シャキーン!によせて

2016年4月。都合4年ほどいた海外赴任先から帰国して、築40年近くてだいぶ古いが大きな窓の前に桜が見える家から、まだ家具もなにも足りない部屋で、朝早く出勤しようとバタバタしていたところで、つけていたテレビから流れてきた「サイコロソング」。
あ、この声とアレンジは間違いなくハンバートハンバートの佐藤良成さんだ、とわかり、そのまま目が釘付けになって最後まで見ていた。

当時34歳。長女が生まれる2年前。大学生の頃は恥ずかしながら受信料の支払いを惜しんだりしていた身だが、海外でも見られるNHK Worldに助けられ、NHKとはすっかり仲良くなっていた。そんな流れで帰国後は毎朝Eテレをつけていた。時報代わりでもあったが、何よりシャキーン!が見たかったからだ。

シャキーン!の魅力は数え始めたらきりがない。Eテレ番組ならではの作り込まれたセットや衣装、時々二度見したくなるほど攻め攻めのキュレーション、ジュモクさんとネコッパチの掛け合い、毎度新曲が流れるたびに30代男性でもワクワクするアーティストのチョイスとその映像など。シャキーン!を通じて知ったerror403さんやぬQさん、なつやすみバンドや思い出野郎Aチーム他の各位はすっかりフォロワーになってしまった。

コーナー名もなにもわからない、そして私が知っている限り数回しか放送されていないミニコーナーにこんなのがある。

ナレーション「この広い宇宙で、二人は、すれ違う」

→BGM ジャーン♪ も〜し〜も〜(以下 西野カナ 『もしも運命の人がいるのなら』)

→白い画面の左右からゆっくりスライドインする黒いゴシック体の「口」と「木」
→2回登場し、それぞれすれ違いざまに一瞬「困」と「呆」の文字になってそのまま去っていく
→若干食い気味にサウンドロゴ「シャキーン!」

なんにもわからないと思うが、以上でたぶんそのまま再現できるんじゃないかと思うくらい説明し尽くしている。そして、この文章を読んでいらっしゃる方と同じくらい、私にも意味がわからない。イチハラヒロコ氏のオマージュなのかとか、なんでこの字なのかせめて杏じゃないのかとか、いろいろ思うが無駄だ。番組名通り目だけ覚めて終わる。とにかく西野カナのサビが爽やかだ。よくわからないが気になるのでこの部分の録画だけ何回か見て配偶者に不思議そうな顔をされたりした。

そういうシャキーン!の第一印象がそうさせる部分もあるだろうけれど、その時期の番組MCを務めていためいちゃんとモモエが素晴らしすぎて、今日はそのことをガッツリ書かせていただくので、いまここに目を置かれている諸兄におかれましては今日の残りの予定をあきらめてお付き合いいただきたい。


Eテレの番組MCは子役でもない、アイドルでもない、他にちょっとない存在だ。番組とともに子供から大人に向かって成長していく存在でもあり、番組のパーソナリティとして成熟していく存在でもある。その脇を固めるキャラクターがガッチリとサポートするものの、番組は彼女ら・彼らの心と体のバネによって跳ねていく。

時にはほかのキャラクターになりかわりながら番組を進めていく彼女ら・彼らは、番組との境界線を行ったり来たりする。番組の演者であり、司会進行役であり、歌い手であり、見る人の思いの依代であったりする。そんな得体の知れないものに型はなく、方法論もきっとない。しかし気づけばある時、そこのあたりをわりと自由に泳ぎ回ることができるようになるものらしい。

モモエというキャラクターが松田杏咲さんの本名から来ていて、そこから作られたキャラクターだと知ったときは驚いた。高飛車な16代目桃太郎が始めたばかりのめいちゃんの放送局に安眠妨害を訴えて突如怒鳴り込んでくるところから話は始まり、視聴者は家来ということになり、最後は鬼に誘われて自ら鬼ヶ島への移住を決意して去っていく。上記の西野カナと比肩するくらいツッコミどころの多い設定だ。なのだが、それを演じるモモエさんのフルスイング感が気持ち良すぎて、見ている側がすっかり入り込んでしまう。

