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抱擁 日野啓三

1982年。時代は新しい幻想作家を求めていた。と思う。その時、日野啓三が「抱擁」を発表した。古い洋館。そこに住む美少女。その迷宮に迷い込む男。なんというベタな題材。私小説で芥川賞をとった作家、日野啓三はここから更に変身して疾走を始める。なんか作風がファンタジー近未来SFっぽくなる。夢の島。オートバイ。剥き出しになる月。目眩。林立するビル群。砂丘。そして廃墟。日野啓三は文学賞を取りまくる。芥川賞の選考委員にまでなっちゃう。こういう世界観、文壇的には新しかったんやね。偉い作家の先生方、見たことなかったんやろうね。でも、SF小説アニメとか映画とかで、もうなんか見た景色ではあった。サブカルを文学が追いかけている感じが正直した。少なくともカルチャーとサブカルチャーが並んだ感じがした。文化としての文学の特権性は失われた。大友克洋の「童夢」は1980年連載開始、映画「ブレードランナー」は82年の上映であったのだよ。

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