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素敵な武器を作ろうとする少女達。二転三転する開発は無事終えるのか? SF小説「ウェポン・オブ・ロマンチック」

『重機兵少女 ホラィ・ト・スフィ』
(あらすじ)いつの時代からかも忘れるほど、人類の敵『バカピック』との戦いは今も続いている。そんな中でも、人類と少女達、人工生命体『ファミネイ』は生きる為に戦ったり、いつもでも楽しいことで遊んだりしている。そんな世界での一幕である。

こちらの本文は『アサルト・バスター・クリティカル・ドラゴンスレイヤー
重機兵少女ホラィ・ト・スフィ』に掲載されたエピソード「ウェポン・オブ・ロマンチック」の公開したものになります。

時折、影を射す、『モラトリアムの終末』での一幕とは。

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PART 1 計画

 格納庫の一角でレモアはエンジニア達を集めて何か話していた。カレンはそんな珍しい光景に何を話しているのか、聞いてみた。
「いや、私は高機動性を得意としているけれど、いまいち生かしきれていないのよ」

 質問に答えていながら、唐突な答えでカレンは困惑している。別にそんなカレンに気にすることなく、レモアは話を続ける。
「接近と射撃を両立した武器があれば、この個性を生かせるのではないかと今、考えているのよ」

「難しい話ではないのですが」
 そこでエンジニアの一人が語る。そう語るように接近、射撃を両立した武器は古来より作られてきた。ただ、それらの多くは駄作として世に残る結果となっているのだが。そして、それ以上は計画倒れで歴史にも残らない。

「じゃ、銃剣の要領でくい打ち機やチェンソーを銃器に付けるのはどう」
「ただ、それらは密着が必要となりますので、ちょっと高機動という特性で生かすにしても、反撃のリスクが高く、戦法としてはヒットアンドアウェイをベースに考えるべきでは」

 人類の敵、バカピック。強固な装甲に守られた機械であり、知性体である。ただ、行動には奇行が目立ちながら、人類を滅ぼすに十分すぎる力を持つ。それでも、人類が滅亡していないのは、その奇行に助けられているという皮肉である。

 そんな人類の敵と戦うのは我らが『ファミネイ』。巨大な武器を手にして、機動力を駆使して戦う。

「このアイデアには光学兵器ベースにした方がいいですね」
 ここ長らく人類の兵器かつ日常にも使われるレーザーのことを主に指す。射撃武器だけでなく、接近時にも装甲を焼き切るための工具かつ武器としても使われる。

「ただ、そうなるとメリットがないのでは」
 レーザーはエネルギーが減衰するにしても、その威力は有効範囲内であれば距離で大きく変わることはない。つまり、接近など考えず無難に距離を置いて撃つのが正しいことになってしまう。

 元より取り回し重視の接近用のレーザー兵器では小型で威力もそれなりである。あくまで副兵装の位置づけ。威力を上げるのに大きくすることで対応は可能だが、そうなると射撃武器として運用するのが正解という話になってしまう。

「後はビームにする手もありますが、こちらは射撃は期待ができなくなりますね」
 こちらも光学兵器には属するが、荷電粒子を打ち出す方式。高出力な武器である反面、減衰しやすく長距離で使えず、エネルギー消費も激しく乱発もできない。

 デメリットはそれだけでなく、ビームはバカピックに対して効果が期待できない。バカピックは装甲だけでなく、特殊な力場で一定以上の攻撃は無効化してしまう。高出力が売りのビームでは、これに引っかかってしまう。

 接近戦ではその力場の影響は軽減するので、ビームは接近を主とした武器で開発もされていた。しかし、エネルギーの消費量や有効的な運用ができなかったことから今では運用も開発はされていない。

 今現状では接近武器では重量にモノをいわせた巨大なモノや連射のきく実弾での短機関銃などが使われている。どちらもエネルギーの消費はいらないモノである。実際、機動力に対してかなりのエネルギー消費する。武器にエネルギーを使わないのは、その対策にもなる。

 遠近両用の武器は、古来より考えられたことだけにアイデアとしてはいろいろと浮かぶ。だが、実現をさせようとすると難しい。だから、歴史上に残りもせず、駄作とだけ記録される。

