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小説✳︎「紘太と結里子」 第4話


こちらは
「月明かりで太陽は輝く」
のサイドストーリーです。
宜しければ、まずは本編を
読んで頂けたらうれしいです。




紘太と結里子の休みが重なる日は
3週間後だった。

仕事休みに、結里子は服を買いに渋谷に
来ていた。平日なので、ゆっくりと久しぶりのショップ巡りを楽しんでいた。
たまたま通りかかったセレクトショップに飾ってあった服に目が止まる。

「あ、これ可愛い。似合うかなあ?」
ショップへ立ち寄ると、すぐに店員さんが寄ってきた。
「いかがですか?これ、可愛いですよね」
「ええ、気になったので」
「試着してみますか?」
「はい」
「どうぞ」

ここ最近は、お店で服を買うこともしていなかったし、必要なものはネットで買ったりしていたので、試着室に入るのも久しぶりだった。
センスのいいセレクトショップで、他にもバックや靴も置いてある。

鏡に映る自分が、少し違って見えた。
紘太への恋が、結里子を輝かせるのかもしれない。自分でも表情が柔らかくなった気がしたのは、この服のせいだけでは無いはず。

結局、服に合わせてバックも購入。
ショップを出て、ちょっと休もうとカフェに入った。
その時、紘太からLINEが届いた。

『お仕事中失礼します』
『今日、私、お休みなんです』
『そうだったですね。僕は昼休み中です』
「お疲れ様です。私は大丈夫ですよ。何かありましたか?』
『この前から、お約束した日はどこに行こうか考えているのですが、いい案が浮かばず、これは花岡さんに伺った方が、早いなと思いました』
『逆に白土さんは普段、お休みの日はどんな事、されていますか?』
『僕は映画を見たり、バッティングセンター行ったりしてますね』
『わぁ、面白そうですね。私も映画やバッティングセンターに行きたいです』
『え?そんなのでいいんですか?』
『もちろんです』
『わかりました。悩んでいるより、やはり聞いて良かったです。ありがとうございました』
『いえ、では楽しみにしています』
『はい。映画はリクエストありますか?』
『どんなものでも構いませんよ。あ、ホラーは勘弁ですけど』
『では、今度行こうと思っていた
昔の映画なんですけどいかがでしょう?』
『いいですよ。今は特に観たい作品もないので、それにしましょう』
『了解です。また、近くになりましたらお時間等、お知らせします』
『はい、よろしくお願いします。午後もお仕事頑張ってください』
『ありがとうございます』

だんだんと紘太とのデートが、現実味を帯びてくる。
結里子はカフェのケーキセットを頼みかけた。
(いや、やめとこ。ちょっとダイエットしないとだよね。デートだよ、デート!)

紘太とのLINE画面を眺めながら、微笑んだ。
♢♢♢♢♢
少し落ち着いたらしく、沙有里からの
連絡が来た。

「結里子!元気?」
「沙有里こそ!そっちはどう?」
「颯人は大変そうだけど、結構楽しいよ!イタリアの人たち陽気で、わたしには合ってるかもー」
「それは良かったじゃーん!」
「それよりさ、空港で別れた後どうしたのよ、あなた達は」
「あ、あの後一緒にお茶した」
「うんうん。で?」
「お付き合いしたい、まずはお友達からって言ってくれた。そして、明日デートでーす!」
「おお!良かった!じゃあ、結里子の告白が受け入れられたんだ!」
「告白?」
「あっ」
「沙有里!何それ?」
「あ、あの、その……紘太さんから聞いてない?」

結里子が一目惚れした事を話した時
紘太が聞いていた事を、沙有里は正直に話した。

「いくら沙有里でもひどいよ」
「結里子、本当にごめんなさい。でも、こうでもしないと何も始まらないと思って……」

紘太の方が、交際したいと思ってくれたと、有頂天になっていた自分が馬鹿みたいで、だけど一目惚れした自分をなんとか結びつけてあげたいと思う沙有里の気持ちもわかっている。

