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小説✳︎「紘太と結里子」 第3話

こちらは
「月明かりで太陽は輝く」
のサイドストーリーです。
宜しければ、まずは本編を
読んで頂けたらうれしいです。


「花岡さんと沙有里ちゃんは
『さゆりこ』って呼ばれていたんですよね。本当に仲良しだったんですね」
「はい。白土さんと颯人くんも
同期入職で一番仲良しだそうですね」
「お互い高校球児でしたからね。
颯人とは、歳は僕が少し上ですけどね」
「え?同級生じゃないんですか?」
「僕、浪人したので」
「そうなんですね」 

少しづつ紘太は、自分のことを
話し出してくれた。

結里子は母親が看護師で,憧れから自分も看護師になった話をした。

紘太は医者一家の息子で、祖父、父,兄、姉と全員が医師。家族全員が現役で国立大学医学部に入学していた。当然、紘太も医大を受けるも、高校時代は野球に夢中になり、なかなか勉強が追いつかず、国立大一択で一浪までは認めてもらったものの、その次の年も不合格に。
浪人はもう認めてもらえず、やむなく医療系大学に進んだ。
自分だけ医師になれず、家族ともギクシャクして、就職したらすぐに家を出たと言う。
母親は父親の働く病院で、看護師として勤務していて出会い、結婚したという。

「なんでだろ、初めてお話しする花岡さんに、こんな事まで喋っちゃってお恥ずかしい」
「いえ、繕わずにお話ししてくださって嬉しいです。放射線技師も大切で立派なお仕事です。私もいつもお世話になってますよ」

二人は屈託ない話をする事で、距離も縮まったと感じられた。

結里子をじっと見つめ、紘太は
決心したように切り出した。

「幸せなそうな颯人と沙有里ちゃんをみて、羨ましいと思いました。あの、花岡さん、これも何かのご縁。宜しければ、僕と友達からでいいので、お付き合い始めてくださいませんか?」

紘太からの言葉に、結里子は内心、小躍りしたい気持ちを抑えて
「じゃあ……まずはお友達から」と答えた。
「良かったらLINE、交換してくださいますか?」
「ちょっとお待ちください……はいどうぞ」
自分のQRコードを出して紘太に差し出した。
「ありがとうございます。早速ですが、今度、僕と休みが合う日、会っていただく事できますか?」
積極的に、次のデートの申し込みをしてくれる紘太に、結里子は嬉しくて仕方なかった。

紘太は、自分からデートの申し込みをすることができた。

結里子が、こんな自分に一目惚れしてくれた話を聞いてしまった事は、言ってはいけないと思ったし、逆に心が痛んではいたが、好意を持ってくれているからこそ、少しの勇気を出すことができたのも事実。
ずるいかもしれないが、自分に自信もなく、少し臆病なところがあるから、きっと自分からなんて絶対声をかけることは出来ない。

紘太も、あの結婚式で
ブーケを手にしてキョトンとしている結里子が、可愛いなぁと思い、気になっていたとしても。

それが、こんな展開になり普段は奥手男子だった紘太が、自分から結里子のLINEを聞き出し、次のデートの約束まですることが出来た。我ながら驚きだった。

結里子といると元気になるし、思わぬ勇気も出すことが出来た。
その日から、紘太の中で何が変わっていく。
次に会う日が待ち遠しい。平凡に過ぎていた日々が、明るくなっていく。目の前のことが楽しく感じる。
学生時代に多少の恋はしてきたけれど
社会人になってから、仕事も不規則勤務で、友達とすらなかなか遊びにも行けず休みの日は大概、一人で映画を見に行くか、草野球を見に行くか、バッティングセンターに行く位の日々。
『花岡さんとは、どこに行けば喜んでくれるんだろう』
あれこれ考える時間も楽しく思えた。



結里子はと言えば、まさか自分が一目惚れした相手から、デートに誘ってもらえるとは思ってもみなかったから、帰り道はこっそりスキップしてしまったくらいだ。
沙有里達をみて、羨ましいと思ったって事は結婚も意識するくらいって事?
きゃー!照れるー。

その日からついつい、にやけてしまう自分が、可笑しくて、こんなに心躍る事は久しぶりだと思っていた。
仕事は激務で、疲れて帰るとひたすら睡眠に充ててしまうし、休みもたまに友達とランチに行くくらいだった。

「え?ちょっと待って!わたし、最近お出かけも女友達とだけで、洋服も全然買ってない!せっかくのデートなのに、どうしよう。よし!今度の休みはお洋服とかバックとか買いに行かなきゃ!」
素敵な計画が、回り始めた。結里子もまた、平凡な日々から輝き始めた事を感じる。

#紘太と結里子
#月明かりで太陽は輝く
#サイドストーリー


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