「逆に接近武器に射撃武器を付けたらどうですか」
「それなら、副兵装で別に持った方が無難ね」
 現在でも接近戦を担当とするファイターの多くは巨大な接近武器と小火器を持って運用している。

「あくまで高機動という特性を生かすには、距離がある所から、機動力で詰める懐に入り込む強襲スタイルが理想」
 レモアは高々に語るが、カレンにとっては機動力を駆使する戦法は得意でないためいろいろと理解し難い部分がある。

 そもそも、両立などしなくとも副兵装の持ち替えでも十分で、近距離での射撃でも命中率の向上になるため、それも火力の向上では間違ってはいない。

 ただ、ネタに尽きない考えだからこそエンジニア達もノリ気なのである。
 ファミネイ、少女達は楽しいことが好きなのだから。

「大事なことを忘れていた」
 レモアはふと思い出したことを口にした。
「ところで武器の名前を何にする」
 まだ、コンセプトも決まってないのにそう言い出したが、エンジニア達もそれに同感して、議論は更にヒートアップすることになった。

PART 2 実行、評価

 レモアの思いつきによる『接近と射撃を両立した武器構想』は多くのエンジニア達を巻き込んで、いろいろなプランが出されることになった。それらのプランをレモア本人、また機動力を駆使する戦闘要員のファミネイらにも意見を聞き、反映させていった。

 その中でも好評かつコストバランスに優れた、3つのプランを検証のために試作された。

【プラン1:レーザー2連装ライフル】
 単純に2個付けることで火力増加を考えた案。ただ、実行に当たり全体のバランスを考え、1基のレーザー威力は押さえられ、2基同時で発射することでようやく真価を発揮する。

 それでも現行のレーザーライフルの1.5倍強程度でしかなく、エネルギーもかなり食う結果に。重量も機動力に影響が出ないようには努力したが結構重い。計画段階では3連装以上も検討されたが、現実的には2連装止まり。

 使い勝手の良いアイデアなのだが、形にしていく中で高機動のコンセプトより重装に近い格好になってしまった。今後、設計を詰めるにしても、後方支援向きで考え直した方がいいかもしれない。

【プラン2:ワイヤー付きレーザーブレイド】
 鎖鎌からアイデアを得た、変わり種ではある。それでも近接、中距離を両立した武器としては割と成功しているため、採用された。

 ただ、軌道を巧みにコントロールするには使い手の技量が必要にはなってくる。また、サイドアームの位置づけだけに大きな威力は期待はできない。それでも開発は容易だったことと使いこなせば面白い武器ということで採用された。

【プラン3:レーザーライフル・アンダーバレルサブマシンガン(以下バレルSMG)】
 レーザー2連装ライフルとコンセプトはかぶり、また当初の遠近両用からも矛盾する射撃×射撃。だが、以外に計画段階では、これが好評であった。

 レーザーのメリットは弾薬コストがほぼゼロである。また、威力、照準など空間の影響をほぼ受けない。更に威力制御が容易などメリットが多い。

 ただ、デメリットも場合にもよるが多い。対レーザーの装甲では効き目は薄い。また、発射時エネルギー消費するため、コアに負荷が掛かる。コアはすべての機器と連結しているため、連発をすれば機能低下に繋がる。

 そのため、レーザー兵器のみの部隊編成は基本的にはあり得ない。武器は多様でないと戦闘時は詰んでしまうからだ。

 このレーザーライフル・バレルSMGはお互いのメリット、デメリットを打ち消し、同時発射により火力の増強もできる。レーザー2連装ライフルのデメリットを補った形である。

 また、これは全体にいえることだが、グレネードランチャーを付ける案はコンセプト外として出ていない。爆発系はある程度、離れて使わないと自爆するためだ。近距離で扱うモノではない。

 同様に古くに運用されたショットガンとの連結も案として出ていたが、バカピック戦を想定すると使えないため却下された。

 何しろ、バカピックの図体はでかい。そのため、ショットガンで撃たなくとも、相手の方向に石を投げても当たるぐらいだ。とはいっても相手も、回避行動は取るため、命中は絶対ではないのだが。

 また、ショットガンでの射程は短い上に、威力が拡散する。バカピック相手ではダメージは期待できない。それでもショットガンを使うのであれば、それは戦闘以外のツールとして使うぐらいしか今では用途がない。

