質の悪いマジシャンがチップをもらうために使う手口とは
先日、Twiiterを眺めていたら「お店でご飯を食べていたら、急にマジシャンがやってきてマジックを見せられ、そのあとお金を要求された」というツイートが流れてきました。
この記事を読んでいる人の中にも、同じような経験をしたことがある人もいるかもしれません。もしいましたら、マジシャンを代表して謝罪します。
本当に申し訳ありませんでした。
実際、こういう質の悪いマジシャンはたまにいて、中には警察沙汰のトラブルになりそうになったという件も、風の噂で聞いたことがあります。
今日は、なんでこんなことが起こってしまうのか、そして、マジシャン側はこうならないために何に気をつければいいのかをお話していこうと思います。
マジシャンは意外と稼げる
「テーブルホッピング」という形態がありまして、テーブルごとにお声がけをしていき、目の前でマジックをお見せしていく、という営業スタイルです。一般的な居酒屋でホッピングが行われる場合、大体は歩合制、つまりチップ(おひねり) をその日の報酬としている場合が多いです。
そして、このホッピングという形態、実は、短期的に見るとかなり稼げるお仕事なんです。
例えば、お店が4人掛けのテーブルが10席あるお店で、満席の時に入ったとします。マジックをご覧いただいて、楽しんでもらえたらおひねりをもらえます。すごく楽しんでもらえると千円札でいただけます。
1テーブル10分弱のパフォーマンスなので、約2時間で40人×1000円で4万円。時給換算すると、1時間で2万円です。こう聞くと、めっちゃ稼げる気がしますよね。笑
もちろん全員が必ずくれるわけではありませんし、中には小銭の人もいます。さらに昨今の情勢で、お客様の人数も少なくなっているので、こんな感じになることは減りました。
ですが、10人から500円ずつもらったと仮定しても5000円。時給2500円の高単価です。
こう聞くとやっぱり稼げそうな感じしますよね。実はこれはかなり罠でして、最初に言った通り、短期的に見れば稼げる仕事ではあるんですが…これは話がずれますので、また別の機会にお話します。
まあ、こういう事実がありますよ、ということを前提に置いておいてください。
質の悪いマジシャンのチップのもらい方の手口
稼げるお仕事なので、マジックを勉強して、飲食店に交渉し、テーブルホッピングに挑戦するというマジシャンは結構多くなってきました。
真摯にマジックに向き合う手品師もたくさんいますが、中には、チップを稼ぐことが先行して、客を食いものにするような質の悪いマジシャンもいます。大した面白くもないのに、お金だけは一丁前にとる方がいて、そういう方々が最初に話したようなことをしでかしています。
本来、チップのもらい方は、プロのマジシャンが結構秘密にしておきたい情報なんですが、質の悪いマジシャンがこれを悪用して、その結果、マジシャンに対してのイメージが大きく下がっているという事実もあります。
僕も初めて入った飲食店でお客さまにマジックを見せようとしたら、ものすごい剣幕で怒られたことがあります。このお客様は後ほどマジックを見せることができたので、少しお話を聞いてみると、やはり前にマジシャンにお金をせびられた、とのことでした。
ですので、皆様にはそういった質の悪いマジシャンに気分を害されて欲しくないので、チップをもらうための手口を一部公開します。
まず、お札のマジックをするので、千円札を貸してください、といってきます。千円札を出すと、それを使ってマジックをします。終わったら「もし面白かったら、お気持ちをください」といってきます。おひねりを出さなきゃいけない雰囲気にして、その千円札を出させる…というのが手口です。
実は、これはマジシャンの中では割と有名な方法です。手元に千円札があるので、それをそのままチップとして渡しやすい、というセオリーがあります。
マジシャン向けのチップの稼ぎ方講座では、よくこの手法が紹介されていますし、実際、多くのマジシャンも活用しています。
…ですが!!
