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街の企業と高校生を結びつける:キャリア教育のその先を目指して

今日(2/19)は福岡県那珂川市にある福岡女子商業高校と同市内にある2つの事業所を訪問した。

既報のとおり、本年度からゼミとして福岡女子商業高校にはご縁を頂いており、11月末に開催される女子商マルシェに向けて女子高生向けにビジネス教育を行うという取り組みを行っている。

これまでの経緯は以下のマガジンをご参照あれ。

そのご縁もあり、ゼミ3年生が1年かけて取り組む「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」の1つである「いじめプロジェクト」にご協力を頂いている。

今日高校へ伺ったのはそのプロジェクトに関するシステム運用についてのフォローアップ調査、事業所へ伺ったのは来年度の講義に向けたお願いをするためだった。

利用開始から1週間経過して:顕在化した課題

現在、「いじめプロジェクト」は高校のご協力を得て、スマイルスコア株式会社が提供しているサービスを女子高生の日々の健康調査に使用している。

スマイルスコアのサービスの詳細については下記を参照されたい。

これがなぜいじめプロジェクトとつながるのかと疑問を持たれるだろう。

これはインタビューやさまざまな調査を行う中で、生徒が教員にSOSを発する仕組みを作ることの難しさに突き当たったことに端を発する。生徒は教員を見て自らのことを伝えられるか否かを見ているし、教員も1人で何十人という生徒を見ているから、全部が全部伝わるわけではない。 生徒から教員にメッセージを発しやすい環境を作ることで、生徒の何気ない変化を捉えていこうというアイデアである。もちろんこれがいじめ減少につながるのかはわからない。

そこで先週から同校の1年生全員に対してスマイルスコアのサービスを利用できるようにIDを発行し、朝のHR時にその時の心理状況を5段階評価で入力し、悪い場合にはその原因を3つの選択肢(体調、家庭、学校(友人関係や学業))から選択するというものだ。

これが実現可能なのも、同校では生徒全員がChromeBookを持っていて、日頃から授業で使用するからだ。

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先週行った説明会の様子。同校では全員にChromeBookが配布されている。

それから1週間、今日はこの事業の学校側担当をしてくださっている養護教諭の先生(24歳!)にお話を伺った。

まず、つまづいたのはIDとパスワードの設定と入力。同校では1人ずつメールアドレスが振られているが、これが長い。なのでタイプミスが起きる。GMailで通知が来るが、毎朝入力しない(習慣化しない)生徒が出てくる。メッセージ機能を使ってメッセージを送ってくれるのは嬉しいが、対応には限界がある。と生徒のリテラシーが課題として挙げられた。

次にアナログな業務との接続。出席情報は紙ベースで捕捉されており、誰が出席していて欠席しているかは担任からの情報を待たなければならない。逆に入力されたスコアや生徒の状況をシェアするにも、やはり口頭で伝えるなどしなければならない。学校運営をより効率化する仕組みをどう作っていくかが課題として出てきた。

ただし、システムを使うことで、それまで感覚的に把握していた、あるいは一部の特定の生徒が絡んできた状況から、データと感覚を結びつけて把握ができ、保健室に来づらい生徒がメッセージから相談があるといったような変化があるとのコメントも頂いた。

入口を生徒との利害関係が小さく、コミュニケーションがとりやすい養護教諭とすることで生まれた利点だろう。情報が集中し過ぎることに対して学校としてどう対応していくかは課題としてあるものの,総じてシステムの活用については好意的。一部改善要望があったがそれはサービスを改善するものになりそうで、非常に良いディスカッションができた。

次回は合宿終了後の3月頭に。それまでにどうなっているのか、楽しみである。

地域で活動する事業家を訪ねて

インタビュー終了後、同行した学生と昼食。那珂川の有名店、青空食堂でサガリ定食(大盛)を食した。うまい。

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まいどおなじみ。那珂川と言えば。

昼食後、那珂川市内で事業を営まれている中堅事業家であるお2人を順に訪ねた。その目的は来年度の女子商マルシェに向けた講義をパワーアップするためだ。

このプログラムの基本的な授業設計(大テーマと各回のテーマ)は私が提供するが、各回の進め方、中身は学生だけで決めていく。自分たちの経験に基づいて授業を設計しながら、実際に試して2コマの間の休憩時間で修正し、また授業を進める。そして終わってからふりかえりをして、次回に向けた準備を行うというのが流れだ。

今年は初めてということもあり,11月末までの期間を3回に分け,①経営理念の設定,②経営戦略の策定と損益分岐点分析,③販売戦略の策定と進めてきた。これはそもそもゼミで取り組んできた「創業体験プログラム」で学ぶことをベースに設計したものであったが,こちらも女子商マルシェがどのような形で進められるのかもわからず,探りながら毎回の講義を設計した。