「どのプランも地味で、無難な感じになったわね」
 レモアは出来上がったプランを見てそう語る。レモア自身、この話を持ち上げたときは、こうロマンある話だったはずだったのだが、今では事務的な紙の仕事となっている。

「いろいろな人の意見も反映しましたから、現実的な形にまとまりましたね」
「いや、そうではないでしょう。剣がパカッと分かれて強力なレーザーを撃ったりするような。そう、ロマンのある武器がコンセプトだったのに」

 レモアそうは熱く語る。初めから話に付き合っていたエンジニアもその熱意には同感ではあるが、困り顔である。
「考えてみると部隊であれば、お互いの欠点を補えます。昔からロマンある武器よりも現実的に使える武器の方に開発がシフトしていたのかもしれませんね」

 機動力を生かす武器から、近接、射撃のできる武器となったのはエンジニア達が導いた結論であった。そして、別のエンジニアもその意見同調しつつも、こう語った。

「そもそも、そんなロマン武器があって、1人で対応できていれば、今バカピックはいませんよ」
 確かに物語にあるような完全無欠な武器であれば物語同様、悪役は一掃されている。だからこそ、長い間続いた戦闘もいまだ続いている。残念な話ではある。

「取りあえず、せっかくプランも試作したので検証だけは付き合ってください。司令にも話は通してあるので、ここで逃げられませんよ」
 いろいろと面倒なことになったとレモアは思った。

 もっとも、試作されたといっても設計図までの話。ここからシミュレータで検証することで改善や精度を上げていく。その際のファミネイもシミュレータとリンクして行われる。
 今回、それを行うのは言い出しっぺであるレモアになるのも必定。

 以下がシミュレータによるテスト結果となる。

【プラン1:レーザー2連装ライフル】
 成果としては良好ではあるのだが、やはりエネルギー消費が問題。使用後のエネルギー立ち直りを考えると機動力を生かしての使い方は不向きと分かった。

 結局、試作段階でも思っていた重装案としては使えるとして事ははっきりとしたので、このプランは時間があれば進めることになった。

【プラン2:ワイヤー付きレーザーブレイド】
 これも決しては悪くはないのだが、訓練なしでは命中率が悪い上、高機動で駆使するには更に困難を極める。それだけに効率よく使うにはブレイド先端に推進力を持たして、補正をかけることが必要そうである。

 鎖鎌自体、近接武器に対する武器だったので、遠距離という点では運用自体を見直しも必要。また、鎖鎌は習得に時間がかかる武器であると改めて、感じさせた。

 それでも面白そうな武器であることは、今後の兵器運用と開発に決して無駄にならないと司令に提案することになった。一応、こちらも時間に支障がなければこのプランは進めて良いという結果になった。

【プラン3:レーザーライフル・バレルSMG】
 こちらも成果は問題はなかった。ただ、サブマシンガンの有効射程はわりと近距離であり、効果は発揮するには接近するしかなかった。

 この点は元々、レモアが思っていた機動力を活かすとも合致しており、大きな問題がなかった。ただ、遠距離のできる武器でありながら、威力倍増を狙って近接するリスクを考えると万人向けのプランではない。

 それなら、遠距離武器で手数を増やした方が合理的である。射程を補って、サブマシンガンからアサルトライフルに置き換えてもコストと重量増なるだけ。また、それでは当初のコンセプトからも外れる。

 意外にありと思っていたが、特化しすぎたプランという結果になった。そもそも、聞いていた相手が機動力を得意とするファミネイ達。特化傾向になるのも、当然でもあるのだが。

そ れでもレモアは割と気に入ったので実戦で使ってみたいと提案。だが、すぐに司令からは却下された。

 理由は2個の武器を1個の武器とする必要もなく、やるなら両手で使えばいいこと。
 ただ、両手持ちに関しては拒否されていないので、今度の実戦で両手を使ってやってみようとレモアは思っていた。

PART 3 改善

 バカピックの戦闘に対して、ファミネイには3つの役割が存在する。ファイター、マルチ、アタッカーである。主としてファイターは接近戦で対応する者。アタッカーは後方から攻撃、支援を行う者。マルチはその中間で、かつ、状況によってどちらの役割もこなし、どちらも補う。

