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2020年度ようやく対面でゼミができました:2020女子商マルシェ第1回講義録

Facebookによると,今日は創業体験プログラムを始めるために村口和孝さんに大学へ来て頂いて,学生に色々とお話頂いた日だったそうです。もう8年が経ちました。早いものです。

新学期が始まって3ヶ月。まもなく前期講義が終わろうとしています。依然として遠隔講義が続いています。果たして後期はどうなるのでしょうか。

そのような中、学部からの許可を得て、2020年度に入って始めての対面でのゼミを行いました。

2月末の補講あるいは台湾合宿以来、ゼミ7-8期(3-4年)生が勢揃い。場所は大学ではなく、昨年から実施している福岡女子商業高校(通称:女子商)。11月に実施する女子商マルシェを題材にした授業を行うため。

今回は講義に至るまでの経緯と講義の様子をレポートします。

対面での授業を行えるようになるまで

ここまでに来るのに2ヶ月近く高校側と交渉してきました。

大学は4月24日からオンライン講義が決まっていましたが,4月当初の高校は多少混乱していた模様。少しでも高校生の学びを止めないようにと,数回高校を訪問し,オンライン講義のコンテンツ作りのアドバイスをすることもありました。緊急事態宣言が解除されたGW明けからは,COVID-19の影響を考慮しながら授業が再開され、マスク着用、教室入室時にはアルコール消毒を行っています。

この高校では全員がChrome Bookを持っているので、比較的早くからGoogle Classroomを活用した授業が行われています。授業だけでなく,6月頭に実施した生徒総会では,生徒会は体育館で議事を進行し、生徒は教室でChrome Bookを見て出席するという取り組みが行われました。また、毎朝の健康調査も学校再開からGoogleドライブを活用し、スプレッドシートで簡単に調査ができる体制が整えられるように。

画像は授業当日のものですが,こんな感じで1人1台のPCを持っているのがこの高校の強み。

一方で,大学からは6月中旬になっても依然として外部での活動が認められていなかったため,今年度もマルシェの授業は当座のところオンラインで実施しなければならないだろうなと覚悟を決めていました。

そうしているうちに,6月の教授会で対外的な活動に対する学部の方針が示され,企業や学校など外部の関係者と進めているプロジェクトについて安全対策を行った上で対面で打ち合わせを行うことができるようになりました。ただ,30名近い学生が高校で講義を行うことにはさまざまなリスクがあるわけで,実施することについては最後の最後まで悩んでいました。

講義計画と準備

昨年は初年度ということもあり,まずは定型的な経営学の講義を行うことにしました。経営理念,戦略と計画,損益分岐点分析,マーケティング戦略,そしてふりかえり。ゼミで行っている創業体験プログラムの流れと基本的には同じ。詳細はこちらのリンクもご覧ください。

今年度は,アントレプレナーシップ×コレクティブ・ジーニアスをテーマとするよと学生には伝え,それに向けて3月から準備を進めてきました。そして,講義予定は次のように組んでました。

第1回 アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスとは何か?(ソフトバンク孫正義氏に学ぶ)
第2回 地元企業に学ぶアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス(地元企業経営者の講演会)
第3回 経営理念の設定と経営戦略・経営計画の理解
第4回 マーケティング戦略
11/21-22 女子商マルシェ当日
第5回 ふりかえり

ところが,今回はCOVID-19の影響もあり,第1回授業は中止。第1回と第2回を統合するような形で授業を設計し直し,地元経営者の講演を中止にして,VTRを撮影することにしました。

また,高校側からは反転授業をして欲しいというオーダーを頂くことになったため,授業当日までに準備をしてというのではなく,事前にそれなりの作り込みをしてからの授業ということに。まだ見ぬ高校生にどんな授業を届けるか。限られた時間の中での試行錯誤を行うことになりました。

そんなこんなで学部からも許可を頂いたことで,2020年度の専門ゼミナールは7月17日にしてようやく対面で行うことができるようになりました。

マスク着用,3密を避ける,消毒は当然。見えていませんが、全ての窓が全開。高校が定めたルールを遵守して授業が進められました。ほとんどの学生とは久しぶりに会うので感慨深く。

事前予習動画と1コマ目の講義内容

授業の事前動画はアントレプレナーシップ(企業家精神)とコレクティブ・ジーニアス(集合的天才)の意味を高校生でも理解できる内容に。

ゼミ内でも伝えているように,アントレプレナーシップの定義は,HBSのそれに従い,コントロール可能な資源を超越して機会を追求することとしています。また,コレクティブ・ジーニアスは一人の天才に頼るのではなく、組織やチームで新しいアイデアを生み出すという考え方で,リンダ・ヒルがTEDで紹介している考え方ですね。

