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小説✳︎「紘太と結里子」 第9話

こちらは
「月明かりで太陽は輝く」
のサイドストーリーです。
宜しければ、まずは本編を
読んで頂けたらうれしいです。


結里子は心細く不安な心で、とにかく待つしかないと、店の前で佇んでいた。

その時、道の向こうから走ってくる紘太が見えた。
「結里!」
「こうた……」
まるで何年も会っていなかった人を見つけたような喜びが一気に湧いて、結里子は紘太へ向かって走った。
「結里。ごめん。そんなに早く着いているとは思わなくて」
「わたし、心配で……」
人前でも構わず抱きついた結里子。
「本当にごめん」謝る紘太に
結里子は首を振る。
「ごめんは私。ほんの少しの時間なのに、私はあの初めのデートの時の紘太に、こんな気持ちにさせてたんだと思ったら、本当に申し訳なくて、ごめんなさい」
涙目の結里子。
「いいんだよ。その事は。僕は絶対君のそばから、居なくならないよ。ずっと守るし、ずっとそばにいるよ」
「紘太……」
「このお菓子あげるから、許してくれる?」
「ふふふ!お菓子でごまかす?小学生じゃないのよ。あ、でもここのクッキー美味しいって評判の!」
涙から泣き笑いになった結里子。
「笑ってくれた!良かった。じゃ、食事に行こう」

結里子は受け取った紙袋を見て、あれ?手拭いも入ってるよ?
「うん、それはね……」
紘太は、老婆を手助けした話をしながら店へと向かった。


結里子は紘太の
【絶対君のそばから、居なくならない。ずっと守るし、ずっとそばにいる】との言葉を何度も頭の中に響かせていた。
(本当に、絶対いなくならないで)
紘太の顔を見上げながら心でつぶやいた。

店の中で食事が出てくる間に結里子は
「開けて見てもいい?」と袋を指差す。
「もちろん」
「あ、このクッキー。私が好きなボソボソ系!嬉しい!手拭いもきれい。[なつ]って染めてある」
「じゃあ、あのおばあちゃんは[なつ]って名前なんだね。結里、使う?」
「いい?」
「もちろん。優しい人なんだろうな。もう会うこともないだろけど」
「なつさん、大事に使わせていただきます」結里子は丁寧に畳んで紙袋に戻した。

結里子はより紘太への強い愛を知ることになり、紘太もますます結里子を、愛おしく思った。
2人は決して離れない、離れたくないとの想いを強くしたのだった。

♢♢♢♢♢♢

夏祭りの季節。
商店街主催の盆踊りが開催される。
通りのお店の他にも、夜店がいくつか並ぶ。

紘太と結里子は、わたあめを頬張り、ヨーヨー釣りをして焼きそばを二つに分けて、道端で食べる。

小学生の女の子達が、集まっている夜店があった。
「何のお店かしら?」
結里子が覗きに行き、紘太も後をついて行く。

そこはおままごとや、おもちゃのアクセサリーなど並んでいる。

「わぁー懐かしい!私も子供との時みたことあるわ!欲しかったんだよなぁ。ネックレスとか指輪」
そう言って結里子は、キラキラ光るガラスの石がついた指輪を手にした。
「なんかこんなおもちゃでも、指輪をすると大人になった気がしたんだよね」
すると紘太が「じゃあ、僕からプレゼントします」
と言って、その指輪を結里子の左手の薬指に指した。
「わっ、サイズピッタリ!」
「すみません。これください」
紘太が店の人に声をかける。

隣で見ていた小学生の女の子が
「えー。大人なのにこれが結婚指輪?お兄さん、ちゃんとしたの買ってあげなよ」
「あははは。お嬢さん、ご忠告ありがとう」
紘太はそう言いながら、女の子の頭を撫でた。
結里子も笑いながら、女の子に
「良いこと言ってくれてありがとう!でもね。お姉さんはこれでも嬉しいんだよ。あなたも大人になればわかるわ。お礼にこれあげる」
結里子はヨーヨーを女の子に渡し、夜店を後にした。

「紘太、ありがとう」
結里子は左の手を街灯にかざす。
ガラスの指輪はキラキラとプリズムを作る。あの日の虹のように。



#紘太と結里子
#月明かりで太陽は輝く
#サイドストーリー


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