 その中で変わり種のファイターがグラス・ウィズである。得意とする武器は2丁の短機関銃。接近戦を主とするファイターでは銃器を使う者は少なく、巨大な剣や槍などの接近武器を好む。

 理由はマルチ、アタッカーの援護を受けるため、接近することに専念して、殴り合った方が効率がいいからだ。また、銃器では攻撃面積や弾切れなど制約もある。

 ただ、機動力を攻撃の軸にする者は逆に銃器を好む。銃器が少数であるから機動力を得意とする者も少数なのだが。グラスはその中でも特化している。そして、戦闘方法だけでなく、とあることでも変わっているのだが。

 短機関銃といっているが、アルミカンで展開されたサイズでは巨大である。自身の身長と同じぐらいの大きさで、砲身は腕の太さより少し小さいだけ。それでも展開した他の武器から比べれば、小さい部類だが。

 しかし、昔の兵器から比べれば、車両や航空機に付けられていた機関砲クラス。それが少女達には短機関銃と小型武器扱いと贅沢な話ではある。

 そんなグラスにレモアは今、悩んでいる武器の運用について相談するのであった。

 グラスはレモアとは所属する部隊が別であるため、勤務時間が違う。だが、グラスが非番のときは大抵、食堂にいることは周知の事実なので、そのときを狙えばいいだけである。

「なるほど、話には聞いていたけれど。そういう流れだったの」
 グラスもこの計画には無理矢理に話を聞かされていたので、概要は知っていた。そして、自身の実績から短機関銃を使うことを提案していた。

「とはいえ、この企画は私の思うような流れを完全に外れてしまったわ。その上、企画者だからと雑用もさせられるし」
 試作でもそうだったが、その後の検証でもレモアが駆り出されている。機動力を生かしたいのに、重武装、アタッカーのようなテストもさせられていた。

 戦闘の役割はファミネイの得意、不得意で選ばれる。だが別の役割であってもこなすことは難しい話でない。ただ、その特性を生かし切れないだけである。

 実際、レモアの役割はマルチ。得意なのは機動力であるが、他は割と器用貧乏で多様性の求められるマルチが役割となっている。

「そもそも、企画の名前が悪い。『ピナーカ』の由来を知っているのか」
 この『ピナーカ』という名前はレモアが話を持ち出した際に作られた計画のコンセプトを表す武器の名前であった。今では企画名として使われている。

「神様の武器でしょう。決める際に検索して選んだのだから知っているわよ」
「そうよ。ただし、その形状『弓』よ。遠距離武器のコンセプトなら正しいでしょうが」
 レモアはその事実を初めて知った。

 レモアが調べたときは槍であり、3つの象徴を内包すると意味からこの計画に適していると判断した。また、武器としてロマンある伝説も同様であった。ただ、今調べると槍と弓が間違って伝えられいたことも記載にあった。

「えー、何か光線とか出すとか、投げると光の速さで飛ぶとか、破壊力がありそうだと思ったのに」
「何よ、その発想は」
 グラスはレモアの思っていた発想に突っ込む。

「とにかく、企画名からすれば、コンセプトはズレていないわ。どちらにせよ遠距離もこなせる武器の凄い名前なのだから」
 レモアはそう語る。負けず嫌いであるから無理矢理の反論である。それはグラスも理解している。だから、間を置くのにもグラスは自身が用意した飲み物に口を付けた。

 そして、飲み終わると話を変えて、こう尋ねる。
「それで私に相談事とは」
 グラスの周りにはファミネイは寄ってこない。別に孤独を楽しんでいる訳でも、別に嫌われている訳でもない。

 グラスから漂う香りがきついのだ。決して不快な匂いではないのだが、本来ない強烈な甘い臭いを漂わせている。

 グラスは甘い物また、その香りを好む。ただ、通常の量では満足できず、また、それ無しでは生きていけないほど依存をしている。そのため、過剰に摂取した甘味から漂う香りが全身を包んでいる。また、今も現在進行形である。

