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亡き父の珍・名言

「おかーさんが美人やからや!」


何ごとかと飛び起きる後部座席のわたし。
車の運転が大好きな父は家族を引き連れてよくドライブに行く。母は「家のことがしたいのに」と嘆く笑。いやいやいやいや、出かけたいわたしはやり取りを見守る。

わがままな少年にかえった休日の父は負け知らず。
母が折れてどこかに出かけるハメになる(ラッキー!)

なかなかな遠出をするものだから、帰り道の30分くらい運転代わろうか?と名乗り出る母、秋子。
疲れてるわけでも代わってほしいわけでもないのだけれど運転ド下手くそな秋子に代わる。申し出は断らない。
自分が運転してた方が楽なのに、と心の声が聞こえるけど、決してそんなことは母に言わない。大好きだから。
運転以上に母のことが。

「ぎゃー」とか「あーーーっ!」の声と共に母の運転する車はわが道を突き進む。道はまったく知らない。交通標識もほとんど知らない運転歴45年選手。

「大丈夫やで〜まっすぐ行ったら右な〜」とやさしい声がするのにも関わらず左に曲がる。よく笑うこの夫婦はまちがえた道すら楽しもうとする。サイコーにポジティブ。
そして無茶なところで無茶な曲がり方をするものだから、いろんな列に割って入ろうとするものだから周りの車はビビって避ける。道を開けてくれる、笑

「ええなぁ、べっぴんさんは」

どこの誰でも道をあけてくれる「おかーさんがべっぴんさん説」は父がつくった迷言だけれどひと言で家族みんなが幸せになれる。秋子は照れる。
決してべっぴんさんだから開けてくれた道ではなくとも。


それから事あるごとに母を褒める父はエスカレートしていく。「どっか」に行った帰りは必ず母の実家の前を通る、遠回りの道を選ぶ父。わたしは察する、まだ帰らないんだ!少し手前で必ずいう。

「ばぁちゃんち、寄ってこか」

「いや」即答秋子。がーーーーーーーん(心の叫び、私)
「もう寝とる」続く秋子。こんな時間に寝るか!私。
「いくなら2人でどーぞ、車にいるわ」ダメ推し秋子。
なんて娘だ。
「お母さんも行こや〜」と少年になった父はねだる。
結局勝つのはお父さん。この頃には運転しているし。
「こんばんわ〜」とノリノリで入っていく父娘。
渋々入ってくるのが、君たちの娘、秋子だよ、と。
おじいちゃんもおばあちゃんも義息子と孫に優しい。アイスやビールを出してくれる。ここは天国である、ひとり地獄に真っ逆さまみたいな顔をする母以外の私たちには。

「お母さんはいちばんやなぁ!」

また父の迷言が炸裂する。秋子は困る。そんなヨーロッパ人みたいなストレートなのには弱い。ましてや実家で。
モノ言わないお爺ちゃんはニコニコしている。言いたいことを言いまくる父(義息子)が大好きだから。
そしてお婆ちゃんに怒られる「そんなこと言うもんじゃない」いや、別に言ってもいいけど照れ隠し。
お父さんと結婚したことを、人生イチ喜んでいたくせに。
そして"お母さん"の号令により立ち上がり帰宅。
楽しい一日がおわってしまう。 

そんな父は晩年まで母を褒め倒した。
亡くなる数日前の父の言葉をわたしは一生忘れない。
「お母さんが一番やで、お母さんを頼むで?お母さんなにも出来ひんからな、お母さん何でも出来るんやで、お母さん…お母さん」お母さんの連発。

「お母さんが一番やでぇ〜」

男親というのは娘よりかわいいものはないと思っていたけど、一生少年だった彼にはお母さんが一番だったらしい。
ガソリンスタンドで働く母に会いたいがためにガソリン減らして通っていた、そのスタンドで声をかけた(ナンパ)
「いい車に乗ってたからな」とデートにのっかった母。

初デートの帰り道も母が運転したらしい、レスキューで夜勤だった父が疲れ果てて寝てしまったら高速を走る母の運転する車は逆方向に爆走していて、慌てて起き上がった話を何度となく聞いた。それはそれは楽しそうに話す父。

亡くなるまで一番だった、そんなことが言われてみたい笑
最期の日は母の手を握りしめて天国に旅立った。
いい迷惑である、こんな素敵な旦那さまを見せつけられたら、わたしの理想は高くなる。
もしかしたら、娘一番の父親像よりも、妻一番の旦那像を見られた方が稀かも知れない、けど幸せな家族かもしれない。少なくとも娘はこの家に生まれて幸せだと言い切れる。お盆には帰って来てね、お母さんが一番やぁ、の名言が聞きたいなぁ。

「お母さんはいちばんやでぇ〜」

自慢気に話す父が誇らしい。私にも真似できますように。
田舎に帰ると「歩き方があいつと一緒や!」とよく言われる。
歩き方だけでも似られたら私はとてもうれしい。
もっともっと似てくるように、わたしはわたしの中のいちばんのお父さんが一番だった母に会いに行く。
そして「お母さんがいちばんやなぁ」と言ってみることにする。モノは試しに。

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