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オンライン・オンデマンド講義の資料作り

ここのところの多くの大学教員の話題といえば,オンラインでどうやって講義をするか。

サイバー大学のように開学当初からオンラインで講義するノウハウがあるわけでもなし,放送大学のようにテレビ,ラジオ,スクーリングを組み合わせるでもなく,通信制大学のように講義資料とスクーリングを組み合わせるわけでもなく,これまで対面式・オフライン・同期型で講義を進めてきた(そこに価値があった)大学において,今起きていることはコペルニクス的転回とは言い過ぎかもしれないが,それくらいの印象。

Facebookでは「新型コロナ休講で、大学教員は何をすべきかについて知恵と情報を共有するグループ」という1.5万人くらい参加しているグループができたりしてるんだけど,最初は自己紹介ばかりで肝心な情報が流れて来ないし,始まったと思ったらそれぞれがそれぞれのTipsを共有する場になって,ついにはこの機に乗じた人たちが商売を始めようとする始末で,混乱しまくっている。タイムラインに載せてはいるけど,ほとんど見てない。多くの人がそうなってるんだろう。

みんな不安ですよね。

先の投稿でも記したように,本学ではWebexと学内のポータルサイトを活用したオンライン,オンデマンド,課題研究の3パターンが示されているんだけど,昨日の教授会の話を聞くと楽観的に考えられそうな部分と,どうなんだろうという疑問が残る感じ。講義が始まる24日以降にならないとわからない部分が多い。仕方ない。

粛々と進めましょう。

で,今回はこのときに自分がどうしたのかを振り返るメモとして,講義準備をどう進めているかを記録しておきたい。

講義の特徴

私が担当しているのは経営分析論という会計学系の科目。会計学系だと簿記と会計学(財務会計/管理会計)が主役になる。その意味では,私の科目はちょっと異質。

簿記は仕訳から元帳,試算表,精算表を作成する文法を学ぶことになるので,計算問題演習が必須。会計学(財務会計/管理会計)は明確な理論があってそれへの理解が必須。時に計算問題が入るので,これまて演習問題が必須になる。

財務会計で言えば,公表される財務諸表は再現性を持って作られなければならないから,同じ基準を用いている限り100人いたら100人同じ数字になるはず。その文法を学習するのが簿記や会計学の科目の特徴だ。

よって,まず理論への理解,そして計算問題演習となるので,解説と演習を双方講義の中で組み合わせることが必要になる。どうしても学生自身に問題を繰り返し解いてもらって,定着を図る過程が出てくる。

これに対して,経営分析論では,すでに作られた財務諸表と当該企業の経営戦略を(ちょっとした)フレームワークと公表されているIR情報等を用いて分析することが目的になる。

資料を読み,財務諸表を読み,必要であれば指標を計算して,分析する。

同様に計算問題を解いてもらうことになるのだが,その数字の意味を資料を突き合わせて考えてもらうという過程が入ることになる。しかも,それを説明する=文章で書く。計算だけでも面倒,さらに文章まで書くなんて無理。講義する方も苦労しているのだが,学生はもっと苦労しているだろう。

先日,ゼミOGと話す機会があって,彼女がポロッと「先生の講義は早かったから,その時はさっぱりわからんかった」と言われた。それはそうだ。今の大学に赴任して今年で9年目。当初は講義時間の80%でも行けば良かった話の内容も,年々膨らんで今は講義時間の150%くらいのネタをわたーっと話している感じになる。だから,毎年講義時間が足りなかったりする(笑)。

そこで来たオンライン・オンデマンド化の流れ。

実は,昨年講義ダイジェストを作成するために動画を作ろうとしていたのだが,諸々あって挫折した。加えて,電車が事故で止まって受講生が少なかった時に急遽講義をそのまま録画してYoutubeにアップしたことがあったがほとんど誰も観ていなかったという経験がある。こういう苦い経験もあったので,どうするかを悩んだ。

