川柳 .etc

のっけから蛇足

 去年の春学期、大学の講義で各自がA4用紙一枚に定められたテーマに沿った文章(小説でも随筆でも詩でもなんでもいい)を書いてきて互いに批評しあう、みたいなのがあって、面白そうだったので履修した。
 
 正直、最初は俺の創作能力で他のパンピー共を蹴散らしてやろうみたいな野心があって、実際初めの2回くらいはその勢いでなんとかなったんですけど、逆にいえば勢いが持ったのは2回目までだった。自分はA4一枚ですら満足に書ききれず、超絶遅筆を発揮するとんでもない文豪だということが早々に判明したわけです。怠惰こえー。

 でも、僕はなんだかんだ苦しみながら拙い創作と言葉足らずなコミュニケーションに始まる金曜日を楽しんでいた。そんなことが続いたあとの数回目の授業で、教授が「次は選抜です」みたいなことを言い出した。

 選抜??

 聞くところによると、普通の講義では提出された全ての作品(この講義では「コラム」と読んでいた)を10くらいのグループに分けて、各班が自分に割り当てられた3~4つのコラムを読むのが通常の流れだったが、次回はTA(なんか教授のもとで働く偉い大学生をそう呼ぶらしい)の人たちが予め優れた作品を選出し、その作品だけで批評を行うというのだ。

 うおお、と全僕が色めき立った。ここで選ばれれば名声が手に入る!
 テーマは「エトセトラ」だった。みんながあっと驚くような小説を書いて、来週は圧倒的賞賛を浴びるんだ……!!
 
 マジで何も思いつかなかった。

 んで、苦し紛れに深夜0時すぎにばーって書いた川柳を提出したら、なんか選ばれてました。やったあ人生ってなんなんだ?

 とういうわけで、その川柳連作を公開します。思いつくたびにちょっと足したり消したりして、三十句になりました。最後から3・4番目のやつは今作りました。それではどうぞ。

川柳 .etc


虚も実も秘す拡張子エトセトラ
 
今年から猫は不可算名詞だよ
 
現世とは天蓋つきのベビーカー
 
下の歯はISSに投げました
 
窓越しの神にならって指ハート
 
どの軒も六月病に濡れている
 
免罪符貼って凧揚げしましょうよ
 
雨雲とねじれの位置ですれ違う
 
紫陽花にいつか捧げるカルシウム
 
思想には住所・氏名を書きなさい
 
かなしみの地域格差をかがり縫い
 
それな、って言うな感染しちゃうだろ
 
笑ったら花火で合図してほしい
 
忘れっぽくなるのは走馬灯のため
 
レモン水越しに眺めるメニュー表
 
掃き溜めの鶴の気持ちも察しろよ
 
髪も花も床に落ちていたならごみ
 
支え合えないなら人じゃないのかよ
 
立ち読みをしたら脚から洩れますよ
 
アートには使えない色で生まれた
 
飛ぶのなら来世は神になってくれ
 
まさか異世界でリスキルされるとは
 
手鏡もないのに揺れる胡蝶蘭
 
陰は陰だけど木陰のようなひと
 
ふて寝して夢に合わせる顔がない
 
きみに会うまで遺書だった私小説
 
葉桜になっても忘れないからな

夜の比喩としてベッドでうずくまる

へへ、やっと枷を外して話せるね

感性がひとつ増えたらエトセトラ



 ちなみに、授業の最後には各班がいいと思った作品を一つだけ選出して作者に話を聞くみたいなイベントがあったんですけど、僕は一度だけ呼ばれました。僕の才能に気付いてくれてありがとうな。

 ちなみ2、一番時間をかけて臨んだ最後のコラムは誰にも選ばれませんでした。人生。

 
 


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