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確実な進歩が見えたこの1年:2020女子商マルシェふりかえり

早いもので2020年度も終盤に差し掛かっている。11月21日-22日に行われた女子商マルシェでの販売から約3週間が経過し,この日(12月11日)は,福岡女子商業高校(通称:女子商)が「福大コラボ」と呼ぶ出前授業の最終回であった。

第1回授業は7月に行われ,このときは前期がオンライン講義で進む中でようやく対面講義ができるようになった時期であり,2020年度初めての対面講義がこの「福大コラボ」であった。その時の模様は下記の通り。

その後,10月と11月にそれぞれ授業を行い,女子商マルシェでの販売実習を経て,この日が最終回であった。

共通テーマを設定しつつ,学年ごとに深度を変えたことが成功要因

昨年からこの取り組みを始めているが,昨年は初年度ということもあり,高校生の理解度,レベル感を掴みながらの授業で,必ずしも十分な内容の講義を届けられてはいなかったように思う。

それを今年は昨年のふりかえりを経て,共通とするテーマは設定するものの,学年ごとに講義深度(進み方ではなく,深さ)を変えるようにした。つまり,第1回のアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスを受けての第2回は経営理念と経営戦略,第3回は損益分岐点分析と当日の販売戦略,最終回はふりかえりという基本テーマはあるものの,生徒の理解度に応じた対応を図ろうとした。

例えば,第2回で言えば,1年生は企業の経営戦略を学習するために彼女たちに馴染みのある企業の経営戦略を調べるワークを導入したり,2年生と3年生は第1回授業で登場したソフトバンク・孫正義氏が出演した番組で述べていたビジョン→理念→戦略→計画という一連のプロセスを頭に入れた上で,2年生は理念と戦略のつながりを,3年生はさらにマネジメント・コントロール・システム(Management Control System)まで説明して戦略の実行まで落とし込むといった形で進めた。

加えて,今年は各回の授業前に予習課題を出し,事前に動画でその内容を観てワークシートに記入してから授業を行うようにしたことで,生徒は事前に内容を知ることができるし,わかった点とわからなかった点を抽出した上で授業に臨むことができるようになった。また,学生側も事前動画+当日のワークというセットで授業を設計することができた。反転授業の教材を作ることは苦労しただろうが,コロナ禍でオンライン講義に馴染んだ彼らだからこそ,どのように事前動画を作成するのかについての暗黙知を十分に備えていたのだろう。各回の動画を観るとその進歩がよく分かる。

例えば,3年生向けの動画はこんな感じ。

第2回講義の事前予習動画
第3回の事前予習動画

こうした授業を経て,女子高生たちは女子商マルシェ当日に臨み,販売実習を行った。先の記事にも上げたように,今年は七隈祭の中止を受けて,私たちも出店し,無事に商品を完売することができた。

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今年は「地方産品を福岡に」をテーマに3年生は対馬の海産物を販売

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2年生は日南の地鶏を使ったパニーニと日南レモンのシロップを販売

こうして最終回のふりかえりの授業を迎えた。

2020年度女子商マルシェを女子高生はどのようにふりかえったのか?

これは昨年も彼らに伝えたことではあるが,これまでの授業と最終回は決定的に異なる。これまでの授業は基本的に知識を伝達し,それをもとに彼女たちに考える機会を作ることに主眼がある。つまり,こちらが設計した授業を理解してもらうことに力点がある。一方で,今回のふりかえりは,言語化してもらうことが基点にある。つまり,彼女たちが経験したことを思い出し,言葉にすること無くしては授業にならない。よって,大学生は高校生の言葉を(ストレス無く)いかに引き出すかが鍵になる。去年の授業のあとでもこんなふりかえりをしていた。

