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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第25話

大学の校門前に
小春と千鳥は一緒に佇んでいると
門の中から、手を振りながら
春翔がやってきた。

「よく来てくださいました!
小春さん、千鳥ちゃん」
「こちらこそ、お招きありがとうございます。楽しみね、千鳥ちゃん」
小春は笑顔を千鳥に向けて言った。

千鳥も小さな声で
「ありがとうございます」と頭を下げた。
「さ、入って入って。僕が案内するから」
小春を気遣ってか、少し緩やかな足取りで歩き出す春翔。
その後ろを小春と千鳥はついて行った。

大学の中にある大きな植物園には
世界中の植物が栽培され、研究されている。
今回はその中をプロジェクションマッピングを使ってのイベントを開催するという。
夜になってからの開催で
達者とはいえ、万が一転倒などしては
困るので、春翔も小春には千鳥を誘って一緒に来て欲しいと言っておいた様だった。

植物園の中には世界中の気候に合わせたいくつか温室がある。
その植物や原産国に合わせた
プロジェクションマッピングで
幻想的だったり、リアルだったり
イメージが膨らむ映像と音響が合わされて、素晴らしいものだった。

竹林があるゾーンでは
まるで中国にいるかのような映像の後
パンダが遊ぶ映像が始まった。
千鳥は、思わず
「わあ!か、かわいい!」と声を出してしまった。

隣の小春が
「千鳥ちゃんの大好きなパンダちゃんね」
と声をかけた。
「うん!」
「千鳥ちゃんも、パンダ好きなんだ」
春翔が言う。
「桜井さんもパンダ好きですよね?」
千鳥が答えた。
「え?知ってた?そう、この映像は僕が企画したんだ。何でパンダ好きって気がついたの?」
「うちに初めてきた時、小春さんがシャツを繕うために桜井さんが脱いだら、下に私と同じパンダのTシャツ着てたから」
「え?あれ持ってるの?よく気がついたね」
「あのTシャツはシャンシャンの来日限定品ですもの。なかなか手に入らないものを持ってるなんて、相当オタク……」
「あははは、うん、オタクだよ!パンダ大好きだ」

『大好きだ』のワードに
急にドキドキしてしまった千鳥は
自分の頭とはかけ離れた所で
心が勝手に動き出している事に
気付き始めていた。

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