 たまに独自に作った飲み物をくれたりするが、美味しいことは美味しいのだが、薄めないと劇薬になりかねないほどの甘さである。

 この性格というか、既に依存症は治療も試みたのだが、どうしてもアイデンティティーと絡んでおり、甘みなしの生活では戦闘に影響が出てしまう状況だった。そのため、一応、依存していても大きな支障がないため治療は二の次となっている。

 レモアも機動力を生かす先輩として、付き合いは多少あるので臭いには慣れている。それでも不快ではないとはいえ、やはりきつい。

「それでこの企画ではレーザーライフル・バレルSMGが私としてはお気に入りなのですが……」
「まあ、駄目というでしょうね」
 グラスはあっさりと答えた。

「短機関銃の提案は私だけれど、一撃必殺という観点で提案したから、実用性でいえば企画段階で却下されることは分かっていたわ」
「一撃必殺、それでいいではないですか」
 レモアはその甘美な“一撃必殺”という言葉に酔いしれたいのだ。

「駄目よ。あくまで一撃必殺でも、敵が複数機の出現で考えた場合バレルSMGでどれだけの弾がもつ。そして、そういった状況で接近戦を仕掛けて、うまくいくケースは少ないでしょうね」
 グラスはそこまで見通していた。何しろ、自分の得意とする武器、その特性を十分に理解しているからだ。

 実際問題、バレルSMGの装弾数は少ない。コンパクト、軽量性を維持したためだが、レーザーライフルとの併用して、装弾数はバカピックを1体倒す程度しかストックされていない。アルミカンでリロードするのだが、それでも頻繁に必要となる。

 通常の短機関銃の総弾数でも、それ単体で1体とおつりが来る程度。つまり、バレルSMGはおまけ程度の効果しかない。

「とはいえ、好評なのは中、近距離においては便利だから。サイドアームとして愛用者は多いからね」
 ファイターは主として銃器を使う者は少ないが、別で持つ武器は距離の取れる銃器になり、軽量性から短機関銃を好んでいる。

 また、銃器を主とするファイターも連射性、手数の多さから短機関銃を選択している。その愛用する者らが分かっているからこそ、バレルSMGは確実な実用性で好評であった。おまけ程度の機能であっても。

「それでも2丁持ちは駄目と言われていないから、特訓しているのだけれど……」
「それも無理ね」
 グラスはため息交じりの少しあきれ顔で語る。そのとき、不意に甘い香りがレモアを襲う。グラスの口から漏れた香りだろう。

「そもそも、火力を上げるために私は2丁持ちなんて、やっている訳ではないのよ。複数機相手にできるように、手数を増やすためよ」
 太古の武器である、刀による二刀流にしても戦法は攻守兼用で、バランスの取れた物。単純に2倍の攻撃力を得ようとして考案されたモノではない。

 その後においても、「二刀流」というの言葉は攻守兼用できる選手や相反する2つの技能持ちを指す言葉として使われている。

「それに2丁持ちは大変でしょう。力場の制御、火器の管理、アルミカンによる構成、その上、左右での別動作と、単純な二刀流ではマイナスにしかならないわ」
 少女達の武器はただ持っているだけでない。その巨大さゆえに維持だけでも様々な制御が必要となる。そこに戦闘が加わると簡単なモノではない。

「それに私は機動力で切り込みをかけて戦場を攪乱するから、どうしても撃破数は少ない。アシストの点では高評価だけどね」
 2丁持ちは一撃必殺という観点ではなく、複数の敵を相手するのに手数を増やしてアシストをするため。機動力は攪乱であるためで、レモアが考えている機動力とは少し違っている。

「まあ、この戦法が必ずしも正しいというわけではない。自分にとって、うまく活かせるだけの話よ」
 グラスはそう語る。確かにレモアもグラスの戦法は自分には無理と判断している。

「せっかく、2丁持ちというロマンある武器の参考になるかと思ったのに。これじゃ、余計混乱だわ」
 レモアにとっては、それらもろもろの状況を1つで対応できる武器こそが今、考えていることである。グラスはそんなレモアを見て、ふと思った。

「じゃ、私と1対1で模擬戦をしてみない」
 予想もしていなかった言葉であった。その提案にレモアは目を丸くする。意図が読めないからだ。

「貴方が思う武器は、結局の所、貴方にしか使えない。私の2丁持ちのように。むしろ、それが分かっていない今、武器の構想だけを先行してもただ、悩むだけよ」
 グラスは自らの意図を話す。

