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萬御悩解決致〼 第一話11

 6時半。部活が終わって、ユニフォームのまま校門を出ると、お疲れ、と声をかけられた。
 校門の陰から奈央がピョコンと出てくる。
「なな、奈央ちゃん。どした?」
「待ってた」
鈴の鳴るよな声。
そうかそうか。早速お付き合いが始まるのか。いや、悪いな。二時間半も待たせて。愛の力って、やっぱスゲェんだな。
「練習ある日は、先に帰っていいよ。悪いからさ」
「ん〜。でも、話したかったしさ」
と、視線を落とし、両手を後ろで組んで、石を蹴るよな真似。なんと、可愛い。なんと、いじらしい。
罪な男なんだな、俺は。
「気にするな。二時間半くらい。マックにいて話してたらすぐたった」
 えっ? 誰? 誰の声? 校門の陰から圭介が登場する。
見た瞬間、血が逆流する。
「お前ら、一緒にいたの? んで、またマック行ったの? マックしか行くとこないの? ちゃんと自分で金出した? 奢りっこしてない?」
激しい嫉妬心で、最早何を言っているのかわからない。
「してないよ、ねー」
「ねー」のところで顔を見合わせて声も合わせる。
なんだ、それ! 不愉快だ。部活でクタクタなのに、ものすごく不愉快だ。
 あんま不愉快なんで、校門に二人を残して、スタスタ歩く。
「ああ、待って!」と奈央。
「待ってやったのに、その態度は違うよね」と小太り。
 知るか!

結局、三人で公園で話す。
「そんな一日に二度もマック行けないよね」
「金もない」
で、公園かよ。まったく。奈央が俺と付き合う話はどこ行ったんだ。これじゃ、圭介と付き合うってるようなもんじゃねえか。待てよ、小太りの狙いは、そこか。
「じゃ、成果の報告しまあす」奈央、乗り気だな。「まず、女子はすごく怒ってた」
「え。バラしちゃったの?」
嫌な汗がでる。
「大丈夫大丈夫。言ったのは悠のことじゃなくて、相良が楓にやった酷いこと」
「ああ」ほっとする。
「楓も了解済み。女子は一致団結」
「これで楓も単なる被害者から悪を懲らしめる正義の側に立つことができたな。それに自らカミングアウトしたことで、いつバレてしまうかという恐怖もなくなった」
圭介は満足げだ。
 改めて状況を確認する。公園にブランコが二つあって、圭介と奈央が並んで座っている。前に太いパイプで柵がある。そこに俺が腰を預けて半ば立っている。またしても奈央の隣に圭介。それに、一番疲れている俺が、なぜか半ば立っている。おかしい。
「初めっから、そうすればよかったじゃねえのーー」
俺は立ち上がって、圭介の前に行く。
「ーーまどろっこしいことしないで、初めから事情話して、女子軍団に、相良をとっちめてもらえばよかったんじゃね」
「悠とのことがなかったら、女子軍団はあんな真剣に怒らなかったと思う」と奈央。
「"好き"に踊らされた点じゃ一緒だからね。問題理解の深さが違う。だから怒りの大きさも違う。同情の度合いが違う」と、わけ知り顔の圭介。
「あ、そ」
俺は、圭介の膝の上に座る。
「な、なにしてる。重い よ。ズボン、汚れる。お前、泥だらけだって」
 格闘の末、圭介を追い出し、片方のブランコをゲットする。
「なにやってんだか、子供ねえ」
奈央が笑う。仕方なく圭介は、さっきの俺の位置に移動する。
「じゃ、奈央ちゃん、続きをどうぞ」勝を収めた俺が促す。
「明日っから、こっちも行動開始よ」
「そうか。頑張ってね」
俺が言うと、すかさず圭介が、おまえもな、と被せてくる。
「俺は、やったろ」
「まだ作戦継続中! 他のクラスの女子もどんどん誘って」と奈央。
「俺には部活がーー」
「放課後までフリーでしょ」
「僕は知っている。明日の校庭使用はサッカー部。野球部はお休み。だよね」
静かに圭介が追い詰めにくる。
「その前に」奈央が言う。「今日は各自宿題があるの。ご飯食べてお風呂入ったら、早速取りかかりましょう」
「ええっ? 俺、部活で疲れてんのにー!」
「なんてことないなんてことない。今はPCあるんだから、すぐできちゃうよ。A3ね。紙なかったら、データーで私に送って」

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