見出し画像

2020年度のゼミプロジェクトをどう進化(?)させるか?

昨日(4/7)に非常事態宣言が出て,福岡県は全域その対象になった。これを受けて本学も原則入構禁止,講義は4/24から遠隔講義で行うことに決まった。

遠隔講義になろうがなるまいが,きっと大学に来たくない学生もいるだろうと思い,試験的に講義動画を撮影し,Youtubeに限定公開をしていた。これをゼミ生に見てもらい,反応をもらったところ,すこぶる良かった。何をもって「講義を行ったとするか」という定義はまだ定められていない(そもそもそれを実施するためのプラットフォームもない)という問題もあるが,今のところは講義時間にリアルタイムで中継+Youtubeを観てもらうをベースに進めようと思っている。

ということで,春休みが1ヶ月延長になったということもあり,ここ最近は読書したり,研究のことを考えたり,中国語の勉強を再開してみたりとする時間ができている。そんな中で考えた今年のゼミの進め方。

今の状況での頭の整理をしておきたい。主にゼミ3年生向けに書いたものだが,参考までに。

今の課題認識と月次レポートの課題図書

当ゼミでは3年生になると毎月1冊読んで約5,000文字のレポートを課している。2年生夏休み4冊+2年生春休み3冊+3年生前期3冊+3年生夏休み2-3冊+3年生後期3冊だから,就職活動前に15-16冊読むことになる。全然少ない。が,これが基礎体力になると思って続けている。

2年次春休みの課題図書
例えば,この春休みに課している課題図書はざっとこんな感じだ。

1冊目は『ひとりの妄想で未来は変わる』だ。この本の重要だと思っているポイントは,従来の階層型組織を前提としたマネジメントが次第に苦しくなってきて,フラット型あるいはネットワーク型の組織やコミュニティへと移行したとき,そこで持っているべき素養,求められるマネジメントのあり方を提示していることにある。これは私自身が中小企業の管理会計研究を行っている理由ともつながっていることだが,まさに今そうなっている。個人が組織やコミュニティの志・ビジョン・目的にどれだけ寄り添い,内発的動機づけによって自らの能力を発揮できるようにするか。そのためのOS(基本ソフト)として思考を身につけてもらうことを狙いとしている。

これを実践する場として,ゼミでは「創業体験プログラム」と「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」を行っている。前者は伝統的な階層型組織を形成し,講義で学ぶ経営学を身をもって経験し,そこで起きる出来事をもって講義での学びを身体化することを狙いにしている。一方後者は,まさにネットワーク型組織を狙いにしていて,自分たちで定めたプロジェクト課題をジブンゴトとして捉えること,解答が無数あり得る中で自分たちが当座ベストと思える解をどう創っていくかを考えることを狙いにしている。

加えて昨年度からは「女子商マルシェ」に向けた女子高生に授業するという新たなプロジェクトが立ち上がり,2020年度の教育目標として「イノベーション×コレクティブ・ジーニアス」を掲げている。その教育目標を実現するための教科書としてこの本を指定している。

2冊目はこの3年ほど毎年課題図書にしている『起業の科学』だ。この本は新たなビジネスを興すために必要な基本的な要素が詰まっている。MITのビル・オーレットが書いた『ビジネス・クリエーション』も良いテキストなのだが,こちらの方が実践的。困ったときに読み返すようにと指示をしている。

最後はこれまた定番の『MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み』だ。このテキストは少々古くなってきたが,マネジメント・コントロールを学ぶ初学者に導入しやすいと考えている。残念ながらすでに絶版になっており,読むにはKindleかオンデマンドで作ってもらうことになる。目ざとい学生はメルカリで見つけて買っているようだが,復刊して欲しい1冊だ。

マネジメント・コントロール自体も,組織目標の実現のために経営者が管理者や従業員をいかに動機づけするか,どのような仕組みを導入するかについてを論じる理論である。が,それをわかりやすく概念化しているところが使いまわしの良い理論だと感じる。学生が組織マネジメントをするとき,フェーズ,フェーズでどのように仕組みを使い分けるか。これもまたゼミで身につけるべきOSの1つだと捉えている。

この春休み,私が印象に残った本
こう手を打ってのコロナ騒動だ。幸いのこと,台湾でのゼミ合宿を実行することはできたが,3月に入って状況が厳しくなった。奄美大島や岡山・徳島への出張は決行したが,タイへは渡航ができなくなってしまった。学位記授与式も中止。なるべくオフィスに近寄らない日々が続いてきた。

