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ハイリスクミラクルリターン 阿部と涌井のトレードについて考える

11月15日11時55分、ある記事が中日スポーツから配信された。

阿部と涌井のトレード。

驚いた方も多かっただろう。「何故阿部なんだ」「来年大丈夫なのか」という反応が中日ファンから寄せられたのも無理はない。

ただ、ぱっと見の印象や表面的な言葉に引っ張られすぎて、このトレードに隠されている複雑な意図が見過ごされているのではないかと考えて書いてみることにした。

 

 

 1.意図

大半の人はまず「どういう意図があるのか」という疑問を持ったのではないか。

僕はこのトレードには大きな1つの意図があると考えている。それは「勝利を追求しつつ、2、3年後を見据えてチームの再建を行うこと」である。


ある程度のマイナスをもカバーしてくれる万全な投手陣を作ることで、2、3年後に主力となるであろう若手野手を使いやすい環境を整えることが出来る。投手有利のバンテリンドームを活かした策略である。

つまり、構想外の阿部選手を放出し、投手陣をより強固にする即戦力の涌井投手を獲得した今回のトレードは2、3年後を見据えた若返りの第一歩となるトレードである。



2.意図の深掘り

軽くチーム状況について触れながら、もう少しトレードの意図について掘り下げようと思う。


まず野手の若返りについて。シーズン途中にセンターを大島選手から岡林選手にシフトしたように、センターラインを守備力がある若手で固めようとしている。阿部選手がいなくなったセカンドでルーキーの福永選手と村松選手、そして田中幹也選手を競わせ、ショートでは今年から出番を増やした土田龍空を基本的に使っていく形になると考えられる。

計算しづらいルーキーや若手を軸に考える起用は確かにリスクが伴う。ただ、1年目から期待されているとルーキーが感じることでモチベーションに繋がる可能性もあるし、他のポジションや投手の頑張りで、カバー出来ることだってある。入団の経緯が阿部選手と似通っているオールドルーキーの福永選手には特に期待したい。


次に投手陣の万全化。大野・柳・高橋宏・小笠原の4本柱を軸に回っているローテは一見万全に見えるかもしれないが、この4人+松葉以外の投手がたった4勝しかしておらず、6番手投手の不在が大きな課題である。打力で取り返せる他球団なら問題はないが、そうではない中日ドラゴンズだと毎日計算出来る投手が先発するのが理想的。また、開幕直前に代表戦にいく可能性がある高橋宏斗投手が1年間コンディションを維持できるか等、柱となっている選手にも不安要素は存在するため、先発の補強は必須であったと言える。

ざっくりまとめてしまえば、目先(来年)ではなく将来的な優勝を見据えて野手の若返りを図るのが目的のトレードだろう。


3.阿部選手がなぜ構想から外れたのか

阿部選手が構想から外れた大きな理由として「立浪監督が阿部選手をシーズン中から二塁手として見ていなかったから」というものがあると私は考えている。

1つ目の根拠は、阿部選手の現状のチーム内での扱い。今年も前半戦はセカンドを守っていた阿部選手だが、7月下旬を境にサードに回されている。

阿部選手がサードに回された当初は石川昂弥選手、高橋周平選手、ワカマツ選手の怪我と福田永将選手の感染による離脱があったため、チーム状況によるコンバートだと考えていたが、9月上旬にサードが本職の高橋周平選手が復帰しても阿部選手はシーズン終わりまでサードを守り続けている。

2つ目の根拠は、来季の二遊間について「セカンド、ショートは守備範囲を含めて動ける選手を何とかつくっていきたい」というコメントを立浪監督が残しているからである。

実は阿部選手が立浪監督の掲げる”動ける二遊間の選手”ではなくなりつつあるのが、データに表れている。(7/3時点での阿部選手のUZRは浅村選手よりも良くない-1.2)


