見出し画像

『スーツ=軍服!?』(改訂版)第99回

『スーツ=軍服!?』(改訂版)連載99回 辻元よしふみ、辻元玲子
 
※本連載は、2008年刊行の書籍の改訂版です。無料公開中につき、出典や参考文献、索引などのサービスは一切、致しませんのでご了承ください。

ドン・ペリニオンの由来

モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンとは、いってみれば日本の銀行などでよく見受ける「東京三菱UFJ」といった、成立までに合併した企業名を結合した社名である。ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーが統合してこの名前になったのだが、ではその前、モエ・ヘネシーというのは何だったのか、といえば、これもモエ・エ・シャンドン社とヘネシー社の統合した起業名なのだった。
ルイ十五世の時代に創業し、ポンパドゥール夫人やナポレオンが愛飲したというシャンパンの名門モエ・エ・シャンドン(クロード・モエが一七四三年に創業)と、コニャックの老舗であるヘネシー(リチャード・ヘネシーが一七六五年に創業)が統合したのは一九七一年のこと。これはこれで当時、酒類業界最大規模の再編と騒がれたものだが、その後のルイ・ヴィトンとの合併の派手さにかすんで忘れられてしまったようだ。
ついでのことで、そのまた前のモエ・エ・シャンドンのシャンドンというのは何か、という疑問にもこたえておけば、モエの三代目、ジャン・レミ・モエが、事業を息子のヴィクトル・モエと、義理の息子のピエール・ガブリエル・シャンドンに継承させた一八三二年から、モエ・エ・シャンドン社と名乗った。
そして、モエ社の最も有名な商品と言えば、なんといってもあの「ドン・ペリニオン」だろう。このペリニオンというのは人名である。
モエの三代目当主ジャン・レミ・モエが、シャンパーニュ地方のオーヴィレール修道院を購入して、シャンパンの製法を入手したことで生まれたのが、ドン・ペリニオンである。
それからさらに時代をさかのぼること二百年ほど、一六三九年生まれのピエール・ペリニオンがベネディクト派の修道僧になり、オーヴィレール修道院に来たのが一六六八年。同修道院で会計係と酒庫担当となった。このペリニオン師が、スパークリング・ワイン、シャンパンの製法を作り出したのである。
 
②奇跡のような紙のトランク

ゾウが踏んでも壊れないトランク

唐突だが、「ゾウが踏んでも壊れない」というキャッチフレーズがある。
日本でも物置のコマーシャルなどで使われたし、「ゾウを飼っても大丈夫」というコピーで家を売っていた住宅会社もあった。ゾウを持ち出すとインパクトある広告になるのは確実だが、この最初の例と思われるのが、チャーチル首相も愛用した英国のトランクの老舗グローブ・トロッター社である。
実はこのグローブ・トロッターのバッグの素材は紙である。特殊な製法を加えることで紙を高圧処理し、たいていの皮革より強靱なものに仕上げている。
この製法のことをヴァルカナイズド製法といい、トランクの他にも意外にいろいろな製品に使用されている。また、かつてのドイツ軍の制帽のつばの部分などに使用されていたのもヴァルカナイズ処理された紙だった。
ところが、このヴァルカナイズド製法というのも、面白いことに元々は紙の処理のことではなく、ゴムを製造する方法の意味だったという。
以下に、その二つの「ヴァルカナイズ」に関するお話を記そう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?