そんな話をしていたこともあり,今回のリーダー(授業設計を担う)たちはどうするかを悩んでいた模様。

そこで彼らに伝えたのは,①アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスや経営理念,損益分岐点分析やマネジメント・コントロールといった授業内容がどのように反映されたのかを考えてもらうように導くこと,②行動経済学のプロスペクト理論を使ってリスクへの認識を行うこと(Affordable Lossという考え方を知る)の2点。これを踏まえて作成した事前動画がこちら。今回は3学年共通の内容になった。

学生が経験した女子商マルシェのふりかえりをもとに動画を作成
(Youtubeへのリンクです)

今回のふりかえりでは,1年生は「できた=できなかった」軸に自分たちの経験を言語化することを事前課題とし,それを事前の想定と結果の一致,ズレを確認していく作業を,2年生は1年生の作業に加えて経営理念との一致を確認,3年生は2年ゼミでのふりかえり同様に,自分たちの経験を「できた=できなかった」軸に「意図した=意図していない」軸を加えて体系化して把握するとともに,マネジメント・コントロールの理論を踏まえて自分たちの行動を理論的に取り組むというワークになった。

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これから授業開始。3年生のPJリーダーにとっては最後の授業。

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3年生のワーク。事前課題に基づいて自分たちの経験を言語化する。

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半年少しで培った自分たちの経験を言語にするとこれだけの数になる。

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3年生はできなかった原因分析まで実施。そしてその改善策まで提案。

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1年生はできたこと,できなかったことを確認するワーク

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2年生はグループでの議論の内容を黒板を使ってシェア

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2年生の事前課題シート(その1)

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2年生の事前課題シート(その2)

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授業終了後は学年ごとにふりかえり

このようにして2020年度の女子商での授業は大団円を迎えることができた。2年目の高大連携授業はコロナ禍で正直どうなるかわからなかったが,「災い転じて福となす」ではないが,この状況にうまく対応し,プロジェクトそのものを進化させることができたのではないかと感じている。

特に,七隈祭が中止になり,ゼミの根幹とも言える創業体験プログラム(創P)の実施が危ぶまれた中で,校長に無理を言って出店したことがかなり功を奏した。創Pにとっては,先の投稿でも触れたように初めて物販を行ったこと,地方の産品を販売する機会を創れたことであるが,このプロジェクトにとっては大学生が出店したことでロールモデルとなれたこと,女子高生が認識するであろうリスクを大学生も同じように体感できたことが挙げられるだろう。

結果,第4回のふりかえりは,理屈だけでなく,大学生も高校生も共有した経験をもとに授業を進めることができ,互いのコミュニケーションが円滑になったように感じた。

アンケート結果

今年はGoogle Classroomを有効活用したこともあって,最後は授業評価アンケートを実施した。授業を受講した約90名の半分程度の回答ではあるが,ほとんどの学生が授業について「わかりやすかった」「わかりやすかった」と回答しているし,上記画像を見ても経営理念が最も役に立ったと答えている。

なぜかと理由を尋ねたところ,マルシェに向けた準備や当日の活動を行っている時に,「なぜわたしたちはこのような活動を行っているのか?」「この対応は果たして経営理念を実現しているものなのか?」という問いを自分たちなりにしていたとの回答が多数寄せられた。また,生徒同士のディスカッションでも,「この判断は経営理念に沿ったものか」という判断軸で意思決定が行われていたとのこと。

また,コレクティブ・ジーニアスについても役立ったという意見が多くあったが,これも「話し合いの中でみんなの意見を引き出そうとした」とか,「店長としてどうやって周りの協力を引き出すかを考えた」とか,「普段の生活でも頭に置いて活動したい」といった意見も見られ,まずは授業としての狙いが生徒さんに浸透していたことがよくわかった。

言語化と体系化の重要性

この最終回のワークの進め方は,基本形はゼミ生であれば2年次に経験するふりかえり方法ではあるものの,そこから高校生にどう落とし込むかは学生だけで考えたもの。そこにたくさんのヒントをもらえた。特に,言語化の次に進めるべき体系化をいかに行うか,体系化の重要性である。これまでもなんとなく理解していたつもりだし,なんとなくやっては来ていたけど,これをどう設計するか。大学生向けにはかなりざっくりやってきたけれども,高校生向けにガッツリ踏み込む形でワークを学生が作ってくれたおかげで,大学1年次の基礎ゼミの進め方を再考することができた。