恥ずかしさと、持って行き場のない
心もようで涙が出て来て、止まらない。
その日は一睡も出来なかった。


それでも約束した日はやってきた。

交際も始まらないのに、なんだか失恋したような気持ちだった。

昨晩、確認のLINEが紘太から来たけれど、結里子は既読スルーしてしまった。
当日の朝も、LINEと電話が入ったけれど、どうしても答える事が出来なかった。
すごく申し訳ないけど、違う感情の方が強過ぎた。

約束の時間に
約束の場所に
紘太は待っていた。

約束の時間10分過ぎに
紘太からのLINE。
「約束の場所に到着しております。お待ちしております」

30分過ぎて
「場所、わかりますか?ご連絡いただけると、ありがたいです」

40分過ぎて
「何かアクシデントがあったのでしょうか?ちょっと心配です」

1時間過ぎて
「時間の間違えなどなら良いのですが、大丈夫ですか?体調でも悪くされましたか?僕はずっとお待ちしておりますので、遅れても構いません。出来ればご連絡いただけると安心できます」


結局、結里子も無視しきれず
約束の場所に向かっていた。
少し前から雨が降り出していて
傘に隠れながら、様子を見に約束の場所に向かうと
紘太のデニムパンツの膝下はすっかり色が変わっている。
肩のあたりもシャツが濡れている。
傘は持っているけれど、吹き込む場所だった。
「場所、変えて待てば良いのに」
連絡をしない自分を棚に上げてそんな事を思った結里子だった。

こんなになりながら、ずっと待っていてくれたんだと思ったら、結里子は紘太の元へ向かわずにはいられなかった。

「本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
結里子はひたすら謝った。泣きそうになりながら。

紘太は微笑みながら
「はぁー、良かった!!何かあったのかと思って。でもほかに連絡方法もないし、とにかくここで待つしかないと思って。いや、本当に良かった」
「こんなにずぶ濡れにさせてしまって
本当にすみません……」
紘太は、怒るわけでも理由を問いただすわけでもなく、ただ良かった。来てくれて嬉しいを繰り返した。
「途中で帰るからってLINE来るんじゃないかと思っていました」
少し涙目の結里子は、紘太の手の中のスマホを見ながら言った。
「僕、信じてましたから。必ずきてくれると、信じていましたから……映画、終わっちゃいましたね。ハ、ハ、ハックション!」紘太がくしゃみをした。
「白土さん、こんなに濡れちゃって体冷えちゃったのでは?」
「大丈夫ですが、ちょっとこの格好ではどこ行くにも迷惑になりそうですね」
「私のせいです。本当にごめんなさい」
「では、少し待っててもらって良いですか?」
紘太は近くのファストファッションの店に入り、しばらくすると、店内で買った服に着替えて戻ってきた。

「お待たせいたしました」
「すみません。余計な費用かけさせちゃいましたね」
「いえいえ、ちょうどラフな服買わなきゃなって思ってたところなんで」
「すみません」目も合わせられない結里子に向かって、紘太は
「花岡さん、今日はもうたくさんのすみませんを言ったから、今ので最後のすみませんにしましょう」
「あ、すみ…。わたし、本当にあの……」
「僕は花岡さんが無事にきてくれた事が、本当に嬉しいので。
夜まで待つことになるかと覚悟してましたから、もう気にするのはやめましょう」

紘太は結里子に笑いかけた。

「では、仕切り直ししましょう。映画は終わっちゃいましたが、まずは食事しませんか?お腹空いちゃって僕」
「あ、はい。遅れたお詫びに私にご馳走させてください」
「それはお気になさらず。どこが良いかな?ここにくる途中に、期間限定の旬な魚を食べさせてくれるお店がありました。魚嫌いですか?」
「いえ、大好きです」
「じゃ、そこにしましょう!」
「期間限定、お好きでしょ?花岡さん」
微笑む紘太は、高い腰を折り曲げながら結里子の顔を覗き込んだ。
顔が赤くなるのが、結里子自身もわかった。
(期間限定に弱いって話、ちゃんと覚えていてくれたんだ)
結里子もようやく目が合わせられた。

