嗚咽形鳴
時給2500円。知り合いから引き継いだ不動産屋の高額アルバイト。眉唾ものだと分かってはいたけれど、背に腹は変えられない。貧乏学生の自分は、仕事を選り好みできるような立場でもない。地獄で暮らしていれば、目の前に垂れてきた蜘蛛の糸を掴むなというのは無理な話だ。
バイト初日、先方から指定された物件へ朝から出向いて、電気メーターの影に貼り付けられた合鍵を借りる。こんな適当な場所でいいのかな、とも思うが、こういう業界ではよくある事なのかもしれない。
郊外の古い一軒家。ここに朝9時から夕方の5時まで留守番をしているだけでいいらしい。特にやることもないので、暇潰しの道具だけは忘れるな、と紹介してくれた知り合いは言っていた。事実、この日は一日中スマホゲームをしたり、本を読んだりして終わった。
定時になったので不動産屋へ電話をすると、誰か来たか?と聞かれたので、正直に誰も来ませんでした、と答えた。
『ご苦労様。入金は今済ませたから、明日もよろしく』
電話を切り、スマホでネット口座を調べてみるときちんと入金されている。こんなに楽して大金が得られるなんて。今までのアルバイトは一体なんだったのか。
その日は帰りに焼肉屋に寄って帰った。実に半年ぶりの焼肉とビールは、涙が出るほど美味だった。
ここから先は
5,621字
¥ 300
宜しければサポートをお願いします🤲 作品作りの為の写真集や絵本などの購入資金に使用させて頂きます! あと、お菓子作りの資金にもなります!