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ドラマ「地面師たち」感想(ネタバレ)

「ドラマ」というエンタメコンテンツは「映画」よりも話題になることが少ない。話題になっても一過性のものであることが多い。

例えば60〜70年代の映画は今も語られるが同じ時代のドラマが今も語られることは無い。

キツい言葉を選ぶとドラマは映画よりも下に見られていると思うことがある。

俺自身もそうやってドラマ(連続ドラマ)を映画よりも低く見ていた過去がある。

この(俺の中にも長らくあった)、「ドラマは映画より格下」な感覚の原因を考えると、

・映画はお金を払って見るもの(ビデオデッキが普及するまで映画館に行くしか映画を見る方法が無い時代が長くあった。あとはテレビの洋楽劇場等で放送されるように「祈る」とか)
・対してドラマは無料で放送される。NHK以外は無料だ。
そういう、作品が持つ金銭的価値が映画の方が上だった。

(映画は見るけどドラマは見ない、という人の理由に「ドラマは長い」というのがあると思うが、それは個々の生活様式によるものかもしれないので、置いておく)

昔の話をしても仕方ない。
現代において、ドラマより映画の方が話題になりやすい理由として、

・映画の感想・考察の方が、ドラマのそれに比べ、バズりやすい
というのがあるだろう。

バズる、まで行かなくとも、映画の方が共通の話題にしやすい。

映画は2時間前後で全てが終わる。

例えば「タクシードライバーの、身体を鍛えるシーン」と言うと見た人には伝わるが、
「アンナチュラルの、第〇話の、石原さとみが〇〇と言うシーン」だと、見た人にも伝わりにくい。


しかし、ドラマはしっかり、おもしろい。
映画より、という言い方はしない。
映画とドラマは別モノだから。
映画も、ドラマも、おもしろい作品がある。
映画も、ドラマも、おもしろくない作品がある。

もし「映画は見るけどドラマは見ない」の理由が「映画よりおもしろくなさそう」であれば、
それは損をしていると思います。

あと、もう認めざるを得ないと思うが、映像作品を見る場所は、映画館から配信へと移っている。
映画館が無くなりはしないだろう。映画館に行く特別感は必要。

でも主流は配信に移っている。
それに応じて、配信で見るのに適したコンテンツ「ドラマ」の質はどんどん上がっている。

「このドラマ、映画レベル!」みたいな感想はもう古いのだ。

「映画が映像コンテンツの王様」の時代はもう、終わっているのかもしれない。


俺がドラマのおもしろさに気付き、ドラマを真剣に見るきっかけになったのは、
韓国ドラマの「ウヨンウ弁護士は天才肌」「シスターズ」を見た時からだ。

韓国作品に関しては、現在は映画よりドラマの方がおもしろいのではないか?と思っている。

緊迫した、筋書きが読めないドラマ「シスターズ」(75分×12話)を見た後に「犯罪都市」を見た時、かなりの物足りなさを感じた。
(デカくて屈強な男が悪者を腕力で倒す、この、ハリウッド映画が何10年もやって飽き飽きしてたやつを韓国映画もやるようになったのか。女たちが損得勘定で冷徹に動く「シスターズ」の方が新鮮じゃん、という感想)


前置きが長くなったが、ネトフリで配信が開始された日本のドラマ「地面師たち」(全7話)を徹夜でイッキ見してしまった。

徹夜でイッキ見。シリーズものの映画を入れても、そんなことをしてしまった記憶は俺の人生にない。
初めての経験だった。 

もう54歳。30代までの感性は死んでいる。
映像作品、特に新しい作品に夢中になることなどないだろう、そう諦めていたのに、
夢中になって睡眠時間を犠牲にしてまでも見た。

続きが気になる、というより、
「映像作品を見るということは、その映像を見てる間は高揚感があり、脳が快感状態に包まれ、この時間がずっと続いてほしいという感覚に陥る」
という体験を何年ぶりか、何10年ぶりか分からないが、そういう体験をした。