実際の阿部選手の扱いと、求める二塁手像から外れているという客観的事実から立浪監督は、阿部選手をもう二塁手として見ていなかったのではないだろうか。


「二塁手として見ていないからといって構想外になる理由にはならない!守備的負担が少ないサードやファーストにコンバートするか、代打として起用するべきではないか。」という声もあるかもしれないが、球を引き付ける打撃スタイル的に速球に強くなく,本塁打を多く打つわけでもない阿部選手は、チャンスで150キロ以上の速球を投じる投手と対戦して結果を残さないといけない代打や、長打による貢献が求められるコーナーの選手としてはどうしても物足りなさを感じてしまうという一面もある。

この、二塁手として見られていない2つの根拠と、コーナーにコンバートされた際の扱い辛さから、阿部選手は立浪監督の中で構想外になったのではないだろうか。



4.何故”若い投手”ではなく涌井投手だったのか

おそらく理由は2つある。

1つ目の理由は「涌井投手がまだ活躍出来ると踏んだから」である。

「主力の阿部を放出して来年37歳の投手が来たってそんなに大きいリターンじゃないだろ」と思った方もいたであろう。というか実際そういう意見も結構あった気がする。ただ僕は、来年37歳になるという表面的なワードに引っ張られすぎて、涌井投手があまりにも過小評価されている気がしてならない。

まずはこの動画を見て欲しい。


この動画は、2022年5月に涌井投手が対日本ハム戦で見せた9回1失点の好投を一つの動画にまとめたものである。直球の軌道から曲がるカットやシンカー等の変化球で日本ハム打線を翻弄し、114球目には平然と150キロの吹き上がる直球を投じて日本ハム打線を抑え込む涌井投手が収められている。
多彩な変化球を出し入れして打者を翻弄する技術と、114球目に150キロの直球を投げ込む馬力を両方兼ね備えた先発投手は、今の中日ドラゴンズの先発を見渡しても誰もいないのではないだろうか。年齢よりも実際に投げている球で評価すべきだろう。投げている球を見る限り、いわゆるナゴド専ではなく、通年先発ローテの一角として頑張ってくれるのではないだろうか。

「来年37歳だしその馬力も衰えてくるだろ」という指摘もあるかもしれないが、

そう、平均球速を長年維持しているどころか今年は上がっている。今年は怪我で休んでいた期間があったため、ヘロヘロの時期もある例年よりはいい状態で投げられた試合が多かったかもしれないが、それにしても驚異的な数字である。

また、仮にフィジカルが衰えて球速が今より出なくなったとしても、非凡な技術とそれを活かすアイデアがある涌井投手なら、モデルチェンジをすることで成績を維持することが可能ではないだろうか。

例えば、全盛期は155キロを超える速球を武器に打者を制圧していたが、衰えてからは多彩な変化球を散らすスタイルに変身して復活した中日ドラゴンズ時代の松坂投手のように。


まだ衰えておらず,衰えてもモデルチェンジで活躍が可能な涌井なら、意図の実現に向けて即戦力投手が必要なチーム状況にとてもマッチしていると言える。


2つ目の理由は「落ち目の野手で若くて即戦力の投手を出してくれるチームなんてどこにもないから」である。


出してくれるにしても落ち目の阿部選手ではなく、こちらも若い主力選手を放出しないと釣り合わないだろう。だが中日ドラゴンズにはそんな選手を出す余裕はないし、若手野手を起用しやすくするために、即戦力投手の獲得で投手陣を万全化するというトレードの目的からは逸れてしまう。


この2つの理由から、”若い投手”ではなく、涌井投手を獲得した意図が理解出来るのではないだろうか。


5.まとめ

最後まで読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。目先を見たら確かに良くない部分が目につくかもしれないけど、今後のことを考えると悪い部分ばかりではないよ、という考えを基に書いてみました。このnoteを読んだ方がこのトレードについてより深く思案してくれることを願っています。そして最後に、中日ドラゴンズと涌井選手、そして阿部選手にとって良いトレードになりますように。


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