昔ながらの丁寧な食事を、今こそ
山へキノコを採りに行き、2〜3時間かけて下処理を行う。それから調理をして、ようやく食卓に並ぶ。
電子レンジ1つで温かい食事にありつける現代社会の中にも、こうした昔ながらの食生活を送る人々がいる。そして、そんな暮らしを営む人々のもとに赴き、その魅力を発信する活動を行う美大生たちがいる。
──地産地消の暮らし
「七軒スタジオ」は、山形県大江町七軒(しちけん)地区を舞台に、地域活動を行う団体だ。東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科の学生で構成されており、現在は2期生である2年生8名が所属している。七軒での暮らし方や食文化について、スタジオ1期生の藤田萌愛さん(3年)、2期生の小河原萌さんと三浦柚穂さん(2年)に話を伺った。
料理に必要なものを、その土地で採れるもので賄う。七軒では当たり前の光景だ。スタジオの学生たちも、実際に農作業や調理の体験を行った。フィールドワークを通して知った七軒の魅力を、社会に発信する活動が「出張七軒」である。住民の知識を元にした、笹巻き(山形県の郷土料理)の料理教室や、つる細工を応用したリースを作るワークショップを開催した。出張七軒では、単なるレシピやアート体験だけではなく、その根底を流れる温かな文化も、同時に発信している。七軒の価値ある暮らしの知恵を、現代にも適応する形で残し、伝える。これがスタジオの目的である。
──食べるとはどういうことか
日本の食品ロス(まだ食べられるのに廃棄される食品)は、年間600万トン(※)にも上る。実際私も、アルバイト先のスーパーマーケットで、売れ残った商品が大量に捨てられているのを目にする。最初こそ衝撃を受けていたものの、いつしかそんな光景にも慣れてしまった。飽食の時代を迎えた今にこそ、七軒の住民が持っている視点が必要だと考える。では実際に、昔ながらの食文化に触れた学生たちは、どんな影響を受けているのだろうか。
「手間ひまをかけた分、食事がより美味しく感じられるんですよね」と小河原さん。彼女は住人からトマトの苗を貰い、アパートで育ててみたという。元々トマトは苦手だったものの、育てるうちに段々と愛着が湧いて、好き嫌いを克服できたと嬉しそうに話していた。このエピソードを受けて三浦さんも、「山菜を食わず嫌いしていたけれど、実際はとても美味しくて。今では自分で買って食べています」と笑顔で続けた。七軒での経験は、若い学生たちの食生活にも、確実に変化をもたらしている。
山へキノコを採りに行かなくとも、現代に適応した形で、食のあり方を見直してみてはどうだろうか。
笹巻きを手に、笑顔の藤田さん(左から2番目)
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増木 英莉
東北芸術工科大学 総合美術コース
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