数日、数週間でこの感動を忘れる可能性も高いので、忘れないうちに感想を書いておく。


※以下、ネタバレをめっちゃ書きます。未見で、今後見る可能性がある人は読まない方が良いと思います。


ネトフリ資本の日本ドラマ、「地面師たち」。
不動産詐欺をする犯罪者を描いている全7話のドラマ。

箇条書きで思ったことを脈絡なく書く。

・監督・脚本は大根仁。この人の作品はドラマ「モテキ」しか知らず、それも合わなくて途中で鑑賞を止めたので期待値はゼロに近かった。
・キャストが凄い(というか怖い)ので見た。
・冒頭から人が熊に襲われて死ぬ。めっちゃ人が死ぬ。
・人を殺す時のやり方、暴力はえげつない。しかし、「ギリ、見せない」という一時期の韓国映画のような撮り方を上手くしているので俺は大丈夫だった。
・キャストが白石和彌監督作品に出演した人が多いと感じた。何か関係があるのだろうか。ピエール瀧、リリーフランキーに怖いというイメージを与えたのは同監督の「凶悪」。
・1話から引き込まれる。駿河太郎が出てる時点で「酷い目に遭う感」が滲み出ている。この人は「孤狼の血」冒頭でかなりキツい拷問を受けていた。
・1話で地面師たちの仕事が「成功」した時、画面が薄暗くなった。なんか不穏で怖い。
・最初は「小池栄子、グラドルだったのにすっかり女優だな」「リリーフランキーが真面目で善良な刑事ってのは無理があるだろ」などと茶々を入れる気持ちで見てた。しかし、1話を見終えた頃にはドラマに引き込まれていた。
・エンドロールの最初に「音楽 石野卓球」と表示される。俺はこの人の音楽を全く知らないので何も思わないが、コレが嬉しい人は多いだろうな、と思う。
・自分はやはり、犯罪モノが大好きなジャンルだと再確認。
・犯罪モノ、刑事モノだと「捜査一課」関係のものが多い。しかし地面師が行うのは詐欺であり「捜査二課」の管轄である。普通に描くと地味になる。しかし、めっちゃ人が殺される。それはトヨエツがサイコパスなためだが、この作品は「とにかく、人をたくさん殺そう」と最初に決めたのではないか。だから「損得勘定」のみで終わらせずサイコパス要素を入れたのでは。個人的にはサイコパス要素、もっとサラッとでいいんじゃない?とは思った。
・筋書きが読めない。「この人は死なんだろう」と思ってた人が中盤で殺されたりする。「あっ!」とか「えっ嘘」とか口に出して言いながら見た。
・最終話が他の話より少し長く、トヨエツと綾野剛の2人のくだりが長いと感じた。そこがダレた。最終話を長くせず、サクッとやってよかったんじゃないか。
・北村一輝の「コレぇ、ルイヴィトン!」というセリフが最高。
・北村一輝、チンピラ蹴りがとても上手い。
・北村一輝を見る度に「蛇みたいな声だな」と思う。蛇に声などなく、顔が蛇なのだが、「声が蛇」と思う。
・ドラマ全体を通して「リアルにやりたいのか、エンタメフィクションなのか、どっちなんだ?」と思うシーンがところどころあった。それは池田エライザ絡みのシーンが多かった。
・「刑事ドラマが好きで、刑事になったんです!やっぱ刑事と言えば捜査一課ですよネ!」みたいなエライザのセリフが中途半端なコメディっぽく、要らんと思ったが、中盤からのエライザはよかった。
・リリーフランキーが中盤で死ぬとは思わなかった。あのシーンまで「リリーフランキーは実は悪徳刑事」という疑念があった。死ぬ前のリリーフランキーの演技、とてもよかった。
・トヨエツが綾野剛に映画「ダイハード」における悪役の素晴らしさを語るシーン。チラっと「あの馬鹿な主人公よりも」とブルース・ウィリスの悪口を言ってて、現代の何でもかんでもリスペクトな世の中では危ないセリフだと思ったが、忖度がなくてよかった。
・忖度がないといえば「自民党」「ライブドア」のような実在の政党や企業の名前を言ってて、なんか新鮮だった。「民自党」とか言わないんだ。
・寺の尼さんを演じる女優。もしかして、「凶悪」でピエール瀧の内縁の妻を演じてた人?と後で調べたらそうだった。ああいう女優は、必要。
・ホスト、吉村界人の調子の乗り方、脅され方、殺され方、最高。
・エンタメと開き直って見るべきだが、やはり刑事の単独捜査、最後にエライザが銃を持って1人で助けに来るシーン。あそこはリアリティに欠けるかもしれないが、現実の刑事のことは知らんし、まあいいや。
・エライザが女性2人のアパートに行った時にDVを疑うシーン。女性同士でもDVの可能性はあるのか、と俺の発想に無かった。

・続編は無くていい。トヨエツは何故死ななかったとか、何故裁かれなかったとか、どうでもいい。犯罪エンタメとしておもしろかったので。

・トヨエツがウィスキーを飲みながら綾野剛に「土地の怖さ」について語るシーン。あの時のトヨエツが一番怖かった。「土地は人間を狂わせる」「人間の歴史は土地の奪い合いの歴史」

