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萬御悩解決致〼 第一話⑩

次の日、野球部見学のギャラリーは少し増えている。うちのクラスだけでなく、他のクラスや上級生もチラホラ見える。男もいる。
「今日は打撃練習までいてくんねえかなぁ。最近、俺調子いいんだよね」
 今日も、柴田先輩はご機嫌である。 
 自然、目がライト奥の見学者に向く。今、その後ろを相良たちが帰っていく。

昨日はあの後、相良たちの話になった。
「そう言えば、相良って帰宅部だよね」
「あんなワガママで、すぐふざけるヤツ、どの部でもいらねえよ」
「一年の時はバドミントン部にいたけど、脱落したみたい。取り巻きの連中も、皆同じようなもんね。やることがないんで、しょっちゅうつるんでる」
「生産性のない集団だから、真面目に頑張ることを馬鹿にしたり、貶めたりすることしかできない。それで自分たちが高みに立っていると思ってんだからオメデタイ」
「ほんとは誰からも相手にされてないだけなのにな」
「哀れよね。みんなモメるのが嫌だから取り合わないだけなのに」

ふと、相良の取り巻きの一人が立ち止まる。こっちを見ている。歩いている相良たちとの距離が開く。気づいたもう一人も立ち止まる。そいつも、こっちを見ている。随分離れたところで、相良が二人に気づいて何か言う。二人は駆けて、相良に追いつくが、その間もしきりとこっちを見た。
「あの二人、野球やりたいんだぜ」柴田先輩が言う。
「先輩、知ってるんですか」
「伊東と佐藤。少年野球で一緒だった。うまかったんだけどな、あいつら。中学来て、絶対野球部に入ると思ってたんだけど、なんかバドミントン部に入って、すぐ辞めちまった。もったいねぇよな」
「こら、そこ! 喋ってんじゃねえぞ!」
やば。大熊先輩に見つかった。
「すいやせーん!」
と大声で謝って、俺はボールを投げた。

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