そうした中で,私自身の読書もしっかりできた。最近で言えば,以下の本が印象に残った。

まずはジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』。もとは20年以上前に発売されていたが,読みたいと思いつつ読む機会がなかった。それが今回のCOVID-19騒動を受けて読むことにした。一言で言えば目から鱗が落ちた(安っぽい)。なぜヨーロッパの国々が新大陸を植民地できたのか,逆に新大陸にある国々はなぜ植民地化を防げなかったのかを人類学の視点から考察したものだが,ダイヤモンドはその検証から素朴な理由を提示している。が,これが深い。

食物や家畜がそこにいたこと,食糧生産が始まって人が増えたこと,技術力が高まったこと。それが地理的要因に大きく影響を受けているのだと。

また,新大陸に行った欧州人は武力で彼らを制圧したのも事実だが,欧州人が持ち込んだウィルスの方が大きな影響を与えたのだと。

特に後者については今の状況を踏まえたときに大きなインパクトがあって,その後観たNHK_BS1スペシャル『ウィルスvs人間』で共有されていたウィルスへの危機感が身をもって理解できた。少しだけ教養を持つことができた。

次はこの本だ。

当初は全く読むつもりもなかったのだが,3月末になっていよいよ遠隔講義になるだろうという中,これから生きていく中でオンラインとオフラインをどう接合していくかを考えようと手に取った。

実はこれには前段があって,3月中旬に徳島へ行ったとき,とある中小企業の元経営者と話になった。これからオンラインでできることは何か,仕事はどう変わっていくのか。モノづくり自体はそこで続けることになるのだろうけれども,オフィスワークはどうなるのか。

ちょうど私自身も簿記や会計の「情報システム」としての理解をどうしていくかを考えていた時期でもあったので,思考訓練として議論をした。

特に簿記・会計という視点から見たとき,その中でも管理会計という文脈から見たとき,1950年代末からずっと情報化やOA化という言葉を検討してきた。そこでもたらされたものは何か。

それは,情報が流れるスピードと量が増えることにより,判断するための情報量が増え,速度が早くなったということ。それにより,人間はそれまで以上に大量な仕事・業務ができるようになったということ。しかし,だからといって私たちの生活は根本から変わっていない。

インターネット勃興期の1990年代末,「インターネットは私たちの生活を変える」と言われ,確かに家に居ても買い物ができるようになった。たくさんの情報に触れることができるようになった。便利になった。しかし,私たちがそれによって何か変わったのか。

モノを作る企業はモノを作り,食事を提供する人は食事を提供している。多少効率化したり,能率が高まったりはあるだろうけれども,それが変わったことになるのか。そういう議論だった。

そうした中で,この本を手に取った。ここではかつて私も講演を聞きかじった吉本隆明の思想や,私も好きな『ほぼ日』の糸井重里が何をどう仕掛けているのかという話を書き連ねながら,人は読むから書くことを自然とするようになったのだと記している。そうだ。確かに。自ら何かを発することが当たり前になった社会になったのだ。これまで以上に。SNSがもたらしたものだ。

------
この記事もおすすめです。

------

となったときに,これから来るオンラインが当たり前になる時代。果たして何が起きるのかを考えなければならないと感じた。そうして提示した課題図書が以下の4冊だった(そう今日のテーマはこれです)。

2020年前期+夏休み課題図書
4月は『ファクトフルネス』にした。できるだけ易しい文章の方が良いだろうと課題図書は日本人によるものを指定しているのだが,まずは情報を正しく読み取ることの重要性を理解してもらおうとこの本を課題図書に指定。

台湾合宿前のゼミ補講でも,事実と情報の切り分けについて学生にはその重要性を伝えていたのだが,なかなか実践的に調べてみなさいだけでは伝わらない。ここでじっくり本を読んでその重要性を認識してもらうことが一歩目。

5月は『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』にした。批判的思考を持つための第一歩。とかく「具体的に」「具体的に」と我々のような職業では若い人に説明が求められるのだが,具体例はトリビアとして面白いものの,汎用性が必ずしも高くない。が,いきなり抽象的に考えろというのも難しいので,その重要性が伝わるであろうこの本にした。

6月は先に示した宇野常寛『遅いインターネット』にした。これを読むには大学3年生にはかなり難しく感じるだろうと思うが,だからこそ4月のこの時点で課題図書として提示している。何度も読んで,これから来るであろう世の中のあり様を見通せるようになって欲しい。この本を読む勉強会でもサブゼミでやるかね(きっと誰も参加しない)。

そして,夏休み。2冊のテキストを予定しているが,まだ1冊しか提示していない。その1冊がこれだ。

今,日本が置かれている現状を認識し,どのように未来を切り拓いていくかを考えてもらうための1冊。正直難しい。ただ,これは「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」にしても,「女子商マルシェ」においても,根底に流れている私の課題感から課題図書に指定しているものだ。

