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『ケモ夫人』、その人気の源流とは

『ケモ夫人』登場からの謎の人気はある意味、沈静化することなく今も作品の人気は伸び続けている。

『ケモ夫人』が開始早々からバズった理由は分からない。確かにケモノを擬人化させたジャンル、ケモナーは強い。それでもケモナー自体が多くの派閥を持つだけに、ケモナー好きであってもすべてを満足させるのは難しい。また、安易に取り入れると派閥争いになってしまう。
その上、続く漫画の展開もナンセンスとでもいう感じ。このセンスまでも広く受け入れられるのは難しいのではないかと感じていた。

でも、その疑問を無視して、始めから今に至っても人気は衰えを知らない。これはトンデモない事だ。

そして、この『ケモ夫人』というのは同人誌イベントに出す作品として投稿されている。プロ、アマとの違いはあるせよ、売り物としての作品でもある。

これは始めから明言されていたことである。いくら無料で読めているとはいえ、人気に影響が出ていないのは少しびっくりすることである。

あまりいい例ではないのだが、『100日後に死ぬワニ』の失敗には色んな要因がある。その中でも無料コンテンツから、いきなりの商業展開に激怒した人も少なくないだろう。ただ、それ以上に商業化に対してどれだけの人がお金を払ったかを考えると、投稿当時の人気とは明らかに釣り合ってはいないだろう。如何に人気があろうとも、無料と有料というのは天と地ほどの開きがあるモノ。

ただ、ここに関しては売り物とはいえ、同人誌、アマチュアと規模的にも違っているのかもしれないが。

兎に角、ケモナー、ナンセンスなweb漫画、そして、売り物などヒットする要素はありながら、反面、人を選ぶ要素ばかりである。だからこそ、ここまで人気が出ているのか本当に『ケモ夫人』は謎な作品である。

考察編

ただ、『ケモ夫人』の人気に関しては「謎」であると語って終わらしてもいいのだが、せっかくなのでこの「謎」を考察してみたい。
しかし、この「謎」については『ケモ夫人』の作者である、藤相氏自身も分からないとTwitterでは呟いている。ゆえにここで語る事は答えを出すことではなく、考察となってくる。

まず、この漫画はweb漫画のテイストがある。これは作者の他作品を見れば、ハッキリと分かる。漫画のジャンル的にいえば、「ガロ系」といえるだろう。

先ほども人を選ぶと語ったが、近年ではweb漫画そのままで商業作品となる事も少なくはない。例えば、最近アニメ化した『王様ランキング』もweb漫画発である。この作品はナンセンスでもなければ、フォーマット自体は王道。だが、主人公の生い立ちからして商業作品の作りではない。それでも、アニメ化まで至っている。

また、『ケモ夫人』に近いセンスとしても『ファイアパンチ』、『チェンソーマン』の作者、藤本タツキ氏からも読み取ることが出来る。最近になって単行本に収録された読み切りの『予言のナユタ』など、この作品と似た雰囲気を持っている。そもそも、藤本タツキ氏もweb漫画を投稿していた人物である。そして、そういった所から出てきている作家は彼だけではない。

しかし、どうであれ多くの人に親しまれている漫画であるが、2000年頃からは難解になって、読みにくくなって読者は離れているといった話がよく上げられていた。近年でも、漫画が読めない傾向は変わっていない。
そんな中で『ケモ夫人』も絵としては下手の部類で、話を理解するには難解である。確か話は荒唐無稽に見えるが、設定自体にはブレが見られない。だからこそ、話がより難解に見えてしまう部分がある。

先に挙げた『王様ランキング』にしても、多くで絶賛の声はあるものの一般人気での声は聞かない。アニメ化されている中でも、その話題性は聞かないのだから。この作品の場合は難解ではないにしろ、内容的には人を選ぶ結果ではないだろうか。

では、なぜweb漫画という人を選ぶ要素であり、また、漫画が難解になっている中でも理解しがたい作品がなぜ人気になっているのか?

これに関しては、『王様ランキング』から見ていく分かりやすいだろう。この作品は『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴氏からも、web時点の連載から絶賛されていた。こういった声はweb時点から多く聞かされていた。
そして、『ケモ夫人』にしても『姉なるもの』飯田ぽち。氏を始めとして他の漫画家からもファンアートが描かれている。

つまり、人気の発端とは漫画の専門家である漫画家が絶賛したことにある。そして、そんな漫画家を追っている読者が、紹介された作品を読めば好きになる人も多くなる。何しろ、漫画を読める読者であるのだから。

そもそも、『鬼滅の刃』にしても初期は打ち切りの危機はあったという。ジャンプ漫画だけにアンケートの結果が芳しくなかったのだろう。その反面、始めから漫画好きから推されていた作品ともいわれていた。