質の悪いマジシャンと良いマジシャンで、根本的に違うところが一点あります。それは「空気が全く読めていない」ということです。
上記の方法は、お客さんがマジシャンに対して高評価であり、心の底から楽しかった!という感想を持ってくれた時のみに使えるチップの取り方です。そもそもチップやおひねりは「いいものを見せてくれてありがとう」という観客側の粋な計らいです。もちろん強制されて出すものではありません。
マジシャンはそのチップをもらうために、最大限お客様に楽しんでもらい、「チップを出してもいいや」「それぐらいの価値がある」と思わせるパフォーマンスをしなければいけません。
楽しんでもいないのにお金を取ろうとするなんて、言語道断です。
先ほどの手法は、お客さまが楽しんでいることが前提であって、その状態のときに千円札を出してもらいやすくするためのエッセンスでしかありません。
ですが、不勉強なマジシャンはそういうことを理解せずに「こうすれば千円もらえるんでしょ」という安直な思考になってしまうわけです。
事実、質の良いマジシャンは、上記の方法をとったとしても快くその千円札をチップとして頂けることが多いです。なんなら、まだ別のアプローチで気持ちよく出していただけることもいっぱいありますし、そこにいる全員がチップとして千円札を出してくださることもあります。人によっては万札で頂けることも。
ですが、一度、質の悪いマジシャンに当たってしまうと、質の良いマジシャンが来てもイメージは最悪ですから、素敵なマジック体験をしてもらえる機会を損失してしまいます。
その結果、マジシャンのイメージがどんどん悪くなっていく、という事態が起こってしまいます。
以上が、質の悪いマジシャンが使う手口になります。
ラインを決めて、引き際を見極める
ホッピングは、職業としてのマジシャンにとってみれば業務ですから、しっかりと稼ぎを出さなければいけません。なので、チップをもらいにいかなければいけませんよね。
ですが、その方法を詳しく解説しているものは少ないですし、あったとしてもかなり高額な場合が多いです。とても有益な情報商材ですから、当然といえば当然なのですが。
しかし、その結果、チップのもらい方の表面上の薄っぺらいことぐらいしか学べず、大した稼ぐこともできない上に、お店や周りのマジシャンに迷惑をかけてしまう、という最悪の状態が起きています。
なので最低限、チップをもらう上で必要なことをお伝えします。
それは、最初にチップ制だと伝えることです。
お客様にお声がけをして、マジックを見てもらえることになったら、パフォーマンスを見てもらう前に「最後まで見て面白かったと思ったら、お気持ちを頂けると嬉しいです」と伝えましょう。
これが一番の安全策です。つまり、最初に契約を取り交わしましょう。
面白かったらチップを出していただく、面白くなかったらチップは出さない、というマジックに対する評価基準のラインを設けさせることが重要です。(まあ、契約と言っても、法的拘束力を持つようなものではありません。あくまでイメージです)
もちろん、最初に言うことによって、マジックを見てもらえない可能性が出てきます。「お金取るんなら良いや」みたいな。でもそれで良いのです。だって、お仕事としてやっているのですから。
マジックの練習としてやるなら、その覚悟がないのであれば、お客様からお金を貰わないでください。人様の汗水垂らして稼いだお金を頂く、ということはそういうことです。
というより、その段階で断るような人は、最後まで見てくれた後にチップ口上をしても、きっといい反応はもらえないでしょう。だって、お金を出す気がない状態でマジックを見ているんですから。それこそ、最終的には質の悪いマジシャンの時の状況になってしまいがちです。
評価基準をお客様に持ってもらうことは、マジシャンにとっても良いことがあります。それは、マジックをやっているうちに、チップを出してもらえそうかどうかがわかりやすくなる、ということです。
すごく楽しんでもらえているならチップの評価ラインは超えているでしょうし、あんまり楽しんでいなかったり反応がぎこちなかったら、チップはもらえなさそうだなってことがわかるようになってきます。
そうなるとマジシャンはどういうことができるかというと、「最後にチップ口上をしない」という選択肢が取れます。つまり、ウケなかったお客様からチップを無理やり取ってしまった、という最悪の状況を回避できます。
最初にチップ口上をする最大の利点は、最後に言ってしまうとわからなかった引き際を見極められるようになることです。
ウケていないな、と感じたら「ご覧いただきありがとうございました」と言って、チップ口上をせずにその場を離れれば良いのです。質の悪いマジシャンにならなくて済むのです。
そして、今のパフォーマンスは、お客様の満足する評価ラインを超えられなかったんだな、ということもわかります。どこがいけなかったのか、と反省することもできます。
逆も然りです。全員から千円札をもらったり、万札を出してくれた人がいたら、何が良かったのかを考えるきっかけにもなります。
最初にチップ口上を言うだけで、これだけのメリットが挙げられます。稼げるようにもなるし、自分の成長のためにもなります。僕の結論として、チップ口上は一番最初にするのがおすすめです。
快くチップを出してもらおう
19世紀初頭に活躍したフランスの有名なマジシャン、ロベール・ウーダンという人がいます。「マジシャンは魔法使いを演じる役者である」と言う名言が有名です。
もう一つ、彼の残した名言を紹介します。
「人は、ただ騙されたいのではなく、紳士に騙されたいのだ」
印象のいい稼げるマジシャンは、チップ口上を最初にしようが最後にしようが、お客様を楽しませるのが上手です。チップ口上の切り出し方や伝え方も上手いです。そういう人のパフォーマンスを見た人は、みんな快くチップを出してくれます。
横柄な詐欺師まがいのマジシャンに、お金を払いたいと思う人はいるでしょうか?
ぜひ客観的に見てみてください。あなた自身が観客としてあなたのパフォーマンスを見た時、あなたはチップを払いたいと思うでしょうか。
「騙されたい」と思われるような紳士のマジシャンを目指していきましょう。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました。Twitterを中心にマジックの情報を発信を行なっています、毎日マジックのパフォーマンス動画もアップしていますので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。
それではまたお会いしましょう。月乃輪ウルフでした。
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