア」が現れる。 エリが行き先を告げる。 するとその建物の付近の映像が出てくる。 「オッケー!」エリが言うと、シフトドアの確認ボタンが現れ、それを人差し指でタッチする。 たちまち、会社の建物の前についた。 おばあちゃんが独身の頃は、「デンシャ」という乗り物があったそうだ。 その中に人がぎゅうぎゅう詰めにされて乗り、降りる駅につくとドアから人が吐き出されるように出てきたそうだ。 蒸し暑い梅雨の時期は、隣の人の傘が自分の足元にあたり、傘のしずくがパンプスの中にポタリポタリと落ちてきても、自分は動くこともできない。 そんな嫌な思いをして毎日通勤していたとおばあちゃんから聞いたことがある。 今は「シフトドア」で簡単にすぐに目的地へ瞬間移動できる。 だから「デンシャ」というものに乗らなくてもよくなった。 「デンシャ」が無くなったから、その通り道である「センロ」がなくなり、今は緑の多い景観に変わったのだとおばあちゃんが言っていた。 国内は勿論、海外のどこへでも瞬時に移動することができるのが「シフトドア」の良いところだ。 ただ、セキュリティの観点から、移動先は「外」に限られている。 つまり、例えば、瞬間移動した先が突然、○○さんの居間になったりはしないようにプログラミングされている。 直接、目的地の部屋の中に入ることは技術的には不可能ではないのだが、国や世界の法律で、「移動先は目的地の屋外」と決められている。 「やぁ、おはよう!」 会社の建物の前に立ったエリにナリタ部長が手を挙げて近寄ってきた。 紺のストライプのネクタイが爽やかな部長にお似合いだ。 一か月振りにお会いしたが、いつも素敵で心がときめく。 軽くウエーブがかかった髪を何気なくかき上げる仕草。カジュアルではあるが品を保っているブレザー。 ほのかに香るヘアコロン。 PCでは得られない五感。 エリは部長と並んで話をしながら会社の建物に入って行った。 エリの会社の入り口のドアが部長の顔認証で開いた。 部長の後に続いてエリが社内に入った。 ふと、エリはうしろに違和感を感じ振り向こうとしたが、同時にエリは鈍器で後頭部を殴られ、突然、真っ白な世界に落ちていった。 ピアスのダイヤが一つ外れて床に転がったがエリはそれを見ることはできなかった。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1859日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad シフトドア(妄想の世界) ※続きはこちらになります。 ↓ https://note.com/tukuda/n/ndcd4c83bfb9e