小説✴︎梅はその日の難逃れ 第3話
4月からは高3になる千鳥。
進路を決めるにしても、特に希望とかやりたい事もない。担任から渡された進路志望カードを手に、自宅の縁側でため息をついていた。
「千鳥ちゃん、どうしたの?」
「あ、小春さん。これ」
と言って小春にカードを見せる。
「千鳥ちゃんは将来何になりたいの?」
「それがないから困ってるの」
「そうね。千鳥ちゃんは小さい頃から、特別夢中になってる事無かったね」
「どうしたらいい?小春さん」
「いっそ、花嫁修行する?」
「なにそれ?」
「料理を習うとか、洋裁を習うとか」
「いつの時代の話?そもそも私、結婚願望すらないからな〜。
料理は小春さんから習えば良いし、今時洋服なんて作れなくても不自由しないよ」
「確かにそうだけど。千鳥ちゃん
結婚願望無いって何?」
「あーうん。私さ小春さんやお母さんが、おじいちゃんやお父さん亡くなった時のひどい落ち込みと、悲しくて寂しくて泣いて暮らした数ヶ月を見てると、誰かを好きになって結婚して旦那さんと別れる辛さが耐えられないって思ったの。だったら最初っから彼氏も作らず、一生独身でもいいかなって思ってて」
「千鳥ちゃん、それは違うわよ。人を好きになるのって理屈では無いのよ」
「そう言うもの?だって今までそう言う人に会った事ないし」
「千鳥ちゃんは、運命の人にこれから出会うのかもしれないでしょ?」
「そうかなぁ?」
「それにね。そりゃおじいさんとの別れは悲しかったわよ。でも実はおじいさんと結婚する前に、もっと好きだった人と結婚できなくて、その時も本当に辛かったわ」
「え?小春さんとおじいちゃんって初恋の人じゃないの?」
「おじいさんは親が決めた人よ。あの時代、恋愛してそのまま結婚なんてできない時代よ」
「え〜!写真とかで見ても、あんなに仲睦ましくしてるし、てっきり恋愛かと思った」
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