風邪

約4年ぶりに風邪をひいた。

学生の頃は年に数回風邪をひいて寝込んでいたのに、オリンピック並みの頻度になったことに感動した。

「あなたの風邪はどこから?」「わたしは熱から」タイプで、まず馬鹿みたいな高熱スタートのわたしだったのに、今回は喉の痛みとゲボが出そうな咳。流行りのウイルスでもなかったため、逆に仕事休みにくいじゃん…休むとしても有給削らなだめなの…とそれはそれでしんどい。

喉が痛いことで普段は喉が痛くないことがわかる。身体のだるさも普段のものと違っていて、これは風邪によるもので普段の方は疲労なんだろうなとか。

天気のいい昼間のベッドに仰向けになっていると、身体は重たく沈んでいくのに思考だけが激しく動き回っていて窓から飛び出ていくのがわかった。離れていく、わたしの身体と思考。

わたしの思考は2階の窓から飛び出して地面に着地する。秋晴れに照らされたアスファルトは暖かく心地がいい。風が強くて木々を揺らすから、わたしも一緒に飛ばされる。手入れの必要なベランダが見えて、その窓からわたしがベッドに横たわっているのが見えた。ずいぶん髪の毛が伸びたんだな。空を漂っている最中鳥かと思っていたものはビニール袋で、帽子かと思ったものは結局なんだったか分からなかった。どんどん高度を上げていく。隣町の駅のロータリーが見える。バスも列車も虫みたいに小さくなる。気づけばわたしは真っ白な部屋にいる。壁も天井も全部白くて窓はあるかもしれないけど近眼のわたしにはわからない。なんにもわからない。わからなくなりたい。明日仕事に行けるかどうかも、陰で何を言われているのかも、そろそろ掃除が必要な排水口も

カラスの声が近くてうるさい、どこかの家の夕飯の匂い、喉が痛い咳が出そう、わたしの思考と身体が一致していく。もうとっぷりと日が暮れていた。今日はこれ以上飛び出さないようにそっと窓を閉める。

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