けど,基本はこれまで通りの講義=90分の講義で理論・知識を講義し,復習(自習)にボリュームを置くことにした。

これは学生にとって相当負担だろうが,科目の特質上ある程度仕方がない部分がある。計算式を覚え,意味を理解し,計算して答えがあっているか確認する。その推移を見て,その企業の経営がどのようなものなのかを知るという科目なのだから,演習要素が多くなるのは致し方ない。90分で完結するような講義ではないのだから。

そこで,講義レジュメ,スライドは一部改変(データ修正,アニメーションの極力排除,板書していた内容をスライド化)して,70分程度の講義ビデオを作成し,それをアップロードして観てもらうことにした。また,前回も書いたように,画面上でレジュメを観なければならない場合に音声だけでも聞けるようにと音声版も用意した。

今回は講義資料をどう用意したかをまとめた。いや,まとめってほどでもないか。

どうやって講義資料を作成したか

動画版
かつて動画講義を作ろうと思ったら大掛かりな装置が必要だったが,ブサイクな私の顔を晒す必要もないのでスライドと音声が淡々と流れるものにした。この動画を作成するのはそんなに難しくない。

ZOOMの共有機能とレコーディング機能を活用するだけで作成できる。

このとき自分の映像はいらないのでカメラはオフにしておき,マイクだけをオンにしておく。レコーディング開始ボタンを押したら,あとはひたすら話すだけ。

このとき,きれいな言葉で,話がつまらず,外の雑音が入らないようにと気を配られている先生もおられるが,私は一切気にせず,話し続けることにしている。

この緊急事態なのだから,多少の生活音が入るのは仕方ないと割り切る。だから,私の講義ビデオにはカッコウ時計が定時で「カッコウ」となく声が入っているし,妻氏が宅配便の受け取りで「は〜い!」と玄関口に行く声も入ってる。それもまた味。Done is better than perfectである。

なお,講義は90分聞き続けるのもしんどいので,前半と後半に分けている。それぞれ30-35分,長くても50分程度。

なお,気になるファイルの大きさは,40分程度の動画で40-50MBくらいだろうか。内容によっても変わるだろうが,思ったほど大きくはない。

この動画をテスト版として学生に観てもらったところ,大変好評だった。ま,面白みは無いんだろうけれども,通常の講義と違ってわからないところを戻ったり,再度確認できたりすることが大きいようだ。さらに,彼らは資格試験や受験勉強ですでにオンデマンド配信の動画で学ぶことに抵抗感がない。さすがデジタル・ネイティブ。この話を聞いただけで,いかに私たち教員側が講義とはこうでなければならないという(私たちだけに通じる)常識というものに囚われていたのかがわかる。

音声版
次に音声版。これも申し訳ないのだけれども,動画版をそのまま音声ファイルに置き換えただけである。これもPCソフトを使って変換すると大きなファイルになりかねないので,簡単に変換する方法がないかを探していたところ,こういうサービスを見つけた。

Online Audio Converterだ。詳細はリンクを見て頂くとして,インターフェイスも簡単で,音声ファイルの変換もいくつかのファイル形式にできる。65MBほどの動画ファイルを変換したら50MBになったので,だいたい80%くらいは軽くなるイメージか。

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これを前回の投稿でも記したように,noteの下書きを活用した「限定公開リンク」を学内のポータルサイトで共有することで,学生は音声だけで受講できる態勢を整えた(つもり)。

今回のチャレンジは講義の非同期化をさらに進めることかも

今後どうなるかもわからないし,オンライン化がますます進むのかもしれない。ただ,そもそも講義の場は同期,演習部分は学生の自習に委ねる非同期と割り切っていたのもあったので,今回のこの事態になってこれをますます進める方向に舵を切ったのだろうなと感じている。

90分の講義時間はインプットの時間。考えながら話を聞き,時に演習問題をやりながら理解を深める。もっとうまく講義ができれば良いのだが,100人-200人相手にやるには私の講義は手数が多い。理論部分を話すだけでなく,財務諸表を見るポイントまで話をしている。

