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「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
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シフトドア  全てお見通し(妄想の世界)【音声と文章】

※こちらのnoteの続編です。 https://note.com/tukuda/n/n6630e7c0f1df?from=notice エリはふわっとした白い世界から戻ってきた。 心配そうなナリタ部長の顔が見えた。 「良かった。」 ナリタ部長は口を横に広げ、歯並びの良い白い歯を見せ、目じりに皺を寄せながら微笑んだ。 エリの会社はシフトドアを発案した会社である。 誰でもいつでも好きな場所へ瞬間移動できるシフトドアは便利ではあるが 悪事に利用しようとする一部の人間が、そのシステムの略奪を企てているのは確かである。 病室のベッドに横になっているエリに、今回の事の次第をナリタ部長が語って下さった。 犯人は一か月前に入社したばかりのAさんだった。 彼はシフトドアのシステムを狙う組織の一員だった。 出勤時間より早い時間に来たAさんが社内を物色していたところ、廊下からエリ達の話し声が聞こえてきてとっさにドアの横に隠れた。 入ってきたナリタ部長が自分に気づかずに直進していった。 エリもまっすぐ行ったらすぐに部屋から出ようとしたが、エリが振り向こうとした。 とっさに近くにあった傘立てでエリの後頭部を殴ったのだ。 その音に気が付いてナリタ部長が彼を取り押さえ、すぐに警察に連絡し、シフトドアで警察が1分以内に到着し、現行犯逮捕され、エリは救急隊によって病院へシフトドアで運ばれたのである。 Aさんがエリ達に見つかった時、適当な理由をつけてごまかせばよかったのだが、後ろめたい理由があるAさんはとっさに言い訳が思いつかず、ついエリを襲ってしまったのだった。 もし、犯人が逃げてしまった場合でも、その追跡は簡単に出来るようになっている。 今の時代は人が産まれた時にお尻に1㎜位の小さなチップを埋め込まれる。 それは唯一無二の「個人番号」である。世界の中で同じ番号はない。 そして誰がいつどこで何をしているのかは、国連のある部署で把握されている。 そして、事件が起きた時にその場所にいた人をすぐに特定し犯人はスピード逮捕できるようになった。 災害時の救出の際もそのチップで氏名が瞬時に明らかになる。 だから、この「個人番号」のお陰で犯罪がほぼない平和な世界に変わった。 エリの勤務先が開発したシフトドアは、行きたい場所に瞬時に移動できる。 しかし、その移動先が例えば人様の台所だったらどうだろうか。 突然現れた来客に相手は驚いてしまう。 だからシフトドアの移動先は「目的地の外まで」と、限定するようにシステムを制御している。 そのシステムの制御を外して悪事を企てようとしている一部の集団がいるのである。 IT化は便利と危険を併せ持っている。 人の思考が分かる研究が進められている。 それは犯罪を未然に防ぐことに貢献するだろう。 しかし、全てお見通しの状況で生きることは果たして幸せなのだろうか。 「あの人は私のことをどう思っているのかしら」 と、恋焦がれる相手のことを想う切なさを感じることなく、全て分かってしまう。 あなたはそれを望んでいる? ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1860日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad シフトドア 全てお見通し(妄想の世界)

シフトドア(妄想の世界)【音声と文章】

小さなダイヤが光るピアスをしたエリは家の戸締りを確認した。 戸締りと言っても全て機械化されている。 家の中にいながらしかも今の場所にいながら全ての窓やドアの戸締りをすることができる。 火の元もチェックされるのだが、エリは自分の目でも確かめる。 今日は月一の会社に出勤する日。 エリの仕事はほぼリモートで済む職種だが、月に一回、自分の都合に合わせて出社することに決まっている。 社内の打ち合わせや会議も全てリモートで済むから会社に行く必要がない。 お客様との打ち合わせもリモートで済ませるのが今は常識になっている。 昔は、普段リモートで済ませても大事なお客様との商談は直接お会いしなければ失礼に当たるという常識があったと、エリはおばあちゃんから聞いたことがある。 今はお互いの時間を有効に使うためにも「会わない」ことが常識になっている。 それでも月に1回は会社に出勤して機械では感じ取れないお互いの情感を揺らして、仲間意識をはぐくむ工夫がされている。 支度が整ったエリは瞬きを2回半した。 目の前に「シフトドア」が現れる。 エリが行き先を告げる。 するとその建物の付近の映像が出てくる。 「オッケー!」エリが言うと、シフトドアの確認ボタンが現れ、それを人差し指でタッチする。 たちまち、会社の建物の前についた。 おばあちゃんが独身の頃は、「デンシャ」という乗り物があったそうだ。 その中に人がぎゅうぎゅう詰めにされて乗り、降りる駅につくとドアから人が吐き出されるように出てきたそうだ。 蒸し暑い梅雨の時期は、隣の人の傘が自分の足元にあたり、傘のしずくがパンプスの中にポタリポタリと落ちてきても、自分は動くこともできない。 そんな嫌な思いをして毎日通勤していたとおばあちゃんから聞いたことがある。 今は「シフトドア」で簡単にすぐに目的地へ瞬間移動できる。 だから「デンシャ」というものに乗らなくてもよくなった。 「デンシャ」が無くなったから、その通り道である「センロ」がなくなり、今は緑の多い景観に変わったのだとおばあちゃんが言っていた。 国内は勿論、海外のどこへでも瞬時に移動することができるのが「シフトドア」の良いところだ。 ただ、セキュリティの観点から、移動先は「外」に限られている。 つまり、例えば、瞬間移動した先が突然、○○さんの居間になったりはしないようにプログラミングされている。 直接、目的地の部屋の中に入ることは技術的には不可能ではないのだが、国や世界の法律で、「移動先は目的地の屋外」と決められている。 「やぁ、おはよう!」 会社の建物の前に立ったエリにナリタ部長が手を挙げて近寄ってきた。 紺のストライプのネクタイが爽やかな部長にお似合いだ。 一か月振りにお会いしたが、いつも素敵で心がときめく。 軽くウエーブがかかった髪を何気なくかき上げる仕草。カジュアルではあるが品を保っているブレザー。 ほのかに香るヘアコロン。 PCでは得られない五感。 エリは部長と並んで話をしながら会社の建物に入って行った。 エリの会社の入り口のドアが部長の顔認証で開いた。 部長の後に続いてエリが社内に入った。 ふと、エリはうしろに違和感を感じ振り向こうとしたが、同時にエリは鈍器で後頭部を殴られ、突然、真っ白な世界に落ちていった。 ピアスのダイヤが一つ外れて床に転がったがエリはそれを見ることはできなかった。 ※note毎日連続投稿1900日をコミット中!  1859日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad シフトドア(妄想の世界) ※続きはこちらになります。 ↓ https://note.com/tukuda/n/ndcd4c83bfb9e