冬の朝



通勤電車。
いつも隣の駅から2.3歳の男の子を連れたお母さんが乗り込んでくる。お母さんも通勤の途中だろうか。乗客のまばらな車中にも関わらず、男の子を膝に乗せきゅっと小さくなって座席の隅っこに座る。
男の子は窓の外を指さしたり手にした電車のおもちゃを見せたりしながら小さな声でお母さんに話しかけ、お母さんは幼いおしゃべりに小さく頷きながら相槌を打つ。

今朝はことさら風が冷たかった。
お母さんが男の子の小さなこぶしを掌に包み、冷たいねとささやいた。
男の子は、くすぐったそうに体を捩り、あったかいとささやき返す。
車窓の外は眩しい冬の青空。
幸せそうだなと思った。

幼い子が常に自分の体の一部のように身近にいる、楽しくも不自由な、安らかながらも不安だらけだった子育て時代。あの長い日々の中にも、あんなふうに甘やかな至福な瞬間がたくさんあったのだろう。
もう、その一つ一つを数えることは出来ないけれど、でもその蓄積が確かに今の私の日々を支えている。

願わくば、あの電車の親子にも私の息子や娘たちにも、暖かな陽射しが眩しく照らす瞬間がたくさんたくさん訪れますように。

#エッセイ
#冬の朝

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