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9話

 怖い顔した聿を逸が何とかなだめてくれて、安心した私は又眠りについた。

 次に目が覚めた時にはもう聿は居なくて、逸の気まずそうな顔が私の側にあった。
 きっと聿に責められたと思うと、申し訳ない気持ちになる。
 「ごめんね」
 そう言って顔を隠す様に、逸の胸にしがみつく。
 「大丈夫」
 いつもみたいに、私の頭を撫でてくれる。
 逸は私の撫でて欲しいところがわかる。
 「もっと色々なところ撫でて」
 私の言葉に逸の動きが止まる。
 不思議に思って、逸を見る。
 「お礼をするって…事?」
 逸が怒っている。
 「聿に、零からお礼されてるのかって言われて頭にきた」
 「…」
 「あんな事はお礼じゃない」
 「…」
 すごく怒っている。
 私は逸にお礼なんかした事ない。
 いつも夜にフラフラしているところを待っていてくれて、お風呂で沈まないよう見張っていてくれて、痩せてくる私にご飯を食べさせてくれて、私の痛いところを撫でてくれる。
 それなのに私は何もお礼できていない。
 それにあのお礼はダメだって、聿と逸に教えてもらった。
 だから百華には、ご飯を作ってあげる。
 お礼みたいな行為は、一応付き合っている人とだけ。
 あぁ、でも私なんかと付き合ってくれるって事へのお礼みたいな感覚だったのかも。
 今逸はあんな事お礼じゃないって言った。
 そうだよね。
 私との行為なんかお礼になる筈ないよね。
 すごい思い上がっていて恥ずかしい。

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