電気式気動車やハイブリッド車両を使う事の難しさ
近頃非電化の鉄道路線で電気式気動車やハイブリッド車両の導入が相次いでいる。JRのみならず第三セクターの路線でも導入の動きがあり、今後も勢力を伸ばすことが予想される。
電気式気動車はエンジンで発電し発電した電気でモーターを回して走行する仕組み、ハイブリッド車両は電気式の仕組みに加えてブレーキ時のエネルギーを電気に替えてバッテリーを充電し、加速時にバッテリーのみでモーターを回す事も可能としている。どちらも従来の気動車にあった液体式変速機や推進軸の機構をなくす事が出来る他、騒音の低減、電車との部品の共通化が出来るメリットがある。
そんな電気式気動車、ハイブリッド車両だが、近頃登場した車両はマニアからの評判がイマイチ良くない。その理由として車内の大半が機器室やトイレに取られてしまい客席スペースが非常に狭い、座席定員や窓が少ない、車両が重く性能があまりよくない、といったことが指摘されている。先日JR八高線と釜石線への導入が発表されたHB-E220形は登場前にもかかわらず、これらの点から厳しい意見が相次いだ。
筆者は北海道で電気式気動車のH100形に乗った事があるが、確かに車内の中にデッドスペースが多いのは気になった(それでも酷い車両とは思わなかったが)。一方で同じハイブリッド車両であるHC85系やHB-E300系に乗った時はデッドスペースらしきものは少なく、普通の鉄道車両と同じ印象だった。一口に電気式、ハイブリッド車両と言っても車両ごとで作りが大きく違うのである。一体この差は何なのか?
結論から言うとやはりコスト面の影響が最も大きいと思われる。
これまで登場してきた電気式、ハイブリッド車両は今後の同系統車両の発展を見越し、先行して導入された意図が大きい。いわば試作車的な要素が強かった。営業車両で最初に投入されたハイブリッド車両は小海線のキハE200形であるが、これも小海線全体の列車を置き換えた訳ではなく少数のみの生産で終わった。その後導入されたのが前述のHB-E300系だが、これも観光列車向けの車両であり少数の生産である。
特殊な用途で試作要素も強いとなると量産車よりはコスト面のハードルは多少緩くなる。つまり、お金をかけて高性能な仕様で作る事が可能になる訳である。例えばHB-E300系ブナ編成の製造価格は4両で14億円とされており、およそ1両あたり3.5億円である。また、ハイブリッド車両として特に評価の高いHC85系は量産車68両の製造に310億円かけており、およそ1両あたり4.5億円である。あまり注目されないが実はハイブリッド車両は予想以上に高価なのだ。
ローカル線向けに導入される鉄道車両は採算面から費用を抑えざるを得ないため、高くても1両あたり1億円台が限度である。そうした状況下でハイブリッド車両を入れようと思えば、重量やコンパクトさといった性能面をある程度妥協しなければならなくなる。本来その妥協案としてGV-E400形のような電気式気動車を作ったはずだったのだが運用面では不都合もあったようで、結局はHB-E220形という定員や客席スペースをある程度妥協したハイブリッド車両の導入に落ち着いたのだと思われる。
(ちなみに仙石東北ラインに使用されるHB-E210形を量産すれば良いのでは?という意見も多数あったが、この車両も16両と少数生産な上に1両2億円ほどかかったとの証言もある為、やはりローカル線向けに量産するには厳しかったのだろう)
こうして見ると、電気式気動車やハイブリッド車両は用途が限定される車両向きの機構とも言える。
特急車両やリゾート列車のように特定の運用に特化した車両であれば製造にお金をかけることがしやすいのでコンパクトかつ高性能なハイブリッド機構を搭載できる。故に客席スペースの問題も大きなものではなくなる。また、機関車や事業用車両であれば客席スペースを考慮しなくても良いため機構の導入がしやすくなる。クルーズ列車や機関車で電気式気動車が多くあり、特に大きなトラブルも聞かないのはその辺の事情も大きいのではないだろうか。
JR各社がこぞって電気式やハイブリッドの導入に踏み切るのは変速機や推進軸をなくし電車との共通化を図りたいこと、またこれらの車両が固定資産税の減免対象になることが大きいと思われる。そうした意図を汲み取り車両製造メーカーのひとつ川崎車両で標準規格が作られ各鉄道会社向けに製造されているということなのだろう。
とはいえこうした事情が絡んだ結果、利用者目線では微妙な評価の鉄道車両が生まれてしまってる訳である。高価なハイブリッド機構の投入又は液体式車両の投入でコストを取るか快適性を多少犠牲にすることを取るか、電気式気動車やハイブリッド車両の扱いは現時点では中々に難しいと言える。