これを来年度はもう少しメッセージ性を込めて,「entrepreneurship(企業家精神)とcollective genius(集合的天才)」をテーマに,事業に取り組む意志と,限られた資源や人々の英知を用いて考えられる最大の成果を得ようとすることの意味を,高校生に考えてもらうキッカケづくりをしようとしている。もちろんこれを大学生に学んでもらうためにこの機会を活用しようという算段。

これは今年の講義で痛感した「高校生が持つ企業というものへのイメージの希薄さ」をどう払拭するかに苦労し(当然学生もよくわかっていない)、アルバイトや前年度のマルシェで得た経験がベースになってしまうことへの対応だった。また、以前も書いたように、学校教育の現場ではどうしても目先の結果が優先され、1回の講義でわかっていることを求められる。一方でわれわれの講義はそこを目指していない。基本的な知識や考え方を導入して、グループワークやマルシェ当日に活かせるように導くことを求めている。予定調和された答えではなくて、徐々に見えてくる自分たちなりのモノの見方を養いたいのだ。そもそも見ている視点が違う。

そのため,来年度は①福岡にゆかりのある企業家の物語から企業家精神を学ぶ,②地元で活動する事業家に授業して頂いて,それをもとにワークショップを行う,③経営理念と経営戦略,④損益分岐点分析と販売戦略と,11月までの女子商マルシェまで4回の授業を作り変えることにした。

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上記①はこの方に登場して頂く予定。

そんなことを考えつつ、今日は「②地元で活動する事業家に授業して頂いて,それをもとにワークショップを行う」ために人の事業家にお願いをしに行った。1人は地元で食材を作る4代目経営者,もう1人はUターンで就農して那珂川を代表する農家さんだ。前者の企業は女子商マルシェにも商品をご提供頂いている。

突然の申し出にお2人とも驚きの様子を隠せないようだった。それはそうだ。いきなり「高校生に授業してください。お願いします」と言うのだから。私自身,この仕事をしているから感覚が麻痺しているのだろう。普通に生活していて「授業する」なんてことはない。それをお願いするわけだから,面食らうのも当たり前だ。

ただ,それにはこちらの意図を真摯にお伝えするしかない。

高校生に企業とか,働くということが縁遠いこと。地元で事業を営んでいらっしゃる方が何を考え,何を思っているのか。次世代に何が残せるのか。高校生が何を感じ取るのか。そのメッセージが高校生に大きな影響を与えること。授業を進めるにあたっては大学生にインタビューをしてもらうこと。それは大学生にとっても学びが大きいこと。インタビューをもとにその日の2コマの授業を設計していくこと…。

まだ学生にも明確に伝えていないことを含みながら,このプロジェクトが持っている可能性をお伝えした。

答えは明確に頂くことはできなかったが,それなりに想いは伝わったのではないだろうか。人事は尽くした。あとは天命を待つしかない。短い時間だったが,とても良い時間を過ごさせてもらった。お2人の事業家に感謝である。

地域に教育を通じて貢献していくこと

このような1日を過ごして,改めて感じることがある。それは福岡という大都市を隣にしておきながら,那珂川という街が(春日や大宰府とは違った)まだ地方都市らしさを残しており,それを「遅れている」と捉えるのではなくて街の可能性として捉えられそうだということ。空白があるというか、いろいろな色がある。だから特色が見えない。見えているそこにあるものではなくて,見えていないそこにあるものを伝えるというイメージだろうか。

テレビやSNSから流れてくる画一化された大人の世界への憧れのようなものはあるのだろうが,一方で自分が生まれ育った街あるいは3年間高校生活を過ごした街=足元にあるにも関わらず気づかない街の資源。そこには間違いなく企業家精神を持った事業家がいて,彼らが日々の生活を営んでいる。そうやってこの街が成り立っていることを学ぶ。高校生が社会とのつながりをビジネスを通じてジブンゴトとして捉えられるようになって欲しい。それがビジネス教育の大きな目的の1つなのだろうから。

こうしたことを商業高校で学ぶ高校生に伝えていくこと。そして,伝えるという行為を通じて学生が多くを学んでいくこと。社会がどのように構成され,企業活動がいかにして人々に影響を与えていくのか。これがひいては地域への貢献につながっていくのだろう。

今回,女子商マルシェをキッカケに那珂川という街でさまざまな人に出会うことができている。本当に感謝。この取り組みを通じて,少しでもなにか残せれば幸いである。

(追伸)
女子商マルシェについての新聞記事で当ゼミの活動を紹介して頂きましたが,それを読んだ県内の別の高校から模擬講義の依頼が来ました。

高校からは「創業体験プログラム」を題材としてくださいとのオーダーでしたが,その核心はこの取り組みに強く関心を持っているとのこと。前任校がその学校だったわれわれの窓口になってくださっている先生のもとに「お前のところ面白いことやってるやないか」と電話があったそうです。講義は4月ですが,90分のお時間を頂いたので,プログラムそのものだけでなく,事業を営むことの意義を高校3年生にもわかるようにお伝えできたらなと思います。

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