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気まぐれ美少女ゲーム感想vol.9 夏ノ鎖

折角フリーゲーム久しぶりに公開したし連続で投稿して少しでもnoteのPV伸ばそうシリーズ第三弾

鎖に繋がれていたのは、ヒロインか、それとも————報われない青春への過激な処方箋といったところか。

 凄い作品だった。流石、CLOCKUPとしか言いようがない。他メーカーでも似たような題材を取り扱った作品は無数に存在するだろうが、このような仕上がりにはならないと思われる。ある意味「真摯」に、こういったジャンルに向き合っているのが何となく窺えた。

 まず、二次元コンテンツでは徒に美しいところだけが切り抜かれた(極端に美化・理想化された)青春や思春期というものに対する向き合い方が凄い。一学期が終わって夏休みに突入するタイミングだというのに、鬱屈。ひたすらに卑屈。冒頭から凄い。クラスメイトの女子の中絶カンパをせびられるエピソードなんかも開幕からかましてくるし、何より、劣等感、閉塞感、貴重な時間を無駄にしているような焦燥感、将来への不安、無邪気に楽しんでいる(ように見える)周囲への嫉妬交じりの羨望……思春期にありがちな色を持った感情が、灰色の中に押し込められている。開始3ページくらいには、既にがっつり惹き込まれていた。

 それと並行して描かれる、うだるような、草いきれや蝉の煩い鳴き声までも漂い響き渡ってくるかのような田舎の夏の情景描写が、どうしようもない、やり場のない感情を一段と引き立てる。舞台設定の作り込みなんかもご都合趣味込みでも最高だった。隙のなさ、というか、拘りが感ぜられる。

 また、短い尺ながら、五つものENDを内包し、そのどれもが強烈な印象を残していく。これがまた素晴らしい。一応、TRUEは逮捕ENDなのだろうか。まさか、この題材で胸がじんと疼くとは思わなかった。贖罪さえも許されない。罪を犯すことの意味を(それこそ、二次元という虚構空間の中でさえも)希薄化せず、たとえ粗や綻びがあろうとも「結果」に向き合ってくれたのが良かった。エンドロールもじわりと滲む。

 バッドエンド? は三種類? 捉え方にもよるのだろうけれど。いい感じに胸糞悪かったです。軽はずみな行動や感情の選択で、未来ががらりと変わるのも青春の多様性? を指し示していて良き。ユーフォリアの鬼畜ENDをなんとはなしに思い出した。バイオリンをめちゃくちゃにして尊厳を破壊するシーンはあるんだろうなあと思ったらやっぱりありましたね。必死に魂へと手を伸ばそうとする美月ちゃんの姿は沙耶の唄を思い起こされました。ほんと酷いことするわ。

 どのエンドか忘れたんですが、美月が主人公に向けて「あなたはわたしのことを全然わかってない」と言い放つシーンは思わず痺れましたね。強い子。〈全然わかってない〉の使い方上手い。その後の、地下室の天上をすり抜けて透き通るような美月の描写も、主人公のフィルターを介しているとはいえ、憧れの、孤高の美少女感がわざとらしくなく伝わってきて良かった。ヒロインの描写が素晴らしいですね。主人公の、歪でいて真摯な美月への気持ちが伝わってくる。不器用なんでしょうね。皆そうだけど。憧れの異性を脳内で……とかありふれているけど。全体的に緻密で、それでいて伝わりやすい。エグくとも、さらさら読めるシナリオでした。

 あと、最後の未遂END。これに言及しないわけにはいかないでしょう。ここだけで評価はかなり上がりました。最後に二週目要素として? 解放されるというのも構成が憎い。

 未来に、少し成長した主人公を見て悶えるとともに、微かな交流も生まれ、美しい思い出、ノスタルジーを伴う在りし日の青春の残像として残る。笑顔が眩しいですね。いい感じに、●にたくなりました。最後にこのENDが追加されたことで、これまでの全てに「もし」が薄いベールのように掛けられ、やんわりと淡く優しい雰囲気に包みこまれる。良采配だったと思います。

 叶わないからこそ、届かないからこそ、ずっといつまでも美しい。そんな話だったのかなと思います。   

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