モモエさんは騒々しいキャラクターをやり切る設定上、できる表情と表現にあるていど制約がある。そこをフリーにしてクルクルと変わる表情で視聴者をナビゲートするのがメインMCのめいちゃんだ。ストーリー上は、いつの間にかすっかり居着いたモモエさんに困惑しながら進めていく、という段取りなので、その設定を出し入れできるという便利な道具を使っていろいろな距離感を演出していく。よく見ているとめいちゃん、淡々と進めているようだが実はかなり飛ばしている。素の表情を出すときは出す、モモエさんら他のメンバーを置いていくときは振り返りもせず置いていく。それが番組の温度を気持ち高めに保つ効果を持っていて、他の濃いキャラたちに振り回されずに番組が進んでいく。歌は苦手とのことだったが、表情が浮かぶほどクリアなアーティキュレーションはモモエさんとのコントラストがよく、うまく噛み合っていたと思う。

そういう配役の妙と演者の技は間違いなくあったと思うけれど、それらをさらに別次元に持っていった要素がどこかにあるんじゃないかと思っていた。シャキーン!最終回に向けてのスペシャル回「シャキーン!ザ・ライブ」で久しぶりに番組に登場した二人を見ていて、ようやくそれが言葉にできるようになった。

番組の最後にお決まりで「せーの! シャーキーーン!」というタイトルコールがある。めいちゃんモモエ時代のこの「せーの!」はめいちゃんの担当なのだが、ここで必ずモモエさんがめいちゃんをしっかり見て完璧に合わせる。めいちゃんからもアイコンタクトがあるのでシンクロしているというようにも見えるのだけれど、見るとわかるが引っ張っているのがめいちゃんで合わせているのがモモエさんで、逆ではない。ここがいつも盤石で、絶対大丈夫とわかっているからどれだけ振り切ってもよかったのだ。

これが最初からそういう決め事だったのかどうかはわからないけれど、「この二人でやるときはそういうもの」だったのだろうなと思う。ほんの一瞬しか映らないが、そのアイコンタクトは上記のシャキーン!ザ・ライブの中でも健在で、この二人のパワーが光る瞬間だ。モモエさんのほうが一つ年上で、番組開始当時はその1歳差はかなり大きかったんじゃないかと思うけれど、そのモモエさんはメインMCのめいちゃんにそのアイコンタクトでフォロワーシップを遺憾なく発揮していて、そこで輝くめいちゃんのリーダーシップを見てみんな朝の元気をもらっていたのだ。

彼女らの卒業回は湿っぽい導入が何もなく、(見る方は薄々気づいていたものの)最後の数分間で唐突に卒業が宣言されるのだが、モモエさんの鬼ヶ島移住宣言に続いてめいちゃんも卒業を発表したのち、来週からどうするんだよと困惑するジュモクさんに「大丈夫、そのへんは準備しといたから」とだけサラッと一言説明し、いつもの「せーの!シャーキーーン!!」を3回やって去っていく。明るくて彼女たちらしい、とその時は思っていたけれど、今改めて思う。あの番組で一番見たかったのはめいちゃんとモモエの「せーの!」だったのだ。

最終回に向けて二人が始めたインスタライブの最後の最後、また「せーの!」を見ることができた。そしてシャキーン!は卒業式を迎えたが、頭の中ではいつでも一緒だよ、というメッセージとともに番組はYouTube Shortになって大人になった初代あやめちゃんに引き継がれるというまさかの第二ステージを見せた。私はこの時期の放送を見ていなかったので、ウォーサバの人がきた!と思って今更驚いている。

まだまだ書きたいことがありすぎる。この時期にはいつも思うけれど、番組が終わっても記憶には残っているもので、5・6年前の放送もこうして思い返すとけっこう覚えている。個人差はあると思うけれど、推しのことは忘れないものだ。だからそこらへんのことは大事に持っておるよ、ということをどこかに伝えたい。

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