「AI×データ時代における」と書いてあるが,果たしてそれが何を変えるのか。それを受け身で待つのではなく,積極的に向き合っていく姿勢を身に付ける。プロジェクトや高校生への授業を行うことを通じて,自分で学んだことをアウトプットしていく。

商学部でプログラミングを学ぶも良し,テクノロジーに触れるのも良し。何を対象に学ぶかは自由。ただし,良質なインプットを同時並行に行っておきましょうねという話。タイトな課題提示だけど,こういう時期だからこそ思考訓練大事。

これからこれまでのような(昭和的)コンテクスト共有がますます難しくなり,オンラインでもオフラインでも自分がナニモノであるのかを伝えられるようになる言葉の力みたいなものの重要性はますます大きくなるだろう。これがまさに「書く」時代のインターネットによって生み出される価値観なのだけれども,果たしてそうなのだろうか。こういったことを考える時間にしたい。

最後に:こういう問題意識も共有しておきたい

さ,冗長にもほどがあるけど,本の紹介ばかりになったこの記事。最後に昨日,今日で読んだ印象に残った記事をまとめて終わりにしよう。

1つ目は,愛知県豊橋市で糀屋三左衛門という会社を営まれている村井裕一郎さんのnote。この『分断』という表現が「すでに起きている未来」なのかもしれないと感じた。上でも書いた徳島での対話と同じような話だ。糀を作る仕事を代々やってきた家だからこそわかるモノづくりの息の長さが伝わってくる。

実は、世の中の多くは、そういう『ロボットに(物理で)出来ない仕事』で構成されているのではないでしょうか。

モノを作っている現場にある効率性と非効率性。

これから来る社会の中でどう折り合いをつけていくのか。商学部にいる私たちはもっと考えていかねばならない。

2つ目は,京都大学で風力発電の研究をされている安田陽先生の記事。この記事でもずっと書いてきた情報の読解力問題について記したもの。このような記述があります。

誰も「正解」がわからず、不確実性があると人々は不安になりがちですが、それはそもそも科学に「絶対」や「正解」があるものと過度に期待していたことに起因する可能性があります。その反動で少しでも不確実性があると科学に失望して心の拠り所を失うというというのであれば、それは両極端な振り子の振れに過ぎません。初めから科学には不確実性がつきものだと悟り、「完璧」ではないが「有用」、「絶対」ではないがある程度の精度で「確からしい」、「科学で何でも解決できる」ではなく「科学を進歩させることにより、不確実性がより少なくなる」というスタンスで科学と付き合うことが必要かもしれません。

私たちのような大学人には当たり前の話なのですが,どうやら外に出るとそうでもないようです。確かに学校教育の現場では長らく唯一絶対の解答がある(んなわけない)と教えられている気になる環境があります。が,COVID-19によってこれだけ世の中の不確実性が高まっている中で,何をどう読み取って生きていくか。正しい知識を持ち,目の前にある情報を判断できる軸を育てる。大学にできることはたくさんあるように思うのです。

前回の投稿ではまだモヤモヤしていたのですが,これらの記事を読んで,私にとってなされるべきことが何であるかが少しだけ見えた気がします。

この数年,福岡という大都市にいながら地方を考え,中小企業やスタートアップのような小さな企業がどう生きているかを考え,実践を通じて教育のあり方を考えてきたのですが,その問題意識の多くは理論と実践にあるズレであり,地方と都市部のズレであり,日本とアジア諸国(特に中韓台)の間にあるズレであり,効率化と非効率化のズレといったズレに問題意識があるのだと。

このズレを正すのではなく,ズレをズレとして認識しておきながら,より良い社会(誰もが公平公正に生きていくことができる世の中)を構築していくにはどうすれば良いのか。

幸い,今年は地域に根ざした活動ができるプロジェクトが多数立ち上がりそうだ。それにオンラインでやらねばならないという制約が加わることで難しさも増すのかもしれない。今回の機会は「自ら創り出した」ものではないが,これがゼミのプロジェクト自体をさらにアップデートさせるものになるだろうとは思っている。

教化ではない。共生とは耳障りが良い表現だけど,ちょっと違う。そういうわかりやすくて,当たり前の話をしたいのではない。個が個として独立していることが前提で,互いを尊重し合う社会をどう構築していくか。ビジネスはあくまでもその手段に過ぎないのだよね。

舵取りはゼミ生個々人がやるのだけれども,どこに向かおうとしているのかが少しでも伝われば2時間近くかけてこの記事を書いた価値がありそう。

かなり長い記事になったけど,これが今年のゼミで目指していきたいことなのかなと感じています。ここまで読んでくれてありがとう。

やっと目標ができた。良かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?