お店に着いて、席に案内されるとそこは半個室のお店だった。
紘太も初めてのお店だったので
「ああ、ここはこんな風になっているんですね。知らなかった。花岡さんはご存知でしたか?」
「いえ、私も初めてです」
「でもゆっくりできそうですね」
「はい」

着席して注文を終えると、紘太は結里子に「今日は来てくれて本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそお待たせしてしまって、す……」
「うん、それは無しでね。体調でも崩しましたか?」
ようやく理由を聞いてくれた紘太に
思い切って話してみた。
「連絡くださったのに、お返事もしなかった事、自分でも心苦しかったです。でも、どうしても出来なかったんです」
「お忙しかったのかな?」
「いいえ。違うんです……私、沙有里から聞きました。あの日空港で、私が白土さんに一目惚れしちゃったって告白したの、お聞きになっていたそうですね?」
「あぁ、それは」
「私、ショックでした。私の気持ちを知っているのに、黙ってデートに誘うなんて。馬鹿にされたみたいで。だから待ち合わせに行くのもお返事するのもやめようと思ってしまいました」
涙がホロホロ不意に瞳から出てきてしまった。

「あ、ごめんなさい。僕の方が謝らないといけませんよね。僕はそんなつもりなくて、聞いた事をお知らせしなかったのは確かに嘘つきみたいですよね。でも、結里子さんの気持ち知ってるからと、お誘いするのもなんか違う気がして。
実は、僕は結里子さんが気になっていました。だから空港で会えると聞いてすごく嬉しかったんです。純粋に結里子さんとまた会いたいと思ったんです」
「え?」バックからハンカチを出しながら紘太の顔を見た。

紘太の言葉に、高ぶった気持ちがスーッと落ち着いてくるのがわかる。

「後出しジャンケンみたいですけど、僕、結里子さんの気持ちが本当に嬉しかったし、実は自分から誘うなんて事、出来ないと思ってました。一目惚れされるような男じゃないし。勇気出してお誘いできたのは結里子さんが気になっていると言ってくれたからなんです」

「失礼致します。お待たせいたしました」店員が声をかける。
食事が運ばれてきて、一旦話が中断された。

「まずは、温かいうちにいただきませんか?」紘太は、結里子に優しく促した。

食事はどれも美味しくて、お腹が満たされると気持ちも落ち着くもので、お互いのそれぞれの気持ちを素直に受け入れようと思った。

結里子は何より、紘太自身が結里子を誘いたかった、会いたかったと、話してくれた事が嬉しかった。


「美味しかったなぁ」紘太が言う。
「美味しかったですね」結里子も言う。

「結里子さん、確か今日はもうお時間無いですね?これから夜勤とおっしゃっていた」
「はい」
「また会ってくれますか?僕の事、嫌いにならなかったかな?」
「いえ、こちらこそ遅刻したのに、私を信じて待ってくださってありがとうございました。また是非会ってください。今度は遅刻絶対しませんから」
「あはは、いいですよ。何時間でも待てますから。僕、結構忍耐強いんですよ」
「うふふ。遅刻するにしても必ず連絡します」
「それは助かります」

(あれ?)結里子は、紘太が
花岡さんではなく、『結里子さん』と
読んでいたことに気がつく。
嬉しさが心にじんわり広がって行くのが
感じられた。

二人は店を出て、駅までの道を歩く。
雨はいつの間にか止んでいた。
「あっ、虹!」
紘太が指差す空。
結里子が見上げた紘太の顔の先には、七色の光の橋がビルとビルの上をつないでいた。



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#月明かりで太陽は輝く
#サイドストーリー


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