例えば,減価償却を1つとっても,簿記や会計学では定率法や定額法といった手続きを説明し,仕訳が正しくできることを理解してもらう,あるいは理論的な意味を理解してもらうでOK。

が,経営分析論ではそれがどのように財務諸表に表れるかを確認してもらう。そのために,復習として手続きの説明をし,財務諸表上のどこにそれが表れるかを説明する。同じ資産を使っているのに計算方法が異なるだけで利益が変わる,税金が変わる。直接法であれば有形固定資産の総額表示が変わる。さらに,減価償却は非現金支出費用だから,キャッシュフローの改善にもつながる。

単に比率計算を教えているだけではないのですね。

講義時間で足りないことは,自習してもらう。成績評価は定期試験だけ。学生には厳しいだろうけど。

ゼミの場合,90分または180分の教室に集まる時間は同期,それ以外のプロジェクトの打ち合わせ,企業訪問,フィールドワークは彼らの時間,タイミングに応じた非同期だ。こちらから手を出すことは基本的にはない。ご協力頂いている関係機関との調整でレベル感を整えなければならない時に手を出すくらいだ(だから,うまくいくものもあれば,失敗するものもあって,彼ら自身の結果として成果が出てくるのだから,企業さんにもあくまでも学生の自主性に委ねてくださいとお願いしている)。

これがオンラインになれば,ますますこのやり方が進んでいくだけだ。1つだけ今年変えたのは,(ようやく)進捗管理を導入したこと。Trelloを使ったプロジェクト・マネジメントだ。

まあ,楽。Facebookのグループ機能をこれまで使ってきたが,即時性が高いのはこちら。よくできている。無料だと多少の機能制限があるけれども,ゼミくらいのプロジェクト数なら全く問題ない。

以上,ダラダラと書いてきたが,教育者としての自分はどんどん楽をする方向に行こうとしているのだなという気がしている。確かに,学生の動機づけを高めるような講義をすることができれば良いし,自分自身が管理会計を通じた組織成員への動機づけを高めるにはどうすれば良いのかを研究で考えていることを踏まえれば,もっと学生に面倒見の良い,面白い講義をすれば良い。学生でもわかるような簡単な講義をすれば良い。そのための努力を怠るのは怠慢だと言われることもあるでしょう。

ただ,これまで3つの大学で教えてきましたが,最後は彼ら自身が本当に学びたいと思っているかどうかわからないということをわかるということの大切さに向き合えるかどうかなんだろうなと。だから,これは放置ではないと思っているのです。

質問の機会を閉じているわけでもないし,オンラインでもオフラインでも質問には真摯に答えます。ま,質問したいと思わせるような講義をしていないと言えばそうかもしれません。だから,これを機会に動画や音声で講義をいつでもどこでも聞けるようにするという取り組みをしているのです。

ここ数年感じていたことですが,私はインターネットやSNS時代には向いていないのだなということをつくづく感じます。学べば学ぶほど。アナログ人間。

だから学生にはこれからさらに進むであろう社会の進化に適応して欲しいな。そのために私も必死になって勉強していきます。今回のこのやり方がベストだと思っていません。来年,再来年とオンライン化,コンテンツ化が進む中で,大学教員の重要な仕事の1つである教育を通じて何ができるか,もっと考えていくことにします。

最後は身体化。これまでフィジカルで面と面に向かってできたことができなくなっていく時代。単純に都心→地方と人は流れないだろうし,流れたとしてもそこで生活することは難しい。旅行やテーマパーク,飲食業などの第3次産業はしばらく苦境を迎えるかもしれない。そうした中で,社会がどう変化していくか,何を伝えていけばよいのかをもっと深めていきたいですね。

あくまでもツールなのだから,ツールに左右されないように。これからケースがたくさん積み上がるので,やがて「これだ!」という方法が出てくるでしょうね。社会はこうやって進化していくんだ。うん。

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