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気まぐれ美少女ゲーム感想vol.5 フラテルニテ

・タイトル『フラテルニテ』
・メーカー「CLOCKUP」
・プレイ時間「20時間程度」
・推しヒロイン「神村愛」 
・私的評価「★★★★★★★」


【混じり気のない怪作】。

 美少女ゲームを卒業しようかと思った。

 まず、euphoriaをプレイした方は是非にこちらの作品もやりましょう。相補的というか、あちらの悪女ヒロインたちがすんでのところでしてくれなかった本物の外道を働いてくれたり、逆にこちらでは叶わなかった救済をあちらでは細やかにしてくれていたりします。姉妹作……とかそういうわけではないんだろうけれど、二作は似通ったところも多いので、楽しめるはず。

 で、フラテルニテ。

 怪しい自己啓発塾を主な舞台に繰り広げられる高校生たちの陰惨な物語、と言った感じです。陰惨なのは腐食のように蝕む、ねとねとした心理描写もそうですが、主に性描写。とにかく凄まじいです。食欲がなくなるようなものもある。群像劇視点で進むのですが、それぞれが抱えている問題やバックボーンがそれぞれ違って面白く、人物描写が丁寧で感情入しやすい。従って主人公(語り手)との一体感、没入感のようなものも凄まじいため、より深いところで鬱屈とした感情を味わえます。電波とか狂気とかそういう方面ではなく、等身大の、手を伸ばせば届きそうなところで物語が展開していくのが生々しい。妖しげな塾に嵌まる家族やクラスメイトを救うべく、我が身を厭わず奔走するのが主人公。

 言語を絶する壮絶な性描写、言葉巧みに高校生たちを騙し、搾取していく塾のド外道っぷり、黒幕の生い立ちの悲惨さも際立ってますが、本作で一番私が気に入ったのは、主人公により作中何度も何度も執拗に差し挟まれる、

 本当は余計なことをしているのではないか?

 救う必要なんかないんじゃないんだろうか?

 クラブはいい場所なんじゃないんだろうか?

 との問いかけ。否応なしに、プレイヤーである私たちも「本当にそうかも……?」と疑念を抱かずにはいられない。主人公の抱える葛藤、周囲との噛み合わなさは十分に理解が可能なものであるからこそ、問題が生々しく、確固たる存在感を以て浮き彫りになります。

 中盤以降は塾に嵌まった生徒たちが次々に下種な大人たちや他の生徒の毒牙に掛かってガンガンに退場していくのですが、ここもまたピントがずれていて、塾のために、先生のために、自分の幸せのために

 笑いながら死んでいく。怯懦や恐怖も見せず、本当に楽しそうに、幸せそうに死んでいく。……本当に幸せそうに。 

 後半は狂気の連続です。ある人物の死は手で目を覆いながら観ました。スプラッタ映画でもここまで酷いのはなかなかないような……。これなんのゲームだよ……と虚空に呟きながら……。

 あと、本作の主人公はeuphoriaの凌辱願望持ちのやべーやつとは違って根っからの善人です。それだけに塾に依存する人間たちの異常性(ex.人殺しも辞さない、人前で平気で性行為する)が極まり、余計に問題が厳しくなる。  

 怖い。

 人は理解できないものを恐怖するらしいですが、正直笑いながら本当に楽しそうに幸せそうに死んでいく登場人物たちの姿は恐怖そのものとしてしか映りませんでした。

 この作品の救いは……

 救いは何処にあるのか??

 個人的には最後の一言に集約されていたような気がしました。

 紛れもなく快作。プレイ直後(と言って今これを書いている30分前ほど)は鳥肌が立ちっぱなしでした。主人公の健気さに、あるいはヒロインの……に……何とも言えないような鬱々とした気持ちでプレイし終えましたが、本当に良質な鬱作品だと思います。

 欲を言えばもう少しヒロインの可愛いところを観たかったけれども……


雑感

 凄まじい作品ですが、ラストは胸に詰まるものがあり、何とも言えない気持ちにさせられます。重いですが、キャラクターの抱える葛藤や痛みが分かりやすく、心情的にも伝わりやすく、どの登場人物も一定以上に親しみが持てました。初期のウシジマくんを彷彿とさせるとあるキャラのバッドエンドを観て、これは紛れもなく面白い、と確信しました。描写が酷ですが、みんな幸せそうに死んでいくので、重いですが意外と後味は悪くない。余談ですが、この作品のおかげで「仰げば尊し」の持つイメージが名作漫画「金色のガッシュ‼」でのガッシュと清麿の別れから此方へ移り変わりました。作品設定の生々しさ、オープニングとか実写寄りの背景とかも相まって、リアリティがある程度担保されているからか、小説のような読み味でもあった。

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