こうした考え方をどのようにして伝えるかを試行錯誤した大学生たちは次のような動画を作成しました。15分弱の少し長めの動画ですが,ぜひご覧ください。

アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスをワンピースや孫正義氏の起業・事業の発展から学ぼうという内容の動画

講義に際しては,この動画を事前予習課題として高校生に配布し,所定のワークシートを作成して理解を深めてもらうことにしました。ワークシートはこのようなものでした。

高校生が記入したワークシート

このように高校の普段の授業で慣れているであろう穴埋めを中心に知識としての定着を行うとともに,2-3年生は昨年度のマルシェや部活動等を通じてリーダーシップとコレクティブ・ジーニアスを実感できるシーンをふりかえって言語化するという内容にしました。

私自身も今年のオンライン講義では,コンテンツ整備と合わせて,繰り返し見られるようにすることで学生が自習し,理解を深められる環境を作ろうとYoutubeに動画をアップしています。大学生からも対面授業よりも良いのではないかという声も聞こえてきます。同様に高校生も不明な点を繰り返し確認できたようで,期末考査直後の厳しい日程であったにも関わらず,ほとんどの生徒が当日までに穴埋めをしてきてくれました。

グループワークもなんとかできました。

高校生によるGWの報告

1コマ目はこれをもとに理解を深めていく授業が各学年ともに円滑に進められ,順調なスタートを切ることができました…。

2コマ目:地元企業経営者へのインタビュー

続いて2コマ目は,地元経営者による講演に代えて,事前に撮影した動画を高校生に視聴してもらいました。そして,その要点をまとめるワークと,それに基づいてアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスが大企業でも,地元の中小企業でも発揮されることで経営が成り立っていることを学んでもらうことをテーマとしたディスカッションを行いました。

今回ご登場頂いた経営者は,那珂川で100年醤油醸造を行っているマルサン醤油醸造元の勝野光代社長。飛田ゼミなんでも取材班でもまとめてくれましたのでご一読ください。

また,これのもとになった動画はこちらからどうぞ。

さて,ここまで順調だったものが,ここからが苦戦。動画(特に音声)がうまく動かないことばかりか,高校生にとって動画を見ながらメモをまとめるという行為が非常に難易度が高いということが明らかに。話を聞きながらメモを取るという習慣がないからであろう。3年生は多くができているけど,2年生は3分の1程度,1年生では数えるほどだったよう。今回の授業設計で想定通りに進まなかったのはここ。

今回の講義では経営者の講演に関するワークシートも3学年統一で同じフォーマットにしていました。具体的には下記のようなシートです。

確かに1枚目が空白では何を書けば良いのかわからないだろうなぁと。しかも,生徒間の関係性が構築されている2-3年生(今回対象としているクラスはいわゆる進学クラスでクラス替えは行われない)とは異なり,5月末まで登校もできなかった1年生はまだ生徒間の人間関係も十分に構築されていない状態。グループワークを進めるにも,生徒同士で(悪い意味ではなく)牽制し合っている印象もあるし,大学生もどのように介入したら良いのか悩んでいたようです。

ただ,各クラスを見回りをされていた校長先生が耳元でボソッと興味深いことをお話くださいました。

やはり学年ごとに差がありますね。3年生は担当教員が推薦入試等に向けて作文演習を繰り返してて,考える基盤ができ始めてる。2年生はまだまだだけど,成績上位者はちゃんとメモしながら動画を見ることができている。1年生にはちょっと難しいですね。

確かにそうでした。ただ,ここは実験的にやってみた部分もあって,事前に「やってみて気づいて,問題があれば次回でしっかり修正」と学生には伝えていました。今回の授業では2年生に標準的な内容を作ろうとして,3年生にはこれまでの経験に基づいた復習要素強め,1年生には言葉の意味はよくわからなくても,なんとなく大事な概念らしいと気づいてもらうことを狙いとしていたのだけど,実際にはもう少し高めの講義内容になってしまったようです。

が,大学生が用意する授業が高校のそれと同じでは良くないわけで,大学生がどのようにして学んでいるのかを高校生に分かるように伝えていくことこそが重要。そういう意味で今回のこのトライは非常に良かったと私は感じています。