 彼女自身、戦闘スタイルには悩んだ結果、今にたどり着いた。その際、いろいろと先輩、姉貴分から教わったこともある。それをレモアから読み取って、今こうして真似をしている。

「機動力を得意とする者同士の戦い方を体験することで、少しはそれに参考になるのではないかしら」
 レモアはうなずいて、その提案に乗ったが、その後、グラスはとんでもない条件を出してきた。

「あくまで勝ち負けを競う訳ではないから、装備は自由でいきましょう」
 接近戦を主とするファイターと、どの距離を置いても戦えるマルチではアドバンテージはマルチにある。この提案したグラスの方が不利になる条件である。

 そもそも、ファミネイ同士の模擬戦は3人1組で行われる。各役割による特性を平均化するためもあるが、戦闘でもこれで1チームとして構成するからだ。それでも、1対1での能力を競う場合はほぼ同装備で行われる。

 グラスがいうように勝ち負けを競う意図がないしろ、装備が自由では下手をすれば一方的な戦闘になりかねない。いつも通りグラスが2丁の短機関銃で挑んでくれば、レモアはアウトレンジから攻撃すればいいからだ。

 なら、グラスにはこのアドバンテージを覆す秘策があるのだろう。それはレモアが望むロマンといえるかもしれない。そう思うと心がワクワクしていた。

PART 4 再評価実行

 模擬戦といっても、シミュレータでの話。現実で模擬弾を使っても流れ弾で大惨事とコストも馬鹿にならない。何せ、少女達の武器は巨大なのだから。

 また、少女達が住まう狭い地下では機動力も生かせず、地上でやろうものなら馬鹿騒ぎにつられて人類の敵バカピックまで現れても、洒落にもならない。

 それにシミュレータといっても高度に発達した今では、現実との差はほとんどない。なら、現実への悪影響がないシミュレータの方が何かと便利である。

 この模擬戦のことは司令であるハヤミにも連絡してある。部隊が違うこと、勤務時間が違うことなど、いろいろな制約があること以上に、こんな楽しいことを少女達が無視するわけがないからだ。むしろ、その対応の方が大変だから、事前に連絡をしている。

 部隊内での模擬戦なら単なる面倒なことなのだが。

 この模擬戦はレモアが日中勤務でグラスが非番のときに行われた。日程はグラスの提案であった。それは発案者であること、自身の時間を犠牲にされる先輩の余裕を見せている点もあった。これに関しては後々、意味を持たせるグラスの作戦でもあった。

「アキラ、口出しは無用だ」
 ハヤミはこの模擬戦に立会人、いや、イベントの運営スタッフを買って出るしかなかった。そして、アキラもまたハヤミに連れられてきている。今後においても経験となるからだ。少女達のお守(も)りとしての。

 シミュレータは格納庫近くにある部屋に置いてある。また、模擬戦だけでなく、兵器の開発にエンジニア部門も使っており、ここ最近はレモアも入り浸りであった場所である。

 そして、シミュレータは映像としても処理ができる。そのため、他の者がその内容を確認することや、それを見て楽しむことだってできる。

 観客となる少女達は格納庫や食堂などで模擬戦の始まり、いや映像で処理されるときを楽しみにしている。

 当のシミュレータをする側は椅子に座っているだけ。とはいえ、あらゆる感覚はコアを介して、シミュレータの中にある。意識は仮想の中で、現に座っている少女の体は必要最低限な機能だけで生きている。それは人形ともいえる状況だ。

「さて、このままだと観客どもの声が聞こえそうだ。そろそろ、始めよう」
 格納庫や食堂では今や今やと楽しみにしている少女達が会話をしながら待っている。シミュレータは隔離した部屋で防音機能は十分とはいえ、そう感じさせるほどに少女達とはそういうモノである。

 シミュレータ内ではレモアとグラスが装備等の最終確認を行っている。今回の戦闘エリアは何もない平原。基本的にはこのマップしかないぐらいに、ここでしか模擬戦は行われない。

