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ショートショート

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「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
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指先の会話(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1689日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 指先の会話(ショートショート) をお伝えいたします。 「じゃ、やるか」 私は6畳くらいの玄関のアスファルト敷に新聞紙をずらして広げ、あなたは台所から小さい椅子を持って来てその上に置いた。 あなたは首の周りにぐるりとケープを巻く。 私は電動かみそりを延長コードに接続する。 「えーっと、今日はどうする?」 私はなぜか照れて、どうでも良いことを言い始める。 中くらいの刈り上がりになるカセットをセットして全体を切ってゆく。 前髪は少し長めに残るようにしている。 次に一番短めの刈りあがりになるカセットに付け替えた。 これ以降は少し注意が必要だから自然と無口になる。 私はあなたの後頭部のあたりを軽く押す。 私の掌からあなたへ信号が送られる。 あなたは黙って下を向く。 刈り上げていくと小さな髪の毛が私の手にまとわりつく。 それは、普段、幼い娘たちのお世話で夫にまで手が回らない私への感情表現のように感じた。 私だってもっとあなたに触れていたいのよ。と、指先からあなたに発信する。 前回よりもうしろを綺麗に刈ることができた。 次は耳の周り。 私はあなたの耳を人差し指と中指で内側に畳んでその周りを刈ってゆく。刈る方向に沿って、抑える指先を微妙に動かす。 顔を近づけるとたばこのツーンとした匂いがした。私はその匂いを打ち消すようにゴクリと唾をのんだ。 あなたは目を閉じじっとしている。 何を考えているの?言わなくてもなんとなく分かる気がする。 終わりに向かって無言のひと時が続く。 ジリジリと器械の音だけが玄関内に響く。 話をたくさんしている時もいいけれど、無言のひと時は、言わない分、それ以上に濃厚な会話をしているような気がする。 「これでどう?」 私は靴箱の縦長の鏡があなたに見えるように扉を開いた。 髪が短いあなたにキュンとする。 私は思わず後ろからあなたの頬に掌をあてた。 あなたは私の腕を優しく握る。 「うん」 数秒間の沈黙の後、あなたはそれだけ言って椅子を持ち上げた。 私は箒で椅子についた髪の毛を払いのける。 そして器械の後片付けをして箱にしまう。 あなたは新聞紙を畳んでゴミ袋に入れる。 玄関は何もなかったように元に戻った。 初めて電動かみそりをあなたが買ってきた時は戸惑いばかりだった。 うしろが見えないあなたは気が付いていなかったけれど、刈りあがりがいびつになり、いかにも自宅で刈ったのが分かるできだった。 毎回、ヒヤリとしならがあなたの髪を切っていった。 そして何回もするようになり少しずつ慣れていったのだ。 黙ってされるままになっているあなたが愛おしいと感じる。 私が添える指先であなたに気持ちを伝える。 目をつむるあなたの閉じた瞼からあなたの言葉を受け取る。 あなたの髪を切っている時は、無言の会話が続くひと時。 あとでもっとその続きを聞かせて。 今回は 指先の会話(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1688日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート) をお伝えいたします。 昭和の時代、ひとりの若者が高卒で、ある町工場に就職した。 特別秀でたものがない、平均的な若者だった。 町工場の親父さん(社長)はとても親身になってくれる方だった。 世の中の事を何も知らない若者に対して初めての銀行口座開設は親父さんがやってくれた。 若者は親父さんの言うとおりに署名し、届出印は親父さんが用意してくれた。そしてキャッシュカードを渡された。 「これでお金が必要な時に下ろせばいい。通帳もあるが記帳しなくてもだいじょうぶだから。」 世間知らずの若者は親父さんからキャッシュカードを受け取り、その後はお金がいり用な時に少しだけお金をおろして使っていた。 通帳と印鑑は渡されなかったが世間知らずの若者はそれを不自然だとは思わなかった。 一人っ子で母親と二人暮らしで他に身寄りのない若者は親父さんから仕事のことは勿論、人間として生き方・考え方をたくさん学んだ。 親父さんのおっしゃる世界は若者にとって全て正義だった。 だから、身の回りに起こることは全て親父さんに話をしていつも相談に乗っていただいていた。 若者は周りの人よりも呑み込みが遅い方だったがそれでも数年後には一人前に仕事ができるようになった。 ある日、彼は自宅の建て替えを余儀なくされた。 住んでいる土地が市の都市計画にかかり、立ち退かなければいけなくなったのだ。 他の土地に家を建てる分以上のお金が市から入ってくることになった。 彼はすぐに親父さんに相談し、親父さんはとても喜んでくれた。 そして、いままでの給与振込の通帳を解約して、新しい通帳を親父さんが作ってくれキャッシュカードを彼に渡した。 定年間近になった彼は、ある件で、昭和の時代の通帳の出し入れを確認しなければいけないことになった。 何でも相談していた親父さんは数年前に会社を去られ、彼の知らない場所で暮らしている。 だから今は何でも自分で考えて生きていかなければいけない。 ずっと通帳記帳をしたことが無い彼は金融機関に相談に行った。 1,100円の手数料を支払い、1時間以上待たされて当時の通帳の動きを知ることができた。 彼の目的は果たされた。 しかし、よく見ると、当時、自分の知らない引き出しがたくさんあることに気づいた。 〇〇リースとか、〇〇ファイナンスとか。 そして、マイナス残高になることが多く、給与振込でプラスの残高になるのだが毎月のリースやファイナンスでまたすぐにマイナス残高になっていた。 彼はその引き落としに全く記憶がない。 ずっと通帳記帳したことがなかったから、彼はそれには全く気が付かなかった。 親父さんはいい人だったが、競馬・競輪・パチンコに興味がある人だった。 そのことで、時々若者からお金を借りることがあった。 さて、自分に身に覚えのないリースやファイナンスという引き落としはいったい何だったんだろうか。 今回は 身に覚えのない自動引き落とし(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