ふりかえり

授業終了後は教室に戻ってふりかえり。各学年で今回の授業での到達目標と及第点(ルーブリック的なもの)を設定し,それをもとにふりかえりを実施しました。

学生が作成した事前講義計画(タイムテーブル)と到達点・及第点の設定

こういう時にふりかえりをすると,具体的な問題点にフォーカスし過ぎるところが気になっているのですが,今回は昨年経験した4年生を中心に授業を進めながらの修正,3年生のサポートもあって,より本質的な課題を議論できていたようです。それも事前に到達点や及第点を設定していたこともあるのでしょう。去年の知識がうまく適用できていることを感じました。

しかし,気になるのは,解答が記入されたワークシートを高校生の前で堂々と見えるようにしながら(見せはしていない),授業を進めていたこと。これは昨年度にも伝えていたことではあるが,今年も改善されていませんでした。

確かに,人に何かを教えるのに自分の理解があやふやだとしたら自信がないだろう。私のように教壇に立つ仕事をしていればよくわかります。しかし,それで良いのか。これはかなり強めに指摘しました。学生はその様子を次のようにnoteにまとめてくれました。

この学生は私の指摘を(過剰なほどまでに)受けて止めてくれましたが,私自身はこの状況の中でよく頑張ったよな,オンラインで2回打ち合わせして,授業開始30分前に打ち合わせして,2コマ100分の授業を何事もなかったように進めたんだから上出来と思っていました。彼らにもそのように言葉をかけたのですが,ここまでできたのだからこその要求でしたね。

私の話が(いつもどおり)長すぎた結果,16:30にふりかえりは終了。久しぶりの対面でのゼミはこのようにして終わっていきました。

私自身のふりかえり

最後に私自身のふりかえりを。特に,この状況下で対面,しかも高校に乗り込んでいってのゼミを行ったことについて。これについてはさまざまな批判,ご意見がある方もいらっしゃるだろうなと思うので,自分自身の見解を述べられる範囲で述べておきます。

今回の授業を行うために高校側とは何度も折衝を進めてきました。日々状況が変化していく中で,どのように授業を実施するか。

その際校長には次のようなことをおっしゃって頂きました。このような状況であっても商売を続けるのが商人であり,できることを考えて実行に移すことが大事だと。彼女たちの身の安全を守ることはもちろんだけれども,商業とは何かを教える高校において日々どう教育していくかを考えていかねばならないのだと。校長ご自身は体育科の教員でおられますが,校長として赴任後,どう高校を存続させるか,そのために生徒に何ができるかを考え抜かれておられます。校長ご自身がアントレプレナーシップを持ち合わせていらっしゃる。

そうした中で,大学生はすでに普通にアルバイトを行い,社会との関わりを持ちながら生活を継続している。誰がCOVID-19のキャリアかは正直わからない。当然中にはいわゆる夜の街関連でアルバイトをしている学生もいるでしょう。そうしたリスクも踏まえた上での意思決定でした。

決して大丈夫だろう,なんとかなるという判断ではありません。死者,重傷者の推移,社会活動がどのように行われているのかを踏まえた上での判断でした。結果,現在大学構内に学生が入構できない状態であるにも関わらず学生を集める,でき得る範囲内で安全に留意しながらゼミを実施する,大学や学部から示されている方針に従って実施することにしました。

もちろん,このあと学生や高校生に発症者が出てしまったときのことを考えると,不安になることもあります。が,やって良かった,久しぶりに対面で会うことによってオンラインでできること,オフラインだから(より良く)できることが確認できた,これであればどういう手を打つことができるかを考える材料を頂けました。

授業そのものについては,学生,特にリーダー役の4名の学生が準備を丹念に行ったことで,非常に質の高いものができたように感じます。学年ごとのレベル設定については課題があるものの,昨年とは違うチャレンジ=各学年一律で同じ授業をするのではなく,学年ごとにグラデーションをつけるという狙いがあることから踏まえると,今回の授業でちゃんと差が出たことは収穫。次回以降の授業を進める上で,進度(スピード)と深度(レベル設定)の設定についてのヒントがたくさん得られました。

次回は10/2(金)の実施。このときがどうなっているか。ZOOMを介したオンラインなのか,今回同様のオフラインなのか。このような状況の中で,どのような手段・方法を取れば生徒にとって最も良い教育が提供できるか。

学生はこの状況に適応しながら,間違いなくパワーアップできている。これも起業家教育,会計教育の1つのあり方として学会報告してもいいですよね(笑)。この試行錯誤をしながら授業を創ることができるという貴重な経験ができていることに大いに感謝しております。

というわけで,長くなり過ぎたので,これくらいで終わりにします。お読み頂いて,ありがとうございます。また駄文を書き連ねます。

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