 理由は勝負に影響のある不確定要素が少ないことと、地上はほとんどが平坦な荒れ地で平原と大差がないこと。意味合いとしては、先の理由が大きい。

 戦闘を開始するカウントが始まった。双方とも準備は済んでいる。お互いは戦闘エリア内に描写される。自身と仮想の感覚はコアを通して演算され、自身の体験、出来事とする。

 レモアは愛用のレーザーライフルで、グラスもまた愛用の2丁の短機関銃。両者とも武装を巨大化に展開済みで、自身の側に浮かしている。

 改めて見ると、レモア自身の倍以上ある長物と、グラスと同じサイズの短機関銃か2丁。単純に射程距離だけ考えても、明らかにハンデがあることは素人が見ても分かる。

 また、グラスは左右に光沢のある半球のシールドも展開させている。大きさは古来の盾と同じぐらい上半身を何とか隠せる程度。それに対して、レモアは左側にほぼ全身を隠せる程度の四角いシールドである。シールドだけは両者とも相手の武器に対して、有効な選択してきている。

 現在、お互いは目視では少し確認しづらい位置にいる。

 短機関銃にしても射程は1000m強は有効範囲。また、推進装置の移動力は10秒強もあれば、その距離を詰められる。目視で表情が見える状態では文字通り取っ組み合いのケンカにしかならない。この程度は離れていないと模擬戦にならない。

 それに少女達なら目視でも補正をかけることもできる。観測機器も使えば、目視以上に情報を集めることができる。

 また、その火力も現実と同じで、ファミネイの力場による軽減でも、レーザーライフルなら2発も食らえばアウト。短機関銃なら数十発ぐらいまでは連続の直撃には耐えられるが、それ以上からは直に弾丸をもらうことになる。

 バカピックの場合はそれよりもう少しダメージを与えないと倒せない。ついでだが、バカピックの攻撃は、ゴーレムのエネルギー弾だと直撃でピンチ、2発目は耐えられないである。

 そうこうしている内に戦闘開始のカウントが終わり、戦闘が始まった。

PART 5 評価結果

 機動力を得意とする少女達の戦闘はスピーディである。そのため、短時間で決着が付いた。それでも内容は濃いモノであった。

 それだけにハヤミやアキラにはリアルタイムでは内容を読み切れない。リプレイでようやく中身を理解していた。実際、気がついたときにはレモアの存在は戦死扱いで戦闘エリアから消されていた。そして、その場に残っていたのはペイント弾で赤く染められた地面だけであった。

 戦闘内容は上品な教本にはない、グラスが先輩達から受け継いだ戦法の披露であり、バカピック相手のユニークでアグレッサー的な戦法、戦術でもあった。

 模擬戦の結果。グラスの圧倒的な勝利。シミュレータが出した戦闘の優勢度を示すスコアも『5:95』と常時、場を支配していたグラスに点数が入っており、レモアに一切の点数が入っていない。

 ただ、単純なスコアでは『35:65』。これはグラスが戦闘指導に徹していたため、とどめが刺せる場面でも見送ったため、チャンスを生かし切れていないと判断され、大きく減点とされた。このスコアに関しては今回の場合、あまり参考にはならない。

「さて、この結果をどう見るか」
 ハヤミはアキラに尋ねた。スコアが示すとおりいえば、単なる惨敗だ。だが、長距離と近距離という元々想定されない状況での戦闘、そこを考えると勝敗は余り重要ではない。中身が大事になる。

「敗因はレモアが無謀に前へ行きすぎたことでしょうか」
 アキラは先ほどの戦闘をそう評価した。それは戦闘内容を見る以前に、進行方向を示した結果からも簡単に読み解くことができた。
「そうだな」
 ハヤミも同じ感想であった。

「実際、先の戦闘でも同じ状況になりがちであった」
 レモアは機動力に自信があり、それを生かし、頼ろうとする。また、距離に問わず射撃能力も高いため、ファイターよりもマルチとして役割を与えられている。

 ただ、新人であるレモアが、機動力を生かして前に出るのは、危険なだけである。先の戦闘では大規模であったこともあり、前に出ても結果的にサポート役にしか役が立たなかった。それがいいのか、悪いのかは別だが。

「ともあれ、お前の指示や補助、各員のサポートによってレモアは今まで生き延びたが、1人だけで全てをこなすには経験不足。また、実績に裏付けされた直感が足りない。その結果がこれだ」
 敗因をハヤミはそう分析した。

