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二十帖「朝顔」角田光代訳源氏物語(人はいつのまにか歳をとる)


源氏33、紫の上25、朝顔35。
 源氏も、もういい歳である。今の33なら、まだまだアイドルをやれる年齢だが、何しろ平安時代ですから。+10くらいはしときましょう。最早、あちこち恋にうつつを抜かす年齢ではない。
 若い頃、落ちなかった女のひとりに朝顔がいる。六条の御息所のご様子に、身を許せば同じことになる、とばかりに源氏の誘いを拒み続けた。そうこうするうちに賀茂の斎宮になることとなり、関係は一時切れる。
 したところ、桐壺院の逝去にともなって、斎宮の交代となり里に帰ったのである。父の式部卿宮は、藤壺女御、太政大臣(元の左大臣)の逝去に前後して亡くなっている。昔の経緯もあり、源氏は朝顔の屋敷に行き、本懐を遂げたいと思う。
 しかし、朝顔は靡かない。典侍(おばば様)がなぜかそこにお仕えしてて、あら、源氏様あたしでいかが、とか出張ってるくるのが可笑しい。
 朝顔にご執心の源氏が、紫は面白くない。そりゃ、面白くない。が、後ろ盾がいないから、源氏を叱ってくれる人がいない。病むよね。
 源氏は花散里とか尚侍とか藤壺の思い出とか、明石の御方とか、いろいろ話して、でも要はお前が一番だよと、紫に言って機嫌をとろうとするが、なかなかうまくいかない。あまり書かれなかったが、亡くなった葵上も、おんなじような思いであっだろうなあ、と思う。

 朝顔は靡かない。ひたすらに勤行を続ける。

 人はどの辺で、若さというものと決別できるのだろう。若い若いと思いながらも、いつかは、どこかで、もう若くはないと自覚する時がくる。ずっと自覚できないと、若作りとか、陰で悪口言われたりする。若々しいと若作りは違うのである。
 もう若くないと思った女性は、どこでそれに気づくのか。私は男でよくわからないけれど、濃い口紅を引くのをやめたときか。いつの間にか化粧が濃くなってるのに気づいたときか。
 男はどうだろう。男の方が、そのへん、もしかしたら鈍感なのかもしれない。若い時、イケメンでならした男ほど、うまく歳が取れないようにも思う。ハゲるとか腹出るとか、目に見える身体的特徴が顕著にならない限り。いや、そうなっても、若さを諦めきれない一定の男はいるだろう。

源氏も頭ではわかっている。が、なかなか現実として、老いを受け入れることができないように思う。恋の仕方が若い時と同じである。
 年取って恋をするのは見苦しい、というわけではない。年取っていることを自覚した男ならいい。渋い。カッコいい。大人の恋ができる。女も一緒である。
 だが、ここで源氏は大人の恋をしてない。いつになったら……、紫の上が思い悩むのも当然である。

 あ! あなた、今、昔のジャニーズの、あの人を思い浮かべましたね!
 いや、歳をとるのは難しいね、ほんと。

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