ふりかえりを行う前に忘れないようにと,次のような投稿を学生にしていた。

言語化して体系化しなければ情報にならない。そうして作られた情報は直ちに過去の遺産となり、価値が低下していく。しかし、言語化して体系化できないと情報にならないから、他者に自分の考えや意図を伝達できない。
よって、自己の体験を言葉にする作業が大事だし、フレームワークを使って体系化する作業が大事。これができるようになると自走できる。いくらフレームワークを教えても、まずは言語化。
元々わかっていたことだけど、こうやって学年ごとの課題が出てきたことが今年のマルシェの到達点の1つ。来年のこの取り組みでなされるべきことが見えましたね。
マルシェまで「自分たちの想い・考え→言語化(アントレとコレジニ/経営理念)→体系化(戦略・計画)→マルシェ当日」
マルシェ後(ふりかえりの中身)「経験→言語化→体系化」
Keywordとして、アントレとコレジニ→リスクに対する姿勢(リスク管理)/期待値。
来年に向けて2-3年生は期待値(目標売上高や利益)を達成するためのロジックの構築、組織目標の言語化、体系化の強化。1年生は今年の授業をベースに言語化するためのプロセスを決定的に鍛える。

また,この日のふりかえりをうけて,ある学生はゼミで行っているふりかえりを次のように図示してくれた。

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こうやってふりかえりの設計図を作ってくれる学生が現れることでどれだけ助かることか…。

ここまで2年間やってきて,この取り組みの良いところは,大学生自身が講師役となることで,自分が曖昧にしている理解を(厳しい言い方すると)許さない=学生自身で言語化し,体系化しなければ高校生に伝わらないという点にあると感じる。だから,学生が一番勉強になっているはずだ。

次に,大学1年生を見ていて(基礎ゼミなどで)感じる言語化は,一定の状況を創り出せば高校生でも十分にできる。必ずしも偏差値が高くはない高校でも,自分の経験をそれなりに言葉にすることができる。言葉にしなければ,自分の経験をふりかえることもできない。言葉は自分の行為に意味を与える。そして,その意味を自分自身でふりかえり,体系化することができれば,大学での学びにスムーズに移行することが可能かもしれない。

この取り組みだけではなく,高校での指導が最たる要因ではあるが,本年の同校3年生の進路がこれまでになかった結果になっているらしい。在校生のうち,2割強が4年生大学,2割弱が短期大学,2割強が専門学校,2割弱が就職という結果になり,特に4年生大学ではこれまでの指定校推薦に加えて,長崎大学7名や福岡大学8名という結果になったそうだ。

嬉しいことに推薦入試の自己PR文には福大コラボでの活動について書いてくれたそうで,面接では具体的に何をやっているのとさんざん面接官から問われたらしい。

ここでの学びが彼女たちの学生生活にどんな影響を与えるのかがわからないが(事後調査ができるなら本当はしたい),少しでもこの機会が影響を与えているのであれば望外の喜びだ。

来年度以降に向けて

ということで,着実な進歩ができているこのプロジェクトは来年も継続が決定。さっそくカリキュラムを作り,学生には伝えた。

今回初めて参加した来年度のプロジェクトリーダーは「これ,当日の授業はもちろんですけど,事前準備が大変そうですね(汗)」と答えていたが,ここまで整備された状態でプロジェクトを引き継ぐのだから,さらに進化できるように日頃の勉強をしっかりしてもらいたいですな。

また気づいたことがあれば,ここに記したいと思うが,だいぶ長くなったのでとりあえずはここまで。

改めて,頑張ってくれたゼミ生,よくついてきてくれた女子高生,そしてこのような学びの機会を提供してくださっている先生方に感謝を申し上げる。

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