・トヨエツによる、北村一輝の殺し方。あんな殺し方があるんだ。韓国映画やアウトレイジ等、「殺し方カタログ」みたいな映画にも出てこない殺し方だ。ビビった。

・詐欺の被害者である山本耕史の演技が凄かった。特に「騙された」と分かってからの。アレ、直後に殺されて良かったとも思う。あのまま意識を持って生きていく方が地獄だ。トヨエツ優しいのかな。
あと山本耕史が「さあ、いよいよ契約だ」って時にデスクの下で股間をギュッと握るシーンがあったが、アレは愛人とのどうこうではなくて仕事への気持ちの高ぶりだと思う。しかし俺は営利企業で働いて成果を出すみたいな経験が無いので分からない。
最終話まで見終えた後、しばらく山本耕史のことを考えてしまった。

・人間の汚さカッコ悪さを描いた作品はやはりおもしろい。

・全編を通して「正義」「正しさ」みたいなのがカケラも出てこないのがよかった。


…と記憶に残ることを書き出してみたが、他にも印象に残るシーンはたくさんあった。


・ここから、現在、「どんどんおもしろくなくなってる。アニメはすごいけど」と言われがちな、日本の実写映画について書きます。

日本の、特に70年代以降の実写映画の歴史は「ゲリラロケ撮影(無許可撮影)」の歴史でもある。
「太陽を盗んだ男」「仁義なき戦い」、他にもたくさんあるが、事前許可を取らず、主に助監督を「警察に逮捕されて取り調べられ要員」として準備しておき、街中で突然、銃撃戦の撮影などを始め、監督と俳優は「撮り逃げ」する。その方法でしか得られない緊張感も画面を通して伝わるのだが、今の世の中、世間がそれを許さない。
世間よりさらに、ネット民がそれを許さない。

日本、特に東京は「映画撮影が不可能な街」である。
それを世界に広めてしまったのはハリウッド映画「ブラックレイン」だ。松田優作・高倉健・マイケルダグラス共演、リドリー・スコット監督。
当時の東京の行政はハリウッドのリドリー・スコットに撮影許可を出していない。だから舞台が大阪になった。更に撮影のための行政手続きが複雑過ぎて、計画通りに撮影ができず、グダグダになってる。
日本人はあの映画を有難がってしまうが、リドリー・スコット的には納得できてないと思う。
あの映画にも無許可ロケシーンはあるし、アメリカで撮影したシーンもある。
それが1989年。ほぼ昭和。

アクション的なシーンは東京での撮影は無理。
「アイアムアヒーロー」「藁の楯」など、日本に見せかけて海外で撮っている作品も多い。

つまり、ハリウッド映画や韓国映画で当たり前にやっている、派手な、街の中での銃撃戦や、カーチェイスや、爆破、アクション、そういうものが日本の実写映画では期待できない。

人の心の動きを描いた内省的な、なんか小難しい内容の映画が日本の実写映画には多い。

おや?と思ったのはネトフリ資本で制作された「シティハンター」だった。
これ、東京の街中で撮ってるように見えるが、どこで撮ってんの?と気になり調べると、「史上初めて、歌舞伎町でのロケ撮影許可を取って撮影した」という記事が出てきた。

ネトフリ、というか米国資本ならできるのか、時代の流れか。

「地面師たち」にも東京の繁華街で夜に撮影したと思われるシーンがたくさんあった。

「ネトフリは制作費がめっちゃあるので歌舞伎町のセットも作れる」との記事も読んだが、許可を取ってのロケ撮影をしたのかな。

あとは
・「俳優を売るため」のキャスティングが無い(アイドルが不自然に出てない)。
・出演料がおそらく高い、のだろう。と思った。

前に俳優をやってる方とツイッターで話す機会があったのだが、
日本の俳優の現状は
・地上波連ドラにたまに出演→やっと俳優業のみでギリギリの生活が可能
・地上波連ドラの脇役レギュラー出演→やっと一般の会社員並みの生活が送れる(月額にしてたぶん、手取り30〜40万円)
・テレビCMに出ることで、やっと「お金持ち」と呼べる生活ができる
と言っていた。

要するに出演料がめっちゃ安いため、イメージアップ→CM出演→不祥事を起こさぬように気を付けて生活する
が、日本の俳優の成功例なのだ。

あと、地上波ドラマはスポンサー制度なのでスポンサーのイメージダウンに繋がるような悪役はそもそも出てこない。出てきても「日常の中にいそうな悪役」止まりだ。

だからスポンサーに忖度しなくて済む、ネトフリ資本やWOWOWドラマはおもしろい。

地上波ドラマも、(全てではないけど)おもしろいやつ、たくさんあるけどね!


久しぶりにエンタメで楽しくなったので、長文を書いてしまった。

日本の実写作品は、ドラマからおもしろくなるかもしれないという希望を持った。



よし…


寝るぞ!



おやすみなさい。

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