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[警戒] 樹脂製リードの是非について

昨今、樹脂製のリードというものが出回っておりまして、年々とその質は向上しております。
今回はそんな樹脂製のリードについてわたしの経験してきたことを中心にお話してみたいと思います。

掲題の樹脂製リードですが、20数年前にわたしの兄弟子が「各社頑張ってはいるんだけどまぁ水を吸わないモノはダメでしょうね」といとも簡単に一刀のもとに断じたことがありまして、わたし自身はそのころ樹脂製リードの将来を見据えて専門的に使用して研究している最中であったので兄弟子の言葉を疑ったものです。
それから7年ほどの間、わたしは各種樹脂製リードを専門的に研究し愛用したもののついに8年目にして限界を感じ葦リードに戻すことを決意したのです。

水を吸わないものがなぜダメなのか、科学的根拠はありません。
この件に関して当の兄弟子と議論したことはないのですがおそらく兄弟子自身にもその根拠はないと思います。

※ごく最近、水を吸う樹脂リードができたとのことで取り寄せてみようと思います。


葦リードに戻してからの3年程度は演奏活動に大変な苦労を強いられました。
もっとも酷かったのはリードミスの発生で、これはマウスピースやリードの調整だけでは克服することができず根本からの再トレーニングを余儀なくされました。
次に音程感、発音、デクレッシェンド、概ねすべてと言って過言でない項目にも再度のトレーニングが必要になりました。
樹脂のリードに戻すとそれらはおさまり、葦リードにすると発生するといったていです。
これらすべての障害を克服したと感じ取るまでに実に3年を要したのでした。

障害を克服してのちに実験や考察を重ねた結果、樹脂製リードはアンブシュアが極端に整っていない状態でも演奏が可能であることを発見しました。

樹脂製リードは表情が出しにくいという意見を聞くことがあって、わたしはこれに強く共感しているのですがこれは葦リードに比べアンブシュアの影響を受けにくくまた葦リードは逆に微妙なアンブシュアの変化を音に反映させることができるのではないかと推察しています。

またジャズの演奏というものは時折、極端な芸当を実現するにあたって基本的なアンブシュアの範疇に収まらない動きをすることがあります。こうした演奏を重ねた結果、わたしみずからの未熟さもあってアンブシュアの崩壊を招いたのではないでしょうか。
逆にクラシックの演奏に限るとこのような極端な変化はあまり見受けられませんので、そのほかの問題をクリアできるならば樹脂リードの選択はナシでもないような気がしております。

鈍感な樹脂製リードを使用し続けた7年の間に知らず知らずのうちに自らのアンブシュアの崩壊を招いたというのはある程度納得できる考察ではないかと考えています。

樹脂製のリードを複数枚所有するユーザは意外に多く見受けられます。これは製品の個体差が感じられるという点が理由の一つに挙げられるでしょう。
葦ではなく工業製品である樹脂製リードが個体差があるというのは一種理解しにくい部分がありますが、いっぽう葦のリードは民俗工芸品のようなもので個体差があるのが当たり前でありメリットでもあると考えています。
人間の調子というものは決して一定ではなく、「調子の悪い日」というものが存在します。こういったときに少しだけ柔らかく感じるリードがあることはたいへん安心ですし、また筋力のトレーニングにいそしもうとするときには少し硬い目に感じるリードが欲しいものです。

これら不揃いの樹脂リードも葦リードに違わず調整を施すと一定の成果を上げることができることからその工業的精度は押しなべて高くはないと言わざるを得ないのが現時点における正直な感想です。

どのみち、達人の域に達した先生方はそれが樹脂製であってもなんであっても素晴らしい音色で遜色ない演奏をされるものですが、未だ道半ばのわたしたちにとってはいまだに葦のリードが最適だと思っているのです。

(すばらしい出来栄えの樹脂リードが普通に出回るようになると、わたしの調整したリードが売れなくなる日がやってくるなぁ・・)

京都在住のサックス/フルートプレイヤーです。 思ったことを自分勝手に書いていきます。 基本、内容はえらそうです。