のーと14

読書感想文「コンビニ人間」村田沙耶香


これは「普通になりたい」と思ったことがある人ための本かもしれない。

ってことでこんにちは、てつしです。
「普通になりたいなあ」とか「自分ってズレてるのかなあ」とか思ったことはありますか?
もしあるなら、読んでみる価値はあるかも。

(ここから先はネタバレを含みます。ネタバレが面白さを損なう作品ではないですが念の為。)

芥川賞もとっているし、話題書だから読んだことある人も多いのではと思います。
僕も「あ、これ芥川賞のやつだ」と思って手に取りました。コンビニでバイトしていたこともあるし、なんとなく身近な気がして。

しかし、そんな想像以上にこの小説は突き刺さってきました。

主人公は18歳から18年コンビニエンスストアでのアルバイトを続ける女性。
コンビニ店員でいる時だけは世界の歯車でいられる、と言う彼女の過去が、コンビニでの風景をはさみながら思い出されていくのですが、端的に言えば彼女は少し奇妙な人です。

そんな主人公の特徴は、僕にもその片鱗はあるように感じました。

主人公が持つ人間すら動物にカウントするような外への眼差しや、自我のなさは自分とは重ならないと思いつつも、「治らなくては」と考えて他者から学習しようとする姿勢は「うわー、やったことある!」と思わず頷いてしまいました。
同じ年くらいの”普通の”人の着ている服を真似したり、口調を真似たりして、”普通”の人間になる。

彼女はそれを食べ物を食べて人体の細胞が代謝することと同じように捉え、健康になるために栄養のあるものを食べるように意図的に行っている。

しかし、そうやって普通に振る舞う彼女ですが、地元の同級生たちやその夫から「どうして結婚しないの?」と詰められ、結婚する気がないことで”普通”じゃない扱いされていると感じます。

そんな”普通じゃない”彼女の前に、”普通じゃない”男が現れます。

白羽というその男は、35歳にして婚活を目的にアルバイトを始め、コンビニ店員でありながらコンビニをバカにし、社会はいまだ縄文時代と同じ価値観であると批判する。
結婚せず、稼がずにいると普通じゃない扱いな社会は間違っている!と怒りながら、起業して稼ごうとしたり、婚活しようとしたり、社会の中で普通になろう、適応しようと躍起になっている。
でも起業とか言ってて、普通になりたさもあるけど、普通じゃない(=特別)になろうともしている。
この姿には見覚えがある。
というか、

……これは未来の僕か???

思想的にはそんなに近くないけど、抱える問題は似ている。
「うわー、こうなりたくないけど可能性はあるな」と思わせる人物の登場で、物語は動き出します。

主人公はそんな彼に同意しつつも、生きづらい人だとかなり他人事な印象を持ちます。

しかし、「治らなくては」と考える主人公は、そんな彼に偽装結婚を提案します。
住むところのない無職の彼はなんだかんだと自分が主体で決めたとなるように理由をつけながら了承し(そういうところも僕に似ている)、2人の同居生活が始まるのです。

ところで、偽装結婚といえばドラマの逃げ恥とかを思い出すのですけど、彼女と彼の同居生活はそんなのとは全然違って、噛み合わないままに成立せず進んでいく。全然素敵でも楽しそうでもない生活なんです。

「男性と同居している」と言えば「同棲→結婚するんだ!」と周りが喜ぶ。そこから主人公は普通の人生もマニュアル化されていて、コンビニ店員と同様に、それに従って振る舞えば周りは勝手に理解して納得してくれると見抜く。

そんな中で彼女は人生における大きな選択をするのですが……
まあそれは読んでみてください。


小説の中の彼女は30代だけど、20代の僕とそんなに変わらない人生の迷いの中に立っていて、小説の中の彼女と僕とは違うけど似通っている。

そんな似ている人の選択は、別人の物語でフィクションであるけど、だからこそいいとも僕は思いました。

しかも文章うまい。
冒頭のコンビニの描写は視覚と聴覚をうまく表現しながら、主人公の特性もうまく書かれていて、すげえ!ってなりましたね。

芥川賞っていうと難しくてつまんない、直木賞の方がええわ〜ってなりがちですけど(偏見)これは軽めで楽しかった!

おわり!

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