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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第16話

春翔が梅干しを好きになったわけ
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僕が幼稚園時代、母親が怪我をして
入院した時期があった。
父親は仕事が忙しく、とてもじゃないが幼児の面倒は見られない。
そこで僕は、祖父母宅に
2ヶ月程預けられた。
当然、生活スタイルも違ったが
祖父は厳しい人なので
子供の僕に合わせようとはしない。

母が普段、僕が食べているものや
生活サイクルをわざわざメモして
祖母に渡していても
完全に無視だった。

朝ご飯のパン食は無くなり
白ごはんに、納豆、卵焼き
魚と味噌汁
そして必ず添えてあるのは梅干しだ。
祖母は料理もうまいので、母親の食事とは全然違う献立だが
すぐに、僕は祖母の作る和食に
ハマっていき、パンは、たまのお昼や
おやつに食べるくらいになる。
母が退院して自宅に戻っても
マックのハンバーガーより
おにぎりが食べたいと
親に言っていたくらいだったらしい。
梅干しも気がつくと大好物になっていた。

祖父宅に世話になっている時期
僕の面倒や遊びに付き合ってくれたのは祖母だったが
いつだったか祖母が、お花のお稽古に行くからと留守にする日があった。
祖父が慣れないながらも僕と遊んでくれた。
家の中で、かくれんぼを提案してくれて僕はいつもは入っちゃダメと言われる祖父の部屋へ隠れた。
足が少し悪い祖父は、歩く時に杖を使うので、こっちに来る音が分かる。
だから、隠れていてもそっと場所を変えてしまうので、なかなか見つけられない。
そんな時、本棚の奥に木箱があるのを見つけた。
気になり覗いてみると、中には小さな甕《カメ》が入っている。
そして、その中を覗いてみたら
梅干しが入っていた。

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