パワハラ(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1684日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は パワハラ(ショートショート) をお伝えいたします。 人は絶対的権力を手にすると自分の行いが見えなくなる。 何をしても許される。 そう勘違いをしている。 自分が気に入らない人には徹底的に塩対応する。 正常な判断ができないのかと思うとそうではない。 するべきところで的確な判断を下している。 それなのに、一部の人に対しては憎んでいるとしか思えないほどの対応をする。 私が同じ立場になることはありえないが もしもそうなったら 私はそんな人には絶対ならない。 今回は パワハラ(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

言えばいいのに(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1681日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 言えばいいのに(ショートショート) をお伝えいたします。 けい子とヒロシは黙々と食べていた。 「鮭、焼きすぎたかな?」 けい子は鮭のゴツゴツを口の中に感じながらそう思った。 「この卵焼きも美味しい。けい子の料理は最高だ」 しっとりした卵焼きを食べながらヒロシは心の中で思った。 「ヒロシはいつも食事の時は黙っている。まずいのかなぁ。 そうしてみればこの卵焼きは少ししょっぱいかもしれない。」 けい子は心の中でそう思い、残念な卵焼きの存在を打ち消すように噛みしめた。 「う~ん。この味噌汁も昆布の出汁がきいてえのきと大根の組み合わせは最高。けい子の料理は世界一だ。」 そう思いながらヒロシは味噌汁の香りを楽しんだ。 「味噌汁、イマイチかもしれない。どうしても昆布を煮すぎてしまうのよね。大根は拍子切りよりもさいの目の方が良かったかな。」 けい子は心の中でそう言って味噌汁を吸った。 食事が終わり、ヒロシはごちそうさまも言わずに席を立った。 何も言わないのはそう育ってきたからであり、食事に対しての不満があるのではない。 けい子の食事はいつも美味しい。 ヒロシは歯磨きをして鏡の前でヘアスタイルを整え、家を出ていった。 ヒロシは「食事中は話をするものではない」と親から厳しく躾けられて育った。特に厳格な父にはよく注意されたものだ。 だから食事中に黙って食べるのはヒロシにとっては当たり前のことだった。 ヒロシは胃のあたりを軽くさすりながら 「今朝の料理もおいしかったなぁ」と満足しながら駅に向かった。 ヒロシを見送ったけい子は 「ヒロシの皿や茶碗は綺麗に全て食べられているが、美味しくなかったものを無理やり食べたのかもしれない。」 そう思った。 けい子は自分の料理を喜んで食べてもらえないことに毎日自信を失っている。 どこがいけないのだろうか。 ヒロシに聞いてみたいが、そんなこと聞かれても、と言われそうで聞けない。 私たち、いつからこうなってしまったんだろう。 付き合っていた頃は何でも話していたのに。 美味しいものを食べた時「美味しいね!」って二人で目を見開いていたのに。 この人とならうまくやっていける、そう思って結婚したのに。 毎回の食事の時、ヒロシはいつも無口になる。 やっぱり私の料理が口にあわないのだろうか。 けい子はワイワイと話しながらご飯を食べる家庭で育った。 特に博学な父はけい子達にいろいろな考え方を食事中に語ってくれる人だった。 普段けい子が読むこともない孔子や孟子の話も聞くことができた。 食事は楽しむものだとけい子は感じながら育ってきた。 会話のない食事の時間はけい子にとって息が詰まる時間だった。 特に美味しくもない料理を毎日食べさせられるヒロシは、もしかして地獄の時間なのかもしれない。 優しさゆえにそれをけい子に言えないのかもしれない。 優しいヒロシをこれ以上苦しめていいのか。 私から身を引いた方がいいのではないか。 けい子は引き出しに忍ばせておいたその用紙を取り出し、しばらく眺めていたが引き出しの奥にそれをまたしまった。 今回は 言えばいいのに(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+