悪役のナラティブ、ショッカープーチンとそのしもべたち
昨今のニュースは、目を覆いたくなるような惨劇で満ちている。爆撃される都市、目の光を失い転がる死体、泣き叫ぶ子供、そして懸命に戦う人々。現実に起きている戦争について、真っ白な英雄は存在しないかもしれない。だが、悪の大帝は間違いなく存在する。
当世の「悪の大帝」の名にふさわしい人間は、ロシア大統領のウラジミール・プーチン以上の存在は考えにくい。彼がいかに非道な独裁者であるか、という点については、数多くのジャーナリストや学者が述べているとおりである。
本稿では、フィクションにおける悪役という絵を通して、人々が認知できる物語における、純粋なる悪の成分について分析したい。
悪役は、部下との距離が長い(権力者との無慈悲な距離感)
下の画像の通り、フィクションでの「権力のある悪役」のサンプルを挙げるのであれば、このようなものであろう。
三人しかいないにもかかわらず、だだっ広い部屋で、あえてとてつもない距離を置いて報告させる。このなんとも親しみを欠いた部下とのコミュニケーションは、権力ある悪役に不可欠なものだ。
近づいて良いのは、お追従を打つ若い女性だけ、という点も、さらにその絵の視覚的効果を高める。ついでにやたら大きなティーポットも気になり始めるだろう。(なお、大王を前にしても微笑まないアエロフロートCAも、それはそれでキャラが強い)
悪役の子分も、また悪役(再帰的悪人)
当たり前であるが、悪役の子分が、実のところそれなりに立派な大義を信じており、その大義の為に殉じる、というのでは、明確な悪役になり得ない。悪役の子分は大王ほど賢くは無く、代わりに横暴さと残虐さでその名をほしいままにするのだ。
怪人その1、ラムザン・カディロフ
この怪しげなおじさんもまた、悪の大帝に仕える怪人の一人である、何でもLGBTが大嫌いで、見つければ親族まで皆殺しにするのだという。もちろん国際法なんぞ守るつもりは(親分同様)かけらも持ち合わせていない。
怪人その2、バッシャール・アル=アサド
彼もまた、父親から受け継いだ地位を失いかけた為、ロシアの属国となる道を選び、35万ともいう自国民の命を焼いて王座を守り抜いた。ロシア軍を呼んで自国民に毒ガス攻撃を行ったというところからも、やはり大王に仕える怪人として、キャラが立っているというほか無い。
さらに怪人を挙げればキリが無い、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、怪人の中でもまともな部類であることが理解いただけただろう。選挙で(おそらく)負けたのに、勝ったと言い張って玉座に座り続けているだけなのだ。(よく似た人物が、アメリカにもいたことを忘れてはならない)
末端の戦闘員が、知能の足りなさそうな悪人であること
(再帰的悪人の果ての、純粋暴力マン)
要約すると、ロシア人でネオナチで、8年前のウクライナの戦争で一暴れし、シリアでも暗躍し、ワグネルの傭兵という、ゴロツキーの話である。記載の通り、おおよそノルウェーに住むロシア人がネオナチになって延々というのは情報がモリモリすぎて認知しがたいが、引用した以下の記述を見ると、おおよそどのような人間か想像が付くだろう。
捕虜への虐待、身体切断、子犬の首を切って食べる等、下っ端の悪役は、純粋な暴力性をさらけ出し、そこに相手を恐怖させること以外のおおよその意味がなさそうな行動をやってのける。
悪役は、無駄に金持ちでゴージャス
こちらの記事を取材し、動画を取りまとめたナワリヌイ氏は、今は収監されて塀の中にいる。他にも、戦争直前に巨大ヨットが移動したという話は余りにも有名だ。
悪の大帝は、非道な策で、恐ろしい夢を叶える
プーチンの狙いは、ルーシの民(スラブ系の白人、ロシアとベラルーシとウクライナ人)を束ねた偉大な国を復活させることにあるという。経済制裁に伴う庶民の生活水準の低下はおろか、自国民として組み込む予定のウクライナ人の扱いを見ても分かるとおり、悪の大帝の「偉大な国」は庶民のささやかな生活など気にもとめない。
彼はチェチェンを征服し、功を挙げて帝位についた。帝国では逆らう物は皆追放、投獄、処刑された。さらに大帝の錬成陣はシリアへ、そしてウクライナへと続いている。征服された地の住人は、さらなる征服へのための生け贄として消費される。ウクライナ人が死に物狂いで抵抗を見せるのも、この経緯を知れば納得するほか無い。
寡兵をもって戦士が挑むとき、悪の大帝が最も黒く光り輝く
悪の大帝が黒々と輝くのは、劣勢でありながら懸命に戦う抵抗者たちの輝かしい健闘によってである。「300」では、三百人の英雄たちは大王に文字通り一矢報いたが、大軍の前では力及ばず、全滅した。しかしながら彼らが稼いだ時間によって、ギリシア世界は征服を免れた、というハッピーエンドを迎える。
悪の大帝率いる帝国軍と、自国の未来を賭けて戦う 共和国の戦いの行く末は分からない。しかしながら、共和国が「悪役のナラティブ」の全てを相手側に押し込むことに成功した点は、偉大な戦果と呼ぶほか無いだろう。
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