また、話は逸れるかもしれないが、こういった難解な漫画作品を誰もが読みやすくする方法は、『チェンソーマン』で行われていた。それが考察動画である。

『チェンソーマン』は単純に見えて、多くの伏線や舞台設定をさりげなく、一つ一つのコマで見せている。それは各エピソードで分かりやすく答え合わせされたモノや深く読まないと行けないモノと様々である。

だからこそ、読者による考察は近年の動画投稿サイトと結びつき、考察動画となった。この考察がヒットの要因になったことは編集者も理解しているのか、感想、考察をネット上に載せる推奨していた。

しかも、この発言というのが『キン肉マン』におけるSNSでのネタバレ画像が話題になっていた頃である。『キン肉マン』の件は抜きにしても、考察動画などが『チェンソーマン』の人気、そして作品の理解を広める切っ掛けであると編集者も認めているのは、まず間違いないだろう。
また、こういった考察に対する返答なのか、作者も連載終了後に各キャラの名前の由来を説明していた。

こういった漫画好きによる考察は『ケモ夫人』でも近い現象が起きている。先も語った様にファンアートである。それらが人気は加速していったのだろう。

ただ、その人気を一般人気と混合したのが『王様ランキング』のアニメ化ではないだろうか。あの主人公の生い立ちをテレビで見せられるのは、テレビ層、アニメ層からしてもミスマッチな気がする。その結果はアニメ放送後でも話題を耳にしない事になっていたのではないだろうか。
この「一部での人気」=「全体の人気」との誤認は『100日後に死ぬワニ』でも見受けられる。

また、ケモナー要素としても同様に読み解くことが出来るだろう。一般に広く受け入れられるのは「けものフレンズ」、「ウマ娘」などのより人間に近い擬人化である。
しかし、「どうぶつの森」のしずえさん、アニメ『名探偵ホームズ』のハドソン夫人などのケモノよりでも、良くも悪くも性癖をねじ曲げられる存在である。そんなケモノよりのケモナーからの人気というのが、反応を見ているが人からしても強調されて見えているのかもしれない。
「一部での人気」を「全体の人気」と認識してしまうのは、多くの勘違いを生む要因であるからこそ、ここは冷静に見極めないといけないだろう。

考察のまとめ

『ケモ夫人』に関しては、作者自身は自伝漫画として描いている節があると語っている。

そんな内容だけに作品を読み解くのはある種、無意味かもしれない。でも、私小説作品といえる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』には様々な考察をされているから、やっぱり意味はあるだろう。

また、この作品の考察というのは、ファンアートを通して見る事ができる。基本、そのキャラを描くのではなく、その世界観までも描こうとする人も少なくはないからだ。特に作中に出てくる「巨人の指」に関してはグロテスクなクリーチャーであるのに、ファンアートまで描かれている。

ここで比較するのはある意味、申し訳ないが、なろう系は良くも悪くも作品としては纏まっている。結構、突っ込み所では悪くは言われてはいるが、『ケモ夫人』、果ては『ボボボーボ・ボーボボ』のような荒唐無稽、破天荒さはない。仮想であるファンタジーなのに。

それもそのはず、テンプレであることは誰からも分かることである。それが多く人に理解され、人気へと繋がっているのだろう。これは先に私が語った『ケモ夫人』の人気構図とは逆である。
だからこそ、きちんと作品を読める人にとって、なろう系は逆にアラが目立ってしまう。

『王様ランキング』もある意味では、なろう系と似たファンタジー世界である。そして、チートとまで言わないが、それに近い能力をある。
しかし、その反応をみると真逆である。同業者から絶賛されても、一般人気は薄い。
逆に、なろう系は一般人気はあるが、同業者からも理解されていない部分もある。先からも語っている様にこの「一部での人気」を誤認して、書籍、アニメとなっているのではないのだろうか。それはなろう系に限った話でもない。これはケモナーとしての「けものフレンズ」、「ウマ娘」という見方もできる。

さて、こう考え続けると、いささか重くなってしまうので少し話を変えよう。『ケモ夫人』は英語翻訳もされて英語圏まで読まれている様である。
『ケモ夫人』に限らず、こういった日本でも限られた漫画好きの作品は意外にも、海外へも浸透しているようである。

同人誌で掲載された作品が海外でも展開するのは、やはり日本の漫画文化というモノが根強いと示すには、明るい話題と言えよう。それでも見方を変えると悪くは言えるのだが、ひとまずは明るい話題で閉めたいと思う。

漫画を娯楽としての「ちょうちょの時間」であり続けたいから。考察という、無粋をしている自分ではあるが。

※2021/11/16 分かりづらいタイトルだったのでシンプルなモノに変更しました。記事の中身自体は変わっておりません。

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