「では、レモアは後方で守りに徹していたら勝てたと思うか」
「恐らく、それはないでしょう」
 ハヤミの問いかけにアキラは即答した。

「レモアの性格もありますが、グラスは前に出ないといけない状況を作り出して、誘い出していたはずです」
 今回の模擬戦でも何度とレモアは前を出た。むしろ、グラスはそれだけ前を出る機会を作り出していた。

 これもグラスの進行からも読み取れていた。それだけにグラスは前に出ることよりも、後ろに進む場面が多かった。

「そう、装備等の特性を理解していれば、自分に有利な状況は作りやすい。必要なのは戦況をフォローする武器ではない。場を味方に付ける情報と知識だ」
 ハヤミはグラスがやりたかったことを口で説明する。最も、ハヤミはこれと似た場面に何度か立ち会ってきた。

 グラスが新人のときだって、こうやって立ち会っていた。そして、今と同じ結果で先輩に惨敗したのだった。

「まあ、ロマンも悪くないが……」
 事の発端である近接、射撃のロマンのある武器は、時間をかけて行われたバカピック対策の中でも何度か話題に上がってきている。

 今も成立していない、いや、できなかった。いろいろな制約が多く、それよりもチームで役割を分担させた方がコストや運用面で効率がいいという話になったからだ。

 つまりはファイター、マルチ、アタッカーの役割を3人1組にしたチームの考えである。しかも、1人が行うよりも各自のサポートで何倍にも効果を上げることができた。無駄にロマンの武器に頼る必要はなかった。

 特にターニャはそういった開発経緯を理解している。だが、ハヤミはターニャにはこのイベント、騒動に参加を禁止していた。その答えをしっているからだ。

 少女達も楽しみにしていたモノとは多少違っていたけれど、概ね満足なイベントであった。

 とはいえ、満足できない部分は良くできた戦闘教材だったからだ。若手には参考になる戦いであり、ベテラン勢にもあらため考えることの多い戦いであった。

 実際、少女達はこの試合は賭け事にはしていない。この結果は一部では経験から結果を予測しており、素人目でもハンデのありすぎだけに賭け事として成立していないと判断されていた。まあ、賭けといっても、少女達の賭けるモノはお菓子や小物類であるが。

 では、当の本人達は。シミュレータの戦闘から解放されても、しばらくは立ち上がれず、座り込んだままである。

 シミュレータの結果は随時に反映され、体にも伝わってくる。だからといって、ダメージがそのまま体に反映されることやコアの使いすぎによる負荷による体に悪影響はないが、それを疑似体験しているだけに、仮想から解放されてもコアと脳内の処理が現実への対応が追いつかない。

 一種の仮想酔いである。そのため、しばらくは仮想空間で何もせず休み、慣らしてから現実に戻ることになる。それでも仮想内の疲労はすぐに消えることはない。これも違和感なく現実への慣らしのためである。

 だから、模擬戦で得た情報、振り返りを処理するにも一苦労。

 何せ、レモアは満身創痍の死亡扱い。グラスもコアの制限解除による負荷と頭へのダメージなどで疲労と痛みに耐えている。優勢に勝利したとはいえ、決して優雅なモノではない。

 それにこれだけ優勢に戦闘をしていたが、楽なときは一瞬たりともなかった。常にリスクは付きまとっていた。コアの負荷のかかり具合では意外にもグラスの方が上。それは観測や機動力に常に全力で使い切っていた。

 レモアの場合はただ、追うだけで全力を出している場面は少なかった。それに自慢のレーザーライフルにしても使う場面も少なかったし。ただ、ダメージだけはでかかったが。

 ともあれ少女達にとって、戦闘でロマンチックなことは仮想といえど何一つないのだ。

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本エピソードを含む『アサルト・バスター・クリティカル・ドラゴンスレイヤー重機兵少女ホラィ・ト・スフィ』はKindle本でも読むことが出来ます。

著者 ツカモト シュン
サブカルコラムニスト、作家等のマルチクリエイター。20年近くネットを見続け、HNタングでも勝手気ままにサブカルチャーを軸としたコラムを書いてきた。「